セラピストがAIを使う理由は「楽をする」ためではない!アドバンスト・エッセンシャルワーカーという新しいワードから紐解く

私は理学療法士ですが、現在は病院などに勤務して、臨床の現場に立っている立場ではありません。

 

今は、介護・福祉の現場でAI活用の研修や支援を行いながら、現場で働くセラピストの声を聞く側にいます。

 

それでもこの記事を書くのは、調査の数字とSNSの反応を見ると、セラピストとAIの関係がこの1年で大きく変わったと感じるからです。

 

以前同じようにセラピスト向けのAI関連の記事を書きましたが、そのころとはだいぶ状況が変わっています。

 

ある調査によると、リハビリ現場の生成AI利用率は、1年で36%から86%へ上がりました。

 

一方で、使いこなせる人材が職場にいないことが課題になり、国はデジタルを使いこなすエッセンシャルワーカーを「アドバンスト・エッセンシャルワーカー」と呼び、育てる側に回り始めています。

 

この記事では、XやThreadsで実際に反応が集まった話題と、全国調査の数字をもとに、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士がAIを使うべき理由と、AIに任せてはいけない判断の線引きを整理します。

 

現場の外にいる立場だからこそ、少し引いた目で具体的に活用法をお伝えしていきます。

セラピストは忙しい

リハビリをする女性
セラピストの1日は、臨床が終わったあとも大変です。

 

患者さんとのリハビリが終わっても、カルテの記載や計画書、報告書、情報提供書、自主トレ用の説明資料の作成があります。このように夕方からが書類業務というのは、よくあることではないでしょうか。

 

そして「今日も書類が終わらない」。こうして翌日に持ち越すなんてことも、セラピストにとって珍しいものではないと思います。

 

以前、このサイトで「リハビリ職のためのAI活用術」という記事を書きました。そのときAIは、臨床力を上げる「相棒」だとお伝えしました。

参考【リハビリ職のためのAI活用術】AIはあなたの臨床力をUPさせる最強の「相棒」

「AIが仕事を奪う」そんなニュースや記事を見たことありませんか?   定期的に無くなる仕事が報道されていますが、リハビリテーション専門職はそれに動じる必要はありません。リハ職にとってAIは私 ...

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あれから状況は、思っていたより速く動いています。今回はその続きとして、なぜ今あらためてセラピストがAIを使うべきなのかを、調査の数字と、XやThreadsで実際に反応が集まった話題から考えてみます。

数字で見るセラピストの現状

データ

まず、現場の負担についてです。

 

株式会社バックテックが2026年2月に行った全国調査(理学療法士・作業療法士・言語聴覚士1,014名)では、記録・書類作成業務が「自身の疲労感やウェルビーイングに負の影響を与えている」と答えた人が77.6%にのぼりました。

 

臨床で最も解決したい課題の1位は「書類作成業務に時間がかかりすぎる」で39.6%。計画書や報告書のような「作る書類」の負担感は、10段階で7以上と答えた人が60.8%でした。

 

一方で、AIの利用も広がっています。

 

PT-OT-ST.NETが2025年と2026年に実施したWebアンケートでは、生成AIの利用割合が約36%から約86%へ上昇したと報告されています。

 

ただこちらは、2026年の数字には試用経験のみの回答者も含まれており、回答者も両年で異なります。それでも、調査に参加したセラピストの間でAI活用が広がっていることは読み取れます。

 

Threadsで訪問リハビリの理学療法士・作業療法士16名に行われた事前調査でも、「AIでラクにしたい業務」として、計画書・報告書の下書きとスライド作成がそれぞれ12名、記録・カルテの下書きが10名と、具体的な業務名が並びました。

 

つまり今は、AIを使うかどうかで迷う段階から、「どの業務に、どう使うか」を考える段階に入っていると言えると私は考えています。

SNSで見えてきた反応

アナウンス

今回、記事を書く前に、Xでリハビリ職とAIに関する投稿を調べました。そこで見えたのは、少し意外な傾向です。

 

理学療法士本人が「ChatGPTの使い方」を紹介する投稿は、反応がまだ小さいものが多かったです。内容は現場に近いのですが、広がりは限定的な状態です。

 

