マーケティングを効果的に行うには、顧客のニーズを正確に把握することが不可欠です。その中でも特に重要な概念が「ニーズの深さ」と「ニーズの広さ」です。これらを理解することで適切な戦略を立てることができ、より効果的なマーケティング活動を展開できます。
この記事では「ニーズ」の深さと広さについて事例を交えながら詳しく解説していきます。
ニーズの深さと広さとは?
顧客のニーズを把握することは事業を行うえで無視できない活動になります。顧客のニーズを把握することで自社の商品やサービスの売上に直結するからです。
この顧客のニーズを把握するうえで必要なことは「深さ」と「広さ」を理解することです。深さと広さを知ることで立てるべき戦略が異なるからです。
ニーズの深さとは、自社で年間1000個の商品が売れた際に「100人が10個購入」してくれるような状態です。この状態は顧客が特定の商品やサービスに対して持つこだわりや愛着の度合いを指していると言えます。
一方でニーズの広さとは1000個の商品を「1000人が1個ずつ購入」してくれる状態です。ニーズの広さはその商品やサービスを必要とする顧客層の範囲を表します。ニーズが広いことは万人受けするものと言い換えることもできるでしょう。
ニーズの深さの特徴
ニーズが深い商品には以下のような特徴があります。
- 顧客の強い愛着
- 高いブランドロイヤルティ
- 価格に対する感度が低い
- リピート購入率が高い
例えば、たばこは典型的なニーズが深い商品です。愛煙家がたばこを購入する際に「銘柄」を指定して購入する光景を見たことはありませんか?愛煙家は特定のブランドに強いこだわりを持ち、簡単には他のブランドに乗り換えません。
また化粧品もその1つと言えるでしょう。気に入った商品があれば、同じ化粧品を使い続けますし、同じブランドで揃えようとするケースも少なくありません。
つまり顧客のロイヤルティが高く、競合他社の製品に簡単には乗り換えません。このことからニーズの深い商品は顧客にいかにリピートしてもらうかが重要な戦略となります。
ニーズの広さとは
ニーズの広い商品の特徴は以下の通りです。
- 多様な顧客層に受け入れられる
- 市場規模が大きい
- 競争が激しい
- 新規顧客の獲得が重要
ニーズが広い商品は、幅広い年齢層や性別、あるいは様々な業種の企業に受け入れられます。例えばミネラルウォーターはニーズが広い商品の一例です。年齢や性別を問わず、多くの人々が日常的に利用するからです。
しかしミネラルウォーターはこのメーカー、このブランドでないとダメ!と指定することはほとんどありません。なぜなら「水」の味違いは一般の方にはほとんどわからず、ただ喉を潤せれば良いという用途で購入することがほとんどだからです。
ニーズに深い商品に比べて1回きりの購入になることも少なくないため、ニーズの広い商品は1人でも多くの人に買ってもらえるかが大切な戦略となります。
ニーズに応じたマーケティング戦略
ニーズの深さ・広さに応じて取るべき戦略が異なることは想像できるかと思います。ここでは具体的なマーケティング戦略について考えてみましょう。
ニーズが深い場合
ニーズが深い商品やサービスの場合、顧客のロイヤルティを高め、リピート率を向上させる施策が重要になります。
1. 顧客体験の向上
ニーズが深い商品はいかに顧客の心をつかめるかが重要となります。競合と似たような商品・サービスであっても顧客満足度を高めることで、ブランドへの愛着を深めることができます。その施策が顧客体験の向上です。
- 製品やサービスの品質を継続的に改善する
- カスタマーサポートを充実させ、迅速で丁寧な対応を心がける
- 購入前後のサポートを強化し、顧客の不安や疑問を解消する
最近はレピュテーション(評判)が収益に影響を及ぼしやすくなっているため、顧客の満足度を高めるにはどうすればよいのかを常に考慮した施策を行う必要があります。
2. パーソナライゼーション
一人ひとりのニーズに合わせたアプローチを取ることで、より顧客と深い関係性を構築できます。これはブランド力を強化するうえでも重要であり、顧客の期待を超える体験を提供できるためパーソナライゼーションを導入するECサイトなども増えています。(反発する人たちもいますが…)
