「『〇〇さんの自宅での生活を維持したい』というニーズ、もっといい言葉で表現できないかな……」
利用者ご本人やご家族の表情、面談で交わした会話、頭の中にあるイメージは確かにあるのに、それを文章として書き出すと、なぜか平たく、いつもの言い回しに収束してしまう。
ケアマネジャーの仕事の中で、この「言葉が出てこない時間」は意外と多くの時間を奪っています。
近年、この場面でAI、特にChatGPTやClaudeのような汎用の生成AIを「アイデア出しの相棒」として使うケアマネが少しずつ増えてきました。
ここで重要なのは、AIにケアプランを「決めてもらう」のではなく、「言葉や視点を広げる相棒として使う」という線引きです。
最終的な判断は、利用者と直接対話しているケアマネ自身にしかできない仕事だからです。
この記事では、ケアプラン作成のアイデア出しにAIをどう使うか、現場目線で5つの活用法に絞ってお伝えいたします。
なぜケアプラン作成で「AIアイデア出し」なのか

ケアプラン作成は、ケアマネジメント業務の中でも特に時間を要する仕事の一つです。
全国社会福祉協議会・中央福祉人材センターの2025年7月調査では、ケアマネジャーの有効求人倍率は8.77倍にのぼり、全職種平均(1.22倍)を大きく上回る人材不足の状況にあると報告されています。
ひとりで多くの利用者を抱えるケアマネも少なくなく、一人のケアマネが抱える件数は減らないのに、書類業務の精度・表現の質は求められる。この矛盾を埋める一つの選択肢として、AIの活用が注目されているわけです。
ただ、誤解してはいけないのは、AIはケアマネの代わりではないという点です。
利用者の生活背景や、ご家族の温度感、訪問のたびに変わる小さな変化など、こうした人の機微を読み取るのは、AIには代替できない領域です。
その前提に立ったうえで、AIが得意な作業だけに切り出して任せる。これが現実的なAI活用のスタートラインです。
AIをアイデア出しに使う5つの活用法