ところが、同じ人の別の投稿では、まったく違う反応が見られています。回復期の脳卒中に関する論文の要点を数字で示した投稿には、いいね239件、ブックマーク104件が付いています。

 

また作業療法士、竹林崇先生がテクノロジーを紹介した動画投稿には、いいねが1万件を超えていました。セラピスト自体の新しい技術への関心自体は、確かに広がっています。

 

ここから言えるのは、セラピストが求めているのはツールではなく、明日の臨床で使える数字、根拠、判断材料。そこに反応が集まっている印象です。

患者さんはすでにAIを使っている

音声入力

そして見過ごせない変化があります。患者さん側の変化です。

 

初診の患者さんが、ChatGPTで伝えたいことを整理したプリントを持ってきたと精神科医の先生が投稿されて、注目を集めたポストがありました。

 

AIの技術的なニュースではありませんが、それでも多くの反応があったのは、医療者側の多くが「うちでも起きている」「これから起きる」と感じたからではないかと思います。

 

現場では「AIを使ってもよいのか」を議論しているあいだに、患者さんとご家族は、すでにAIが生成した出力を診察室やリハビリ室に持ち込み始めている。

 

「AIに聞いたら、この運動がいいと言われた」という場面は、これから増えることはあっても、減ることはないと思います。

 

そうなると、セラピストがAIを使わないにしても、「AIと関わらない」ということにはこれから絶対になりません。

 

患者さんが持ち込んだ答えを確かめる場面は、使うか使わないかに関係なく、臨床の現場でこれから間違いなく出てきます。

AIに選ばれることも必要になる

変化

またChatGPTに後遺症のことを聞いたら「整体院が表示された」という投稿もあります。

 

実際に私が運営している「After Reha」も、脳梗塞後遺症に対する自費リハビリをAIで検索すると、上位の候補として紹介されることがあります。

 

AIをこれから使う患者さん・利用者さんが増える中で、自社のサービスをどのように認識してもらうかは、AIと切り離せない状況になってきていると思います。

 

患者さんだけでなく、ケアマネさんも県士会を通して、自費リハビリができるところがないと聞いてきたりしますので、こういったところでも検索をかける可能性は十分あります。

 

ですので、自身で事業を行っている方であれば、なおさらこの状況を理解した上で、AIにいかに選ばれるかを考えていく必要があるでしょう。

差が付くのは個人の工夫?仕組み?

4つのルート

PT-OT-ST.NETの調査では、個人の判断でAIを使っている人は、資料作成やアイデア出しなど、個人情報に触れにくい業務が中心でした。

 

一方、職場として導入している人は、カルテと連携したサマリー作成や、記録の自動生成といった一歩踏み込んだ使い方をしていて、時間短縮の実感も高い傾向がありました。

 

業務で使っていても、活用スキルに「自信がない」と答えた人が56.8%。生成AIの利用に関する院内規定が「策定されていない」が68.1%で、課題として最も多く挙がったのは「医療DX・生成AIについて詳しい人が所属先にいない」の46.8%でした。

 

ツールがあるだけでは、現場は楽にならない。使い方が分かる人がいて、職場の中で「うちではこう使う」と共有できるかどうか。ここが現場での重要なポイントになっています。

 

逆に言えば、個人で学んできた人が、職場で最初の「分かる人」になる余地は大きいということでもあります。

国が示したアドバンスト・エッセンシャルワーカー

デジタル医療

2026年の「骨太方針2026」には、アドバンスト・エッセンシャルワーカーの育成が盛り込まれました。

 

この定義は、「デジタル技術等も活用して、現在よりも高い賃金を得るエッセンシャルワーカー」になります。

 

この言葉はまだ、現場では使われていないと思いますし、知らない方も多いと思います。弊社ではアドバンスト・エッセンシャルワーカーについて書いた記事がありますので、詳しく知りたい方はぜひご覧ください。

参考アドバンスト・エッセンシャルワーカーとは?介護・福祉でAI活用が「前提」になった理由

介護・障害福祉の事業所様でAI研修をしていると、必ずと言っていいほど出てくる質問があります。   「AIを使ったら、うちの職員の給料は上がるんですか」   正直な質問だと思います。 ...