Amazonは閲覧履歴に基づくおすすめ商品をTOP画面で表示したり、楽天では最近チェックした商品、お気に入り商品、もう一度購入するといった新規購入やリピートを増やすためのシステム構築をしっかりと行って、パーソナライゼーションを図っています。
3. ロイヤルティプログラムの導入
特典や報酬を通じて、顧客の継続的な利用を促進する方法もあります。ポイント制度を導入して、購入金額に応じてポイントを付与する仕組みはほとんどのサービスで導入されています。
またAmazonのPrime感謝祭やPrime Dayといった会員限定の特別セールやイベントの開催、長期利用者向けの特別な優遇サービスの提供も満足度を高める施策となります。
4. コミュニティ形成
ニーズを深める施策としてブランドを中心としたコミュニティを作ることで、顧客同士の交流を促進しブランドへの愛着を深めることもできます。
良い例がハーレーダビッドソンやSnow Peakです。
ハーレーダビッドソンは「ハーレー・オーナーズ・クラブ」により、同じ大型バイクを所有するもの同士でツーリングやキャンプをおこない絆を深めています。Snow Peakはスタッフと泊まりがけでキャンプを楽しむ「スノーピークウェイ」を開催して、商品に関する情報交換を行うことコミュニティを形成しています。
こうした取り組みにより顧客の声を製品開発に反映させ、ブランドへ愛着とリピート促しているのです。
5.プレミアム戦略
ニーズが深い商品は価格感応度が低い傾向にあるため、プレミアム戦略が効果的です。価格感応度とは製品やサービスの価格が消費者の購買行動に与える影響を数値化した尺度のことです。簡単に言えば、値段によって欲しいものが変わるかどうか状態です。
「価格感度が高い」顧客は価格の変化に敏感に反応して、買うか買わないか考えて行動します。一方「価格感度が低い」顧客は価格が多少上がっても購入してくれるため、売れる数が大きく減らないといった状態です。
ニーズに深い商品はブランドロイヤリティが高ければ、現在の商品よりも安いものを提供するのではなく、高付加価値の製品を開発・販売することや、VIP顧客向けの特別なサービスの提供をする方が良いという事です。
コーヒーチェーン店のスターバックスは、スターバックスに愛着のある顧客のため「スターバックス リザーブ ロースタリー 東京」という世界でも数少ない焙煎機を備えた高級店を展開しています。ここでは1杯1,000円以上するメニューがならんでいます。
6. ブランドストーリーの強化
ブランドの背景にある物語や価値観を伝えることで、顧客と感情的なつながりを作りだすことも大切な取り組みです。
これは商品やサービスではなくブランドへの信頼を築いてもらうために、「ブランドの歴史や創業者のストーリーを積極的に発信する」「企業の社会貢献活動や環境への取り組みを紹介し共感を得る」といいた活動を行います。
企業がSDGsに対する取り組みを近年よく発信するのもこうした背景があると言えるでしょう。
ニーズが広い商品
ニーズの広さを高めるためのマーケティング戦略は、幅広い顧客層に製品やサービスを訴求し、新規顧客を獲得することに焦点を当てる施策を取るのが一般的です。
1. 幅広い広告展開
幅広い広告展開は、ニーズが広い商品やサービスのマーケティング戦略において非常に重要な要素です。この戦略の目的は多様な顧客層に効果的にアプローチし、ブランドの認知度を高め、潜在的な顧客を獲得することです。
多様な媒体を活用して、より多くの潜在顧客にリーチする手法をとります。
- テレビCM、ラジオ広告、新聞広告など、従来型のメディアを活用
- インターネット広告(ディスプレイ広告、動画広告など)を積極的に展開
- SNS広告を活用し、ターゲットを絞った広告配信を行う
なお多様な媒体を活用するため広告費が多額になる傾向にある点は注意しておく必要があるでしょう。
2. インフルエンサーマーケティング