活用法①:ニーズ・目標の「言い換え」
ケアプラン第2表で最もよく相談を受けるのが、ニーズや目標の文言です。
「外出機会を増やしたい」「自宅での生活を続けたい」いつも似た言い回しになってしまう、と感じたことはないでしょうか。
このとき、AIに「言い換えを5パターン出してください」と頼むのは非常に有効です。
あなたは日本語表現に強いライティングアシスタントです。
以下の介護現場におけるニーズ文を、利用者本人の前向きさが伝わる表現で
5パターンに言い換えてください。
【元の文】
「外出の機会を増やしたい」
【条件】
- ですます調ではなく、ニーズ欄に書く体言止めまたは「〜したい」で揃える
- 抽象的になりすぎず、生活感のある言葉で
- 利用者本人の主体性が伝わる表現にする
- 個人情報は含めません
出力された5つの案をそのまま使うのではなく、「この中で利用者さんの言葉に一番近いのはどれか」を選び、必要なら言葉を足し引きする。
これが現場で機能する使い方です。
活用法②:「抜け漏れチェック」
ケアプランを書いていると、自分の経験則の枠内で発想が固まってしまうことがあります。
そんなとき、AIに自分が見落としている視点を質問するのがアイデア出しとして役立ちます。
あなたは介護福祉分野に詳しい相談相手です。
以下のような状況にある高齢者のケアプランを検討しています。
ケアマネジャーが見落としやすい視点・課題を10個挙げてください。
※実在の人物ではなく架空の事例として一般論で答えてください。
【架空の状況】
- 80代女性、独居
- 軽度の認知症あり
- 転倒歴1回、現在は屋内歩行可能
- 子どもは遠方在住で月1回訪問
- 趣味は園芸、現在は外出機会が減少
ポイントは、実在の利用者の情報は入れないことです。
年齢層・性別・主な状況といった一般化された条件だけを伝え、視点の幅を広げる目的で使います。AIが出した10個の視点のうち、自分の経験と照らして「これは確かに考えていなかった」というものを2〜3個拾えれば十分な収穫です。
活用法③:ご家族への説明文を作ってもらう
ケアプランをご家族に説明する場面で、専門用語をそのまま使うと伝わりにくいケースがあります。かといって、毎回ゼロから噛み砕いた言葉に変換していると時間が足りません。
AIは、専門用語を含む文章を「やさしい言葉に置き換える」作業は得意です。
以下の介護用語を含む説明文を、80代のご家族にも伝わるやさしい言葉に
書き換えてください。専門用語は補足を加えて説明してください。
個人情報は含めません。
【元の文】
「ADLの維持を目的とし、機能訓練を週2回、IADLの再獲得に向けては
通所リハビリを併用していく方針です」
出てきた文章をそのまま使うのではなく、自分の言葉のリズムに合わせて手直しする。これだけで、ご家族との説明場面の負担はかなり軽くなります。
活用法④:レクリエーションや在宅活動のアイデア出し
ケアプランの「サービス内容」の欄や、デイサービス・訪問サービスでの活動提案で、ネタが尽きてくる場面があります。
このとき、AIに「条件に合う活動アイデアを20個」と頼むと、自分一人では思いつかない切り口が出てきます。
以下の条件に合う、高齢者向けの在宅でできる活動アイデアを20個挙げてください。 個人情報は含めません。一般論として答えてください。 【条件】 - 椅子に座ったままできる - 道具はほぼ使わない、もしくは家庭にあるもののみ - 認知機能の維持にもつながる - 1回10〜15分でできる - 季節(春)を感じられる要素を入れる
20個出してもらえば、現場で使えそうなのはだいたい3〜5個。
残りは「これは無理」「これはご本人に合わない」と捨てていけばいい。捨てる前提で大量に出してもらうのがコツです。
活用法⑤:サービス担当者会議・モニタリング記録の「論点整理」
「サービス担当者会議の前に、論点を整理しておきたい。」「モニタリング記録を書く前に、確認すべき項目を漏らしたくない。」
こういう場面でも、AIに「確認すべき論点をリスト化して」と頼むと役に立ちます。
独居の高齢者で、最近転倒があった方のサービス担当者会議を行います。
ケアマネジャーが会議で確認すべき論点を、優先度順に10個リストアップしてください。
一般論として答えてください。個人情報は含めません。
出てきたリストはそのまま使うのではなく、自分の頭の中にあったチェックリストの「抜け漏れ確認用」として使う。これが使い方の正解です。
AIをアイデア出しに使うときの3つの注意事項

