長時間のデスクワークが健康に悪影響を及ぼすことは多くの方が知るようになりました。そこで近年多くのオフィスワーカーがスタンディングデスクに注目しています。
スタンディングデスクのメリットが注目される中、最新の研究結果によると、スタンディングデスクの効果は私たちが期待するほど単純ではないかもしれないことが報告されています。
この記事ではスタンディングデスクのメリットとデメリット、正しい使い方について詳しく解説します。スタンディングデスクの導入を検討している方はぜひ参考にしてみて下さい。
スタンディングデスクとは
スタンディングデスクは昇降式デスクとも呼ばれ、立った姿勢でデスク作業ができるように設計された机のことです。デスクの高さを自動または手動で調節が可能なタイプが一般的で、座っての作業と立っての作業を切り替えられる機能を備えています。
最近は座りっぱなしによる死亡リスクの増加や、肥満、心血管疾患などの生活習慣による健康リスクの懸念からオフィスや自宅での導入が増えています。例えばGoogleやFacebook、日本では楽天やアイリスオーヤマ、三菱商事などもスタンディングデスクを取り入れています。
AmazonなどのECサイトでも容易に購入することができるため、一般ユーザーも利用するケースが増えています。スタンディングデスクで有名なFLEXISPOT社のデスクは人気が高い傾向にあり、口コミをみても評価が高いです。
実際スタンディングデスクの市場は急速に成長しており、グローバル・マーケット・インサイツの調査によると、2023年には78億ドル(約1兆1655億円)に達し、今後10年間で年平均5.5%の成長が見込まれています。
(出典)Standing Desk Market to hit USD 12.6 billion by 2032, says Global Market Insights Inc.
こうした背景には健康意識の高まりと、より生産的な仕事をするため職場環境改善の需要増加を反映していると言えます。
スタンディングデスクのメリット
スタンディングデスクを利用する目的は人それぞれです。なぜスタンディングデスクが効果的なのかを調べた研究は世界でも数多く報告されています。
スタンディングデスクに期待される身体的なメリットは以下のようなものが挙げられます。
①姿勢の改善
②エネルギー消費量の増加
③心身のリフレッシュ
④血糖値の管理
⑤心血管リスクの軽減
長時間座っている作業しているとカラダが丸くなり、腰痛や肩こりになりやすい姿勢になります。しかし立って作業することで姿勢が良くなり、腰痛や肩こりの予防にも繋がります。
姿勢が良くなること、立っていることにより座っているときも下半身の筋肉を使うため消費カロリーも大きくなり、肥満予防などにも効果が期待できるのがスタンディングデスクです。
また身体的な側面だけでなく、集中や作業効率に関する脳の働きの変化についても報告されています。
①集中力の向上
②短期的な認知機能の向上
③タスクの切り替えの効率化
姿勢の変化により、気分転換や集中力の維持、眠気が抑えられるといった効果があります。データ入力では座って作業するよりも入力ミスがわずかですが少なかったことも報告されています。
こうしたメリットが、健康志向の高い消費者や仕事の効率性を高める企業の関心を集めているのです。
最新の研究が示す実態
こうしたメリットが報告される一方で、最新の研究結果ではスタンディングデスクの健康面への効果に疑問が投げかけられています。
オーストラリアとオランダの研究チームによる大規模な調査では、スタンディングデスクの使用が必ずしも心血管疾患のリスク低減につながらないことが示されました。この研究では、UKバイオバンクの8万3013人分のデータを分析しています。以下の重要な発見がありました。
- 1日12時間を超える静止行動(座位と立位の合計)は、心血管疾患リスクを13%増加する
- 座位時間が1日10時間を超えると、起立性循環器疾患リスクが1時間あたり26%増加する
- 立位時間が1日2時間を超えると、起立性循環器疾患リスクが30分あたり11%増加する。
また人間工学の分野の研究でも、作業効率を低下させず、作業中の不快感を軽減させることはできるが、健康面への効果はわずかな影響しかないと報告されています。
これらの結果は単に立っているだけでは健康上のメリットが限られることを示唆しています。
注目すべき点としては長時間の立っていることで起こる循環器の疾患(静脈瘤、慢性静脈不全、静脈潰瘍など)のリスクを高める可能性があるという点です。これは長時間立ち続けることで脚に血液がたまりやすくなるためと考えられています。
スタンディングデスク使用の注意点
スタンディングデスクのメリット、健康面への影響は理解いただけたと思いますが、効果的に使用するためには、以下の点に注意する必要があることも理解して購入するようにしましょう。
ポイント①
適度な使用時間
長時間立っているのも足が疲れてしまい、痛みを感じる方もいます。スタンディングデスクの1日2時間以上の利用は避け、座位と立位を適切に切り替えるようにしましょう。
腰痛のある方の場合、立っている方が腰への負担がかかり、返って痛みが悪化するケースもあります。両方の姿勢を交互に行うことで、そうした一部分への負荷を軽減させることができます。
またじっと立ってるだけでなく、小さな動きや足の運動を取り入れることも足の負担を軽減させるには重要となります。