ニーズの広い商品は多様な年齢層や性別、興味関心を持つ人々に受け入れられる可能性が高いため、適切なインフルエンサーを選択することで、その多様な層に効果的にアプローチできます。
特に若年層を中心に強い影響力を持つインフルエンサーを活用することで、従来の広告手法では届きにくかった層にもメッセージを届けることが可能になります。
また商品やサービスの使用シーンや活用方法を具体的に示すことで、潜在的な顧客の興味を喚起し、新たなニーズを掘り起こすことも可能となります。
幅広い層に影響力のあるインフルエンサーとのコラボレーションを行い、SNSを活用して商品やサービスを紹介してもらうことは従来の広告手法と比べてコストパフォーマンスが高い場合が多く、投資対効果が高くなる可能性があります。
3. 多様な販売チャネルの活用
ニーズの広い商品ではできるだけ多くの潜在顧客にリーチするために、複数の販売チャネルを効果的に組み合わせるマルチチャネル戦略が重要です。これにより顧客との接点を増やし、購入する機会を最大化することができます。
具体的には以下のような方法が考えられます。
- 実店舗とECサイトの連携
実店舗では商品を直接見て触れる体験を提供し、ECサイトでは24時間いつでも購入できる利便性を提供します。両者を連携させることで、店舗で見た商品をオンラインで購入したり、オンラインで在庫を確認してから店舗に足を運んだりするなど、顧客の購買行動の選択肢を広げることができます。
- オンラインマーケットプレイスの活用
AmazonやRakutenなどの大規模なオンラインマーケットプレイスを活用することで、既存の顧客基盤にアクセスし、新規顧客の獲得を容易にします。これらのプラットフォームは信頼性が高く、多くの消費者が日常的に利用しているため、売上を確保しやすいという特徴があります。
- 自社ECサイトの運営
自社のECサイトを立ち上げることで、ブランドイメージを強化し、顧客との直接的な関係を構築できます。また、顧客データを直接収集・分析することが可能になり、よりパーソナライズされたマーケティング施策を展開できます。
- カタログ通販やテレビショッピングの活用
デジタルチャネルに慣れていない顧客層にもアプローチするため、従来型の販売チャネルも併用します。特に、商品の詳細な説明が必要な場合や、高齢者層をターゲットとする場合に効果的です。
4. パートナーシップの構築
幅広い顧客層に受け入れられるために、多様なパートナーとの協力関係を構築することでより大きな市場シェアを獲得できる可能性があります。他社との協業により新たな顧客層にアプローチすることで、互いの利益を尊重しwin-winの関係を築くのです。
- 異業種とのコラボレーション商品を開発
- 他社のサービスとの連携や統合を行い、付加価値を高める
- 地域や業界のイベントに参加し、ブランドの露出を増やす
パートナーシップを通じて、商品の付加価値向上、新たな市場開拓、効率的な生産・販売体制の構築など、様々な面でビジネスを強化することができます。これにより、ニーズの広い商品の市場競争力を高め、持続的な成長を実現することが可能となります。
補助金の加点項目にもなっている「パートナーシップ構築宣言」にあるように、特に中小企業パートナーとの取引においては、適正な取引慣行を遵守し、サプライチェーン全体の共存共栄を目指すことが求められていますので、ぜひ活用したいところです。
5. コンテンツマーケティングの強化
直接的な広告だけでなく有益なコンテンツを提供することで、潜在顧客の興味を引き、ブランドへの信頼を構築します。例えば以下のようなコンテンツを利用する方法があります。
- ブログ
- メルマガ
- YouTube
- SNS(X,Instagram,TikTok)
- セミナー
- イベント
顧客のお悩みや業界のトレンドを定期的には発信したり、オンラインとオフラインのハイブリッド形式でより多くの参加者を集めることが重要となります。このとき参加者の連絡先を収集し、フォローアップのための見込み顧客リストを作成することも1つの狙いでもあります。
