ゴールデンタイムは嘘だった!?効果的な睡眠のとり方について詳しく解説!

睡眠は私たちの健康と生産性に直結する重要な要素です。特に企業における健康経営の観点から、従業員の睡眠の質を向上させることは、生産性の向上や職場環境の改善につながる重要な取り組みといえるでしょう。

 

この記事ではいわゆる睡眠の「ゴールデンタイム」について、その概念が生まれた背景や科学的根拠、そして最新の研究結果を踏まえて、働く人々にとって最適な睡眠のとり方について解説してきます。

睡眠のゴールデンタイムとは?

ベッドルーム

あなたは「ゴールデンタイム」という言葉をどこかで耳にしたことがあるのではないでしょうか?ゴールデンタイムとは、睡眠をとるのに最適な時間帯で、一般的に夜10時から午前2時までを指すとされてきました。

 

ゴールデンタイムと言われる理由は、この時間帯に睡眠をとることで、成長ホルモンの分泌が促進され、身体の回復や肌の再生が効果的に行われるという考え方があったからです。

 

ゴールデンタイムが支持されたのは、1960年代に行われたTakahashiらの研究があります。この研究では夜間の睡眠中に、成長ホルモンの分泌が顕著に増加することが示されました特に睡眠開始後の数時間で成長ホルモンの分泌がピークに達することが観察されました。

 

また1970年代のサスマンらの研究では、成長ホルモンの分泌が夜間の特定の時間帯(夜10時〜午前2時頃)に集中して起こることが報告されました。

 

これらの研究結果が、「睡眠のゴールデンタイム」という概念の基礎となりました。

 

こうした研究の結果から、この時間帯に睡眠をとることが正解と考えられていましたが、最新の研究では、この固定的な時間帯にこだわる必要はないという見解が示されています。

 

成長ホルモンと睡眠の関係

就寝する女性

成長ホルモンの分泌が睡眠と密接に関連しています。成長ホルモンはその名の通り成長期の子どもの発育に重要な役割を果たすホルモンですが、実は大人になっても分泌され続けています。つまり子供だけでなく大人でも分泌されているホルモンなのです。

 

このホルモンは細胞の修復や再生、筋肉の成長、脂肪代謝の促進など、私たちのカラダの様々な機能に関与しています。

 

以前は夜10時から午前2時までの時間帯に成長ホルモンが分泌されるから「ゴールデンタイム」と言われていたわけですが、研究によると成長ホルモンは時間帯に関係ないことが、しっかりわかっています。

 

ゴールデンタイム理論はウソ!?

FAKE&REAL

近年の研究では、ゴールデンタイムの概念に疑問を投げかける結果が多く報告されています。

 

その理由は成長ホルモンは入眠から約90分後のノンレム睡眠へ入ったタイミングで分泌量が最大になることが判明したからです。

 

スピーゲルらの研究グループは、成長ホルモンの分泌パターンが個人によって大きく異なることを示しました。彼らの研究では、成長ホルモンの分泌ピークが必ずしも夜10時から午前2時の間に起こるわけではなく、個人の睡眠サイクルや生活リズムに応じて変動することが明らかになりました。

 

さらにバンデカーコフらが発表した研究では、成長ホルモンの分泌が睡眠の開始時間ではなく、睡眠の質と深く関連していることが示されました。特に深い睡眠に入ってから約90分後に成長ホルモンの分泌がピークに達することが分かりました。

 

つまりこうした研究の結果から、PM10時〜AM2時のゴールデンタイムは現在では否定されているのです。

 

個人に合った睡眠の重要性

寝る女性

近年の睡眠の研究結果から考えると、時間帯を意識するのではなく、睡眠の質を重視し、個人の生活リズムに合わせた睡眠時間を設定することが重要であるという結論に至ります。

 

ただ厚生労働省の調査によると、働き世代の45歳の標準的な睡眠時間は約6時間30分となっています。

(出典)厚生労働省 e-ラーニングで学ぶ 15分でわかる働く人の睡眠と健康 こころの耳

 

アメリカ睡眠医学会が2017年に発表したガイドラインでは、成人の適切な睡眠時間を7時間以上と言われています。

 

これには年齢により個人差があることから、6-8時間の範囲内で自分に合った睡眠時間を見つけることが推奨されています。

 

自分に合った睡眠時間

自分に合った睡眠時間を探す方法として、睡眠時間を変えながら「日中に眠たくならないか?」「朝すスッキリと目が覚めるか?」を試しながら探す方法を精神科医の樺沢先生は推奨しています。

 

例えば7時間睡眠では日中に眠気がくるのに、8時間睡眠の場合は日中眠たくならないのであれば、あなたにとっての最適な睡眠時間は8時間ということになります。

 

もちろん7時間30分が最適な可能性もあるので、この睡眠時間を自分で試しながら、自分に合った睡眠時間を探していくとパフォーマンスを最大限発揮できるようになるでしょう。

 

生産性向上のための睡眠戦略

Point

企業が従業員の生産性を向上させるためには、睡眠の重要性を理解し、適切な睡眠習慣を支援することは企業にとってもメリットがあります。

 

睡眠と生産性の関係についてはこちらの記事で詳しく解説しています。

参考睡眠時間と業績は関係する!?健康経営の視点から見る生産性向上の方法

近年SDGs や ESG 投資 への世界的な関心の高まりや、経済産業省等が 2015 年から始めた「健康経営」の取り組みへの関心が高まっています。その中でも従業員の睡眠時間と企業業績の関係性が注目を集 ...