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エッセンシャルワーカーは、医療・介護・保育・福祉など、社会の土台を支える仕事をする人たちです。理学療法士・作業療法士・言語聴覚士も、その中に入ります。

 

骨太の方針では、生産性向上が処遇改善の前に書かれています。デジタルを使いこなして生産性を上げる。その先に、賃金や処遇の改善を考える。この順番で制度が組まれつつあります。

 

文部科学省も2026年度から、専修学校向けの事業にアドバンスト・エッセンシャルワーカーを育てるためのリ・スキリングのメニューを新設しました。言葉だけでなく、教育の側にも予算が付き始めています。

 

ただ、デジタルを使えば自動的に賃金が上がるという保証はありません。公定価格の中で働く医療・介護では、効率化した分がそのまま給料に返ってくる仕組みには、まだなっていないからです。

 

それでも、この言葉が出てきた意味は小さくないと思います。

 

国が「現場の専門性に、デジタルを使いこなす力を重ねた人材」を、育てたい人材像として明示した。その人材像に、セラピストが含まれているということです。

AIとセラピストの分業

PCを見るエッセンシャルワーカー

では、セラピストは何をAIに任せて、何を自分で担うのか。これについて最後にまとめたいと思います。

AIに任せていいもの

1つ目に任せてよいのは書類の下書きや資料作成です。

 

メモをもとにした記録や計画書のたたき台、論文やガイドラインの要約と翻訳、評価結果を家族に伝わる言葉へ直す作業、会議の議事録、研修資料やスライドの構成案です。

 

職種ごとに、AIで効率化できる場面も異なります。

  • 理学療法士:評価結果の整理と家族への説明文
  • 作業療法士:生活場面に合わせた目標や自主練習の資料
  • 言語聴覚士であれば患者さんに合った言語課題の作成や、嚥下に関する記録の整理


自分の職種の業務名で考えると、AIがより具体的なアウトプットを出してくれます。

 

セラピストが行うべきこと

セラピストがAIに任せてはいけないのは「判断」です。

 

目の前の患者さんの表情や体の反応を見ること。嚥下の状態を確かめること。生活背景まで含めて目標を決めること。AIが生成した文章や根拠が正しいかどうかを確かめること。などです。

 

例えば看護の現場では、1年目の職員が事例検討をChatGPTで作り、上司に見抜かれたというSNSの投稿もあります。

 

校正には使えても、経験の代わりにはならない。ここは専門職の判断そのものになるので注意してください。

 

AI活用で注意すること

AI活用で気をつけなければいけないのが、入れてはいけない情報です。

 

患者さんや利用者さんの個人情報は、AIにそのまま使ってはいけません。扱っている情報が単なる個人情報ではなく、「要配慮個人情報」と言われるものだからです。

 

ですからAIに入力する際は、情報を抽象化する、職場で認められた環境を使う、といった基本を守ることが前提になります。

 

AIを使う目的は、セラピスト自身の判断をAIにしてもらうことではありません。

 

書類の下書きや情報整理にかかっていた時間を減らし、その分を、見ること、触れること、考えることに時間を充てるためです。

学ぶ場をセラピスト向けに作りたい

ここまで書いてきたように、課題は「ツールを知らないこと」だけではありません。

大切なこと

  • どの業務に使うかを選ぶこと。
  • 安全な使い方を身につけること。
  • AIの答えを確かめる目を持つこと。
  • 学んだことを職場に持ち帰って共有できる形にすること。

米国の調査で「研修が必要なのに受けていない」が4割を超えていたように、この一連の流れは、独学では身につきにくい部分でもあります。

 

だからこそ、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士に絞った学びの場には意味があると考えています。

 

汎用的なAI講座ではなく、計画書、記録、情報提供、家族説明、論文の読み方といった、セラピストの業務で使えるAI活用が必要だと思います。

 

株式会社アスカゼでは、そうしたセラピスト向けのスクールの開講に向けて準備を進めています。詳細が決まり次第、このサイトでもお知らせします。

 

AIを使うこと自体が目的になってはいけません。これは企業でも陥りやすい失敗です。

 

書類に追われる時間を少しでも減らし、セラピストが患者さんや利用者さんに向き合う時間を増やす。そのための道具として、AIを使いこなせる人を増やしていければと思います。

 

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