全国生活習慣病予防月間「少酒」の徹底解説-働く大人が知るべき健康リスクと賢い付き合い方

2025年の「全国生活習慣病予防月間」のテーマは「少酒~からだにやさしいお酒のたしなみ方」です。年度末でこれから送別会がある会社も多いでしょう。

 

今回はお酒との付き合い方について、働き盛りのビジネスパーソンが知っておくべきお酒が体に及ぼす影響や健康的な飲み方について科学的根拠をもとに解説します。

 

生活習慣病予防月間が掲げる「少酒」とは

アルコール禁止

最初に結論をお伝えすると、最新の医学研究では「健康リスクを最小化するなら最適飲酒量はゼロ」というのが正解です。

 

「酒は百薬の長」とは中国のことわざで、最新の研究では「酒は百害あって一利なし」が正しいとされています。つまり健康のためにはお酒を一滴も飲まない方が良いのです。

 

ただ今すでにお酒を嗜まれている方が急にお酒を止めることは難しいでしょう。そこで考えてほしいのは「小酒」です。日本生活習慣病予防協会が提唱する「一無、二少、三多」の健康標語において、「二少」の一つに位置付けられるのが「少酒」で、節酒とは異なった考え方です。

 

節酒は「お酒を適度に飲むこと」または「酒量を減らすこと」ですが、小酒は「少量の酒を飲むこと」になります。2024年2月に改定された「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」では、飲酒量の目安が従来の1日20g(純アルコール)から週100gへと変わりました。これはビール中瓶(500ml)換算で週5本以下に相当します。

 

アルコール20gの目安

  • ビール500ml
  • 日本酒1合弱
  • ウイスキー60ml
  • ワイン200ml
  • 焼酎(25度)100ml
  • 酎ハイ(7%)350ml

 

小酒でも健康のリスクはある

お腹のでている男性

従来、肝臓の疾患との関連が強調されてきた飲酒リスクですが、最新の医学研究により広範な影響が体に及ぶことが報告されています。

 

少酒の場合は少量のお酒なので、健康には影響なさそうですが、疫学研究によると、少量の飲酒であっても脳卒中や胃がんのリスクが上昇することが明らかになっています。

 

筑波大学の吉本尚教授による解析では、アルコールを代謝過程で発生する「アセトアルデヒド」がDNAを修復する機能を妨害し、食道がんや大腸がんの発生率を上昇させるメカニズムが解明されました。

 

そのほかにも、以下のようなアルコール量との関係が厚生労働省から報告されています。

男性 女性
脳卒中(出血性) 20g/日 少しでも
脳卒中(脳梗塞) 40g/日 11g/日
高血圧 少しでも 少しでも
胃がん 少しでも 20g/日
大腸がん 20g/日 20g/日
食道がん 少しでも データなし
肝がん 60g/日 20g/日
乳がん データなし 14g/日

(出所)厚生労働省「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」

 

特に女性はアルコール分解酵素が少ない遺伝的体質を持つ割合が高く、男性と比べて肝硬変発症リスクが3倍以上になることが指摘されています。これらの科学的知見を踏まえると、「健康維持のためにはお酒は飲まない方がいい」といえます。

 

また肝臓の容積の加齢変化を考慮すると、60歳でのアルコール代謝の能力は25歳時に比べ35%低下するので、高年齢の方はより調整が必要となることも理解しておきましょう。

 

他にも眠れないからとアルコールを飲まれる方もいらっしゃいますが、かえって睡眠の質を低下させることもわかっています。睡眠が健康に及ぼす影響も大きいため、寝酒にも要注意です。

 

睡眠の重要性についてはこちらの記事で詳しく解説しています。

参考【健康と仕事】調子が悪いときはまず「睡眠」を第1に考えよう!