続きを見る

柔軟な勤務時間の導入

従業員が自身の生体リズムに合わせて勤務時間を調整できるようにすることで、質の高い睡眠を確保しやすくなります。

具体例

  • フレックスタイム制の導入
  • 勤務間インターバル制度の導入
具体例

睡眠教育プログラムの実施

睡眠の重要性や効果的な睡眠習慣について、専門家による講座やワークショップを開催することで、従業員の睡眠に対する意識を高めることができます。

  • 体内時計のメカニズム
  • 睡眠の役割
  • 睡眠の質を高める方法
  • 睡眠不足による影響

こうした内容を理解してもらうことで、一人一人の睡眠に対するリテラシーを向上させていきます。

睡眠アプリの活用

現在は睡眠の質や量を客観的に測定できるアプリも多数存在します。多くの睡眠アプリは睡眠サイクルを追跡し、データを分かりやすいグラフで表示してくれます。これにより、自分の睡眠パターンを客観的に把握することができます。

 

ウェアラブルデバイスと睡眠アプリの併用もおすすめです。例えばApple Watchは心拍数、呼吸数、体の動きなどを正確に測定できます。これらのデータを睡眠アプリと連携させることで、より詳細で信頼性の高い睡眠分析が可能になります。

ワーク・ライフ・バランスの推進

過度の残業を抑制し、プライベートの時間を確保することで、適切な睡眠時間の確保を支援します。

 

そのためにはノー残業デーを設けたり、テレワークの導入、年次有給休暇の取得促進などの支援策を会社主導で進めることも必要です。

まとめ

睡眠のゴールデンタイムについての科学的見解は、固定的な時間帯にこだわるものから、個人の生活リズムに合わせた質の高い睡眠を重視するものへと変化してきました。

 

健康経営と生産性向上を目指す企業にとって、この新しい睡眠の考え方を取り入れることは非常に重要です。従業員一人ひとりが自身の生活リズムに合わせて質の高い睡眠をとれるよう支援することで、心身の健康を促進し、結果として職場の生産性向上につながることが期待できます。

 

睡眠は個人の問題であると同時に、組織全体のパフォーマンスに直結する重要な要素です。従業員の睡眠確保に積極的に働きかけている企業も増えているため、

 

企業は最新の睡眠科学の知見を活用し、従業員の睡眠の質を向上させるための取り組みを積極的に行うべきでしょう。それが、健康経営の実現と、持続可能な高い生産性につながる道となるのです。

 

参考文献

  • 健康づくりのための睡眠ガイド 2023.健康づくりのための睡眠指針の改訂 資料1 に関する検討会
  • Takahashi, Y., Kipnis, D. M., & Daughaday, W. H. (1968). Growth hormone secretion during sleep. Journal of Clinical Investigation, 47(9), 2079-2090.
  • Sassin, J. F., Parker, D. C., Mace, J. W., Gotlin, R. W., Johnson, L. C., & Rossman, L. G. (1969). Human growth hormone release: relation to slow-wave sleep and sleep-waking cycles. Science, 165(3892), 513-515.
  • Van Cauter, E., Leproult, R., & Plat, L. (2000). Age-related changes in slow wave sleep and REM sleep and relationship with growth hormone and cortisol levels in healthy men. JAMA, 284(7), 861-868.
  • Spiegel, K., Leproult, R., & Van Cauter, E. (1999). Impact of sleep debt on metabolic and endocrine function. The Lancet, 354(9188), 1435-1439.
  • Vandekerckhove, M., & Cluydts, R. (2010). The emotional brain and sleep: an intimate relationship. Sleep Medicine Reviews, 14(4), 219-226.
  • Watson, N. F., Badr, M. S., Belenky, G., Bliwise, D. L., Buxton, O. M., Buysse, D., ... & Tasali, E. (2015). Recommended amount of sleep for a healthy adult: a joint consensus statement of the American Academy of Sleep Medicine and Sleep Research Society. Sleep, 38(6), 843-844.
  • Hirshkowitz, M., Whiton, K., Albert, S. M., Alessi, C., Bruni, O., DonCarlos, L., ... & Neubauer, D. N. (2015). National Sleep Foundation's sleep time duration recommendations: methodology and results summary. Sleep Health, 1(1), 40-43.

RECOMMEND

-健康経営, 記事・コラム
-, ,