企業を取り巻く環境はグローバル化、少子高齢化、働き方改革など日々変化しています。このような状況下において、従業員の健康は企業の持続的な成長にとって不可欠な要素となっています。
健康経営は従業員の健康増進を経営戦略の中心に据え、企業の生産性向上や人材の定着に繋げる取り組みです。この健康経営を効果的に推進するためには、明確な戦略と計画が重要となります。そこでガキとなるのが「健康経営戦略マップ」です。
この記事では健康経営戦略マップの役割、必要性、作成方法、そして費用対効果や効率的な実施方法について詳しく解説します。
健康経営戦略マップとは
(画像元)経済産業省
健康経営戦略マップは企業が健康経営を効果的に推進するためのツールです。企業の健康経営における目標、施策、そしてその効果を視覚的に表現したものになります。
これは経済産業省が2020年3月に発表した「健康投資管理会計ガイドライン」で提唱された概念で、企業の経営課題から健康経営の取り組み、健康投資の具体的な解決までを結びつける、全体像を視覚化するツールとして機能します。
健康経営戦略マップの主な構成要素
健康経営戦略マップは具体的には、「健康経営で解決したい経営課題」を最終目標として設定し、そこから逆算して5つの要素を関連付けて図示します。
①健康経営で解決したい経営課題
企業が抱える具体的な課題を明確にする(例:人材の定着率向上、生産性向上など)
②健康関連の最終的な目標指標
経営課題の解決につながる具体的な目標を設定する(例:従業員の平均寿命延伸、医療費削減など)
③従業員等の意識変容・行動変容に関する指標
目標達成のために従業員に求める行動変容を定量化する(例:健康診断受診率、運動習慣者の割合など)
④健康投資施策の取組状況に関する指標
施策の実施状況を定量化する(例:健康セミナー開催回数、産業医による面談回数など)
⑤健康投資
具体的な健康施策とそのための予算を明記する
これらの要素を体系的に整理することで、企業の健康経営の方向性と具体的な実施すべき取り組みが明確になります。
健康経営戦略マップの重要性とメリット
健康経営戦略マップの主な役割は、健康経営の取り組みを経営戦略と結びつけ、その効果を可視化することです。これにより、以下のような効果が期待できます。
- 健康経営の全体像の定着化
- 経営課題から具体的な問題まで、健康経営の全体像を一目で理解できます。
- 関係者間での共通の取り組みを推進し、組織全体での解決を容易にします。
- PDCAサイクルの確立
- 計画(Plan)、実行(Do)、評価(Check)、改善(Act)のサイクルを明確にします。
- 健康経営の進捗管理と効果測定を効率的に行うことができます。
- 投資効果の可視化
- 健康投資とその効果を客観的に測定し、伝達する仕組みを提供します。
- 経営層への説明と予算獲得の際の根拠となります。
- 戦略的な健康経営の実現
- 抽象的な目標ではなく、具体的な当面と評価指標を設定することで、戦略的な健康経営を可能にします。
- 対費用効果の判断や進捗管理が容易になります。
- 従業員のエンゲージメント向上
- 健康経営への取り組みが従業員の健康増進に繋がることを示すことで、従業員のモチベーション向上を期待できます。
戦略マップの必要性は経済産業省の調査結果からも裏付けられています。「健康経営度調査」によると、健康経営優良法人認定企業の約50%が健康経営戦略マップを作成しており、その効果を実感しています。
健康経営戦略マップの作成方法
健康経営戦略マップの作成は、以下のステップで進めることができます。
step
1経営課題の明確化
企業の経営課題のうち、健康経営で解決したい課題を明確にします。例えば「持続的な成長に向けた人材の定着化およびパフォーマンス向上」などが考えられます。
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- 自らが決断している経営課題を特定します。
- (例)生産性向上、人材確保、企業イメージの向上など
step
2健康関連の最終目標設定
経営課題の解決につながる健康関連の指標(アウトカム指標)を設定します。例えば「プレゼンティーズム」「アブセンティーズム」「離職率」「ワークエンゲージメント」などが挙げられます。
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- 経営課題解決につながる健康関連の目標を設定します。
- (例)従業員の健康リスク低減、医療費抑制、プレゼンティーイズム改善など
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3従業員の意識・行動指標の設定