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アルコールが引き起こす多面的な健康リスク

診断

アルコールによって脳卒中やがんの発症リスクが上がることは先ほどご紹介しましたが、そのほかにも心筋梗塞の発症リスクが高まることが報告されています。

 

以前は適量の飲酒が心筋梗塞を予防するという「Jカーブ効果」の説がありましたが、2023年に発表された国際共同研究(対象者400万人超)では、週100gを超える飲酒で心血管疾患リスクが14%上昇したこともわかっています。

 

またアルコール依存症患者の脳画像解析からは、意思決定能力や衝動抑制機能の低下も指摘されています。

 

さらにアルコールが腸内細菌に与える影響も考えておく必要があります。継続的な飲酒は腸内に細菌を減少させ、炎症反応を促進して体を守る働きを持つ物質の炎症性サイトカインの産生を促進します。

 

体を守ってくれる役割がある炎症性サイトカインですが、過剰に生産されると免疫のバランスが崩れ、関節痛や臓器障害を引き起こす原因にもなります。

 

「からだにやさしい」飲酒の方法

ワインを飲む女性

健康のことを考えると完全断酒が理想ではありますが、現実的に難しい方も多いでしょう。そんな方は以下の方法を試してみてください。

アルコール管理の実践的戦略

飲酒を健康を維持して、生活を満たしてくれるものとするには飲酒パターンを最適化する必要があります。意思のみでコントロールするのは難しいので、習慣化することがポイントなのです。

 

具体的には以下の対策を取ることが有効になります。

ポイント

  • グラスのサイズを180ml以下に統一(量の錯覚効果)
  • 飲酒時は必ず料理と組み合わせる(代謝促進)
  • 合間に必ず水を飲む(代謝促進)
  • 照明の明るさを500ルクス以上に保つ(視床下部の覚醒中枢が刺激され、過剰摂取を防ぐ)

 

アルコール量もですが、アルコール分解を促進する栄養素の摂取法も心がけてほしいところです。枝豆に含まれる成分はアセトアルデヒドの無毒化を促進することが立証されていますので、おつまみにも注意を払うといいでしょう。

 

また飲酒の具体的なスケジュールをあげると以下のような例が考えられます。

• 週4日飲酒の場合:1日当たり25g(ビール中瓶1.5本相当)
• 週5日飲酒の場合:1日20g(日本酒1合弱)

 

デンマークのコホート研究では、週3-5日の休肝日設定が肝機能の正常化に有効であると言われていますので、できれば週4日の飲酒に留めることがよいと考えられます。

 

そのほかにも、飲酒の環境を整えることとして、自宅に置くお酒の保管量を週100g分に制限することも対策としてあげられます。宅飲みをされる方は自宅にあるから飲んでしまうので、お酒を購入するのは週に1回とし、アルコール100g分の量しか購入しないようにしましょう。

 

おわりに

お酒は適度に楽しむことは多くの健康リスクを伴います。働く大人として、健康的なお酒との付き合い方を考えることは、生活習慣病の予防や生活の質の向上につながります。「少酒」を意識し、必要に応じて飲酒を控える選択をすることで、より健康的な生活を送るようにしましょう。

 

参考

  • Effects of Alcohol Consumption on Health. Journal of Public Health Policy. 1980-03-01.
  • Cross-border health and productivity effects of alcohol policies. Journal of Health Economics. 2014-04-18.
  • Alcohol and man. The effects of alcohol on man in health and disease. PROTOPLASMA. 1933-12-01.
  • Cardiovascular risks and benefits of moderate and heavy alcohol consumption. Nature Reviews Cardiology. 2015-10-01.
  • Association between patterns of alcohol consumption (beverage type, frequency and consumption with food) and risk of adverse health outcomes: a prospective cohort study.BMC Medicine. 2020-12-01.
  • Substance Abuse: A Comprehensive Textbook. 1992-05-01.
  • The Effects of Alcohol on Oral Health, a Review. Archives of Psychiatry Research. 2019-06-15.
  • Behavioral Counseling Interventions in Primary Care To Reduce Risky/Harmful Alcohol Use by Adults: A Summary of the Evidence for the U.S. Preventive Services Task Force.

 

 

弊社ではアルコールとの付き合い方も含めて企業向けのセミナーも開催しております。健康に関する企業向けの研修をご検討の際は、お気軽にご相談ください。

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