ここまでの活用法は、すべて注意事項を守ることが前提です。
注意①:実在の利用者情報は入力しない
- 利用者の氏名・年齢・性別
- 住所
- 家族構成
- 利用している事業所
こうした情報は、生成AIに絶対に入力しない。これが大前提です。
個人情報保護委員会も、生成AIの利用について「入力データが学習に利用される可能性があるため、個人情報を含むデータの入力には慎重な対応が必要」という旨の注意喚起をしています。
個人情報を含まない年齢層・主な状況・レベルの抽象化にとどめるのが安全です。
特に注意が必要な「要配慮個人情報」
介護現場ではここが最重要です。日本の個人情報保護法では、病歴などは「要配慮個人情報」に分類されます。
代表例
- 認知症の診断
- 精神疾患
- 発達障害
- 服薬情報
- ADL状態
- 排泄状況
- 既往歴
- 転倒歴
- 暴力行為
- 家庭環境
- 虐待歴
- 生活保護受給
- ケアプラン内容
- 支援経過記録
- サービス利用履歴
これらは氏名を消しても、「○○町の90代女性、独居、レビー小体型認知症」のように組み合わさると再識別されるリスクがあります。
また法人契約版のAI(例:企業向けプラン)は、「学習に使わない」設定が可能な場合もありますが、それでも無加工の個人情報投入が即OKになるわけではありません。
では何なら入れていいのか?
重要なのは「匿名化・抽象化」です。
・NG
田中さんは87歳で宮崎市在住。レビー小体型認知症あり。
・改善
高齢利用者。認知機能低下あり。
ーーーーーーー
・NG
A様は夜間3回トイレ介助。
・改善
夜間頻回介助が必要なケース。
現場向けに整理すると以下になります。
| 入力 | 基本判断 |
|---|---|
| 氏名入り記録 | NG |
| 顔写真 | NG |
| 介護記録全文 | 原則NG |
| 匿名化した要約 | 条件付きOK |
| 一般的な支援相談 | OK |
| 制度解説 | OK |
| 文章添削(匿名化済) | OK |
注意②:出力されたものをそのまま使わない
AIの出力には、もっともらしく見えて事実と異なる内容(ハルシネーション)が混ざることがあります。
特に、制度名・加算名・法令の条文・数字を含む出力は要注意です。
出力された文言は、必ず自分の知識で照合し、ケアマネ自身の言葉に編集してから採用する。これが鉄則です。
なお、できるだけハルシネーションを抑えるなら、GeminiとNotebookLMをうまく連携させる方法などもあります。
注意③:最終的な判断は必ずケアマネが行う
AIが出してくれるのは、あくまで「言葉の選択肢」「視点の選択肢」「アイデアの選択肢」です。
利用者にとって何が必要か、どの目標が現実的か、サービス担当者会議で何を優先するか。こうした判断は、利用者と直接向き合っているケアマネにしかできません。
「AIが提案したから採用した」ではなく、自分が選んだ。AIはそのきっかけをくれた。という関係性で使うのが、現時点での適切な距離感です。
導入するなら、最初の一歩はここから

「個人で使うのは分かったけれど、事業所としてどう導入する?」という質問もよく受けます。
ガイドラインを完璧に作ろうとすると、いつまでも始められません。最初は、以下の3つを社内で共有するだけで十分です。
必要なこと
- 入力していい情報の範囲を1行で決める
例:「実在の利用者を特定できる情報は入力しない。一般化した条件のみOK」 - 使うAIサービスを1〜2個に絞る
例:「ChatGPTの有料プラン」「Claudeの有料プラン」など、データ取り扱い設定が確認できるものから始める - 使い方の事例を職員間で共有する場を月1回作る
うまくいったプロンプト、失敗したケースを持ち寄ると、事業所全体のスキルが底上げされます
最初から完璧な体制を目指さず、「使いながら、ルールを足していく」という順番が現実的です。
使い始めるときによくある誤解

最後に、よく言われる3つの誤解について整理しておきます。
誤解①:「AIに全部書かせれば楽になる」
書類作成の時間は減りますが、AIの出力をチェックする時間が新しく発生します。
楽になる業務もあれば、むしろ慎重さが必要になる業務もある。トータルで見て効率化するには、最初の数週間は使い方を試行錯誤する時間が必要です。
誤解②:「無料版でも問題なく使える」
無料版のAIサービスは、入力したデータが学習に使われる場合があります。
業務利用の場合は、有料プラン(月額3,000円前後)でデータを学習に使われない設定が選べるものを選ぶのが基本線です。
誤解③:「AIを使うのは経験の浅いケアマネだけ」
実際には逆で、経験豊富なベテランほど「自分の発想の偏り」を補完するためにAIを上手に使う傾向があります。
言い換えのバリエーション、見落としやすい視点、ご家族説明の柔らかい言葉――ベテランほど「自分の手数」を増やすツールとして活かしやすいのです。
まとめ
ケアプラン作成にAIを使うとき、いちばん大切なのは距離感です。
- AIに決めさせない
- AIに個人情報を渡さない
- AIの出力をそのまま使わない
この3つさえ守れば、AIは「言葉が出てこないとき」「視点が固まりかけているとき」に、ケアマネのアイデアの幅を広げてくれる頼れる相棒になります。
とにかくまだ実務でも日常でも触ったことがない方は、ぜひまずは無料で日常の範囲で触れてみてください。慣れてくれば、有料契約してケアマネ業務にAIを取り入れるイメージがつくはずです。

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