アウトカム指標の改善につながる従業員の日常的な行動を表す指標(パフォーマンス指標)を設定します。例えば「生活習慣比率」「治療・服薬継続率」「ラインケア・セルフケア行動」などです。
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- 目標達成に必要な従業員の意識や行動の変化を指標化します。
- (例)健康診断挑戦率向上、運動習慣者の増加、ストレスチェック実施率など
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4健康投資の取り組み指標設定
パフォーマンス指標の改善につながる施策への参加状況を表す指標を設定します。例えば「セミナー参加率」「プログラム参加率」「保健指導実施率」などです。
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- 具体的な健康投資とその実施状況を測る指標を設定します。
- 例:健康セミナー開催回数、禁煙プログラム参加率など
step
5健康投資の具体化
具体的な健康施策を記載します。例えば「保健指導」「健康相談」「精密検査受診勧奨」などの施策を記載します。
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- 必要な投資額や資源を明確にします。
- (例)健康増進プログラムの予算、産業医の増員など
上記の記載した経営課題から具体的な健康投資までの要素を矢印で結び、因果関係を示すことで戦略マップが完成します。完成したら計画を実行し、定期的に評価を行い、必要に応じて計画を修正していきます。
対費用効果が見込める理由
各課題の関係性や取り組みの妥当性を理解する上でも必要になる健康経営戦略マップの作成は、以下の理由から費用対効果の高い健康経営を実現するために不可欠と言えます。
効果的な施策の選択
戦略マップにより、各施策が最終的な経営課題の解決にどのようにつながるかが明確になります。これにより、より効果的な施策に集中して投資することが可能になります。
PDCAサイクルの効率化
戦略マップを基に、各指標の進捗を定期的に確認し、改善策を講じることで、効率的なPDCAサイクルの実施が可能になります。
経営陣の理解と支援の獲得
戦略マップにより、健康経営の取り組みが経営課題の解決にどのようにつながるかを明確に示すことができます。これにより、経営陣からの理解と支援を得やすくなり、必要な予算の確保につながります。
従業員の参加意欲の向上
戦略マップを通じて、健康施策が自身の健康や会社の経営にどのようにつながるかを従業員に示すことで、施策への参加意欲を高めることができます。
効率的な健康経営実施のためのポイント
健康経営戦略マップは一度作成すれば終わりではなく、定期的に見直しを行い改善していくことが重要です。また戦略マップはあくまでツールであり、従業員の主体的な行動変容を促すことが重要です。
健康経営戦略マップを活用し、効率的に健康経営を実施するためにはポイントはあります。
- トップのコミットメント
- 経営トップが健康経営の重要性を認識し、積極的に取り組むことが不可欠です。
- 横断的な推進体制
- 人事部門だけでなく、経営企画、総務、産業保健スタッフなど、多部門が連携する体制を構築する。
- 情報活用
- 健康診断結果、レセプトデータ、従業員アンケートなど、多様なデータを活用して課題を特定し、効果を測定する。
- コミュニケーション強化
- 健康経営の取り組みと成果を従業員に積極的に周知し、参加を促進します。
- 外部リソースの活用
- 保険者、地域の医療機関、健康関連サービス事業者など、外部のリソースを積極的に活用します。
弊社では保健師、公認心理士、理学療法士の専門職が宮崎県の健康経営推進のサポートを「ウェルネス保健室」として行っております。
腰痛予防・ハラスメントセミナー、集団での健康体操、個別のカウンセリングなど従業員の健康支援を検討中でしたら、ぜひお問い合わせください。
まとめ
健康経営戦略マップは、企業の健康経営を効果的に推進するための重要なツールです。経営課題と健康施策を結びつけ、その効果を可視化することで、経営陣の理解を得やすくなり、効率的なPDCAサイクルの実施が可能になります。
また健康経営度調査の評価においても有利に働くため、認定取得を目指す企業にとっては必須のツールと言えます。本記事で紹介した内容を参考に、貴社の状況に合わせて健康経営戦略マップを作成し、従業員の健康増進と企業の持続的な成長を目指しましょう。
参考
- 経済産業省 健康投資管理会計ガイドライン
- 健康投資管理会計 実践ガイドブック
健康経営について詳しく知りたい方はこちらの記事もご覧ください。
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