ポイント②
適切な高さに合わせる
立っての作業が座っての作業よりも姿勢は良くなりやすいですが、立位でも高さが合っていなければ前かがみになります。作業する際は適切な高さに調整しましょう。
スタンディングデスクの高さ設定
スタンディングデスクの高さが合っていなければ、身体的な負担が増えてしまうため、適切なセッティング方法をお伝えします。
step
1正しい姿勢で立つ
step
2親指を上に向け肘を90°曲げる
step
3小指の高さにデスクを合わせる
この高さはデスクで字を書くときに適している調整方法になります。電動の昇降式デスクでない場合は、付箋やテープで印をつけて合わせるようにして下さい。
またキーボードの入力作業を行う際は、こちらの高さよりもやや低め(3~5cm)に設定するようにします。キーボード入力の際に肩に力が入らないよう、キーボードの高さに1~2cmプラスしたセンチ分だけ下げると良いでしょう。
スタンディングデスク以外の選択肢
スタンディングデスクは確かに作業効率を維持・向上させるには効果的ですが、それ以外にもデスクワークの健康リスクを軽減するための選択肢があります。
- バランスボールチェア
座位でも体幹を使うことで、姿勢改善と軽い運動効果が期待できます。
- 定期的な休憩と運動
デスクを離れて短時間のウォーキングや簡単な体操を行います。
- エルゴノミックチェア
正しい姿勢をサポートする椅子を選ぶことも重要です。
これらの選択肢は、スタンディングデスクと組み合わせたり、代替として使用したりすることで、より多様な動きを職場に取り入れることができます。
その他、研究では長時間座っていることによる健康リスクを相殺するために1日22分のウォーキングを推奨しています。これは通勤、家事、階段の上り下りに組み込むことができるので、日常で歩くことを意識するようにするだけでも金をかけず健康を維持することが可能です。
こちらの記事ではウォーキングと自転車の健康面への効果について解説してます。
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スタンディングデスクは万能ではない
スタンディングデスクは座りっぱなしの生活を改善する一つの選択肢ですが、それだけで健康問題のすべてを解決することはできません。最も重要なのは一日を通して適度に体を動かし、姿勢を変えることです。
健康的な職場環境づくりはスタンディングデスクの導入だけでなく、定期的な休憩、適度な運動、そして全体的なライフスタイルの改善を含む総合的なアプローチが必要です。
スタンディングデスクの導入を検討する際は、自分の生活スタイルや健康状態を考慮し、必要に応じて専門家に相談することをおすすめします。一人ひとりが自分に合った作業環境で仕事ができるようになるといいですね。
参考文献
- 大林組技術研究所本館テクノステーションにおける スタンディングデスク導入効果に関する研究.大林組技術研究所報 No.82 2018
- Nicolaas P Pronk, et al:Reducing occupational sitting time and improving worker health: the Take-a-Stand Project, 2011
- John P Buckley, et al:Standing-based office work shows encouraging signs of attenuating post-prandial glycaemic excursion.oemed-2013-101823. Epub 2013 Dec 2.
- Britta Husemann, et al:Comparisons of musculoskeletal complaints and data entry between a sitting and a sit-stand workstation paradigm.Hum Factors. 2009 Jun;51(3):310-20.
- Nicholas D Gilson,et al:Do Sitting, Standing, or Treadmill Desks Impact Psychobiological Indicators of Work Productivity?
- April J. Chambers,et al:The effect of sit-stand desks on office worker behavioral and health outcomes: A scoping review.Applied Ergonomics Volume 78, July 2019, Pages 37-53
- Ranjana K. Mehta, Ashley E. Shortz, M. Benden:Standing Up for Learning: A Pilot Investigation on the Neurocognitive Benefits of Stand-Biased School Desk
- Ariel Bodker,et al:The Impact of Standing Desks on Cardiometabolic and Vascular Health. Vasc Med. 2021 Apr 5;26(4):374–382