これらの戦略を組み合わせて実施することで、ニーズの広さを高め、新規顧客の獲得につなげることができます。ただし、各戦略の効果は業界や商品特性によって異なるため、自社の状況に合わせて適切な戦略を選択し、継続的に効果を測定しながら改善を重ねていくことが重要です。
新規顧客の獲得には時間やコストがかかる場合があるため、営業の効率化や顧客情報の徹底管理などのポイントを意識しながら、自社に適したアプローチ方法で取り組みを進める必要があります。
ニーズに応じた事例紹介
ニーズの深さとApple
Apple信者と言われる人がいるほAppleは圧倒的なブランド力を有しており、ブランドコンサルティング大手の米インターブランドによると世界ブランド価値で11年連続Appleは首位をキープしています。Appleは製品の高い品質とデザインにこだわることで顧客の深いニーズに応えているからこそ、選ばれる企業となっているのです。
(参考)インターブランド「Best Global Brands 2023」レポート
Appleの売上60%近くを占めるのがiPhoneです。日本人はiPhone利用者が多く、みんながiPhoneを持っているからという理由で購入する人の少なくないでしょう。これはまさにブランド力の賜物です。
他にもiPhoneが選ばれる理由はいくつか存在します。
- 洗練されたデザイン
- 高品質な製品
- 使いやすいインターフェース
- 豊富なアプリケーション
- ブランドへの信頼
- 他のデバイスとの連携(Mac・iPad・Apple Watch等)
iPhoneはAndroidのスマートフォンに比べて高価格となっていますが、こうした顧客満足度を高めるような商品を開発しているからこそ、アップルは強固なブランドロイヤルティを持つ顧客基盤を構築しているのです。
ニーズの広さとユニクロ
ユニクロは老若男女問わず着用できるベーシックな衣料品を中心に展開することで、多様な顧客層にアプローチしています。
例えばヒートテックのような機能性インナーは、寒さ対策という普遍的なニーズに応える商品として、幅広い層に支持されています。またヒートテックだけではなくエアリズムといった夏の機能性インナーも季節によって販売することで年間を通して着用できる商品を展開していることも選ばれる理由の1つです。
ユニクロは高品質かつ低価格という戦略を採用することで「安くて良いもの」を求める幅広い層のニーズに応えています。これはコストリーダーシップ戦略と呼ばれ、SPA(製造小売業)モデルを採用することで実現しています。
一方、ユニクロは流行の短期化に対応するため、定番商品の改良や新商品の開発も継続的に行っています。これによりファッションに敏感な層から、機能性重視の層まで、幅広い顧客ニーズに対応しています。
さらに実店舗だけでなく、オンラインストアも積極的に展開し、顧客の購買スタイルの多様性に対応しているからこそ、国内外で急速に成長し、グローバルブランドとしての地位を確立できたのです。
まとめ
ニーズの深さと広さを理解し、適切な戦略を立てることは、効果的なマーケティング活動の基礎となります。以下の点を押さえて、自社の製品やサービスに最適な戦略を構築しましょう。
- 自社製品・サービスの特性を把握する
ニーズの深さと広さの観点から、自社の提供する価値を分析します。 - ターゲット顧客を明確にする
ニーズの深さと広さに基づいて、最適なターゲット顧客を設定します。 - マーケティングファンネルに沿った施策を検討する
顧客の購買プロセスに合わせて、適切なマーケティング施策を計画します。 - 継続的な分析と改善
実施した施策の効果を定期的に分析し、必要に応じて戦略を修正します。 - 顧客との関係性構築
ニーズの深さや広さに関わらず、長期的な顧客との関係性構築を目指します。
マーケティングは常に変化する顧客のニーズと市場環境に対応する必要があります。ニーズの深さと広さの概念を理解し、柔軟に戦略を調整することで、より効果的なマーケティング活動を展開できるでしょう。この記事で紹介した概念や戦略を参考に、自社の製品やサービスに最適なマーケティングアプローチを見つけてください。
マーケティングの種類についてはこちらの記事で解説してます。