企業のメンタルヘルス対策の新たな一手!ストレスチェックの集団分析について詳しく解説

2015年に導入されたストレスチェック制度は、日本の職場におけるメンタルヘルス対策に大きな変革をもたらしました。

この制度は個々の労働者のストレス状態を把握するだけでなく、職場全体のストレス状況を分析する「集団分析」という重要な要素を含んでいます。

 

この記事ではストレスチェックの集団分析の意義とその実施方法について詳しく解説します。

 

ストレスチェックの概要

ストレスチェック

ストレスチェック制度は、労働者のメンタルヘルス不調を未然に防ぐことを目的とした一次予防策です。

 

この制度では労働者が自己記入式の質問票に回答することで、以下の3つの要素を評価します。

 

労働者はこのストレスチェックに回答することで自身のメンタル状況を把握でき、セルフケアに活かすことができます。

 

ストレスチェックについてはこちらの記事でより詳しく解説しています。

参考中小企業のためのストレスチェック:対象範囲の拡大と実施の注意点を解説

ストレスチェックは従業員のメンタルヘルス対策と職場環境の改善を目的とした重要な取り組みです。   平成27年度労働安全衛生法改正により、従業員50人以上の事業所に義務付けられてきました。 & ...

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企業には50人以上の労働者を雇用する事業場で、年に1回以上のストレスチェックの実施が義務付けられています。

 

一方、集団分析は努力義務とされ、令和5年の労働安全衛生調査によると、現状としては実施している事業所は全体で69.2%となっています。実施している事業所が半数以上ですが、集団分析を実施しない理由としては「必要性を感じていない」という回答が多いようです。

(出典)厚生労働省 令和5年労働安全衛生調査

 

補足

50名以上の事業場ではストレスチェックは89.6%となっており、集団分析の実施率は78.9%なので、50名以上の事業場は集団分析が進んでいます。

 

集団分析の意義

ストレスチェックの集団分析は、組織全体のメンタルヘルス向上と職場環境改善を実現するための重要なツールとなっています。

職場全体のストレス状況の把握

個々の労働者のストレス状態を集計することで、職場全体のストレス傾向を可視化できます。

 

これにより組織全体のメンタルヘルスの状態を俯瞰的に理解することが可能になります。

 

問題点の特定

部署や職種ごとの分析により、特定の職場環境や業務内容に関連するストレス要因を特定できます。

 

例えばある部署で仕事の量的負荷が特に高いことや、別の部署で上司のサポートが不足していることなどが明らかになる可能性があります。

 

効果的な対策の立案

分析結果に基づいて、職場環境の改善や業務プロセスの見直しなど、具体的な対策を立案できます。

 

業務の再分配、コミュニケーション改善のためのワークショップの実施、管理職向けのリーダーシップ研修といった例が考えられます。

 

変化の把握

毎年の分析結果を比較することで、対策の効果を評価し、長期的な改善につなげることができます。

 

経過を観察しながらPDCAを回すことで、継続的な職場環境の改善が可能になります。

 

組織の生産性向上

メンタルヘルス対策を通じて労働者の健康と満足度が向上し、結果として組織全体の生産性向上につながることが論文でも報告されています。

 

健康な従業員は欠勤率が低く、業務効率も高いため、企業の競争力強化にも寄与するので、集団分析によるメンタルヘルスの管理はとても重要なのです。

 

集団分析の実施方法

How to

ストレスチェック〜集団分析までの基本的な流れは以下となります。

  1. ストレスチェックの実施
  2. ストレスチェックの結果を本人に通知
  3. 個人の結果を一定の規模のまとまりの集団ごとに集計・分析

集団分析については注意事項もありますので、詳細な流れと注意点についてもみていきましょう。

1. データの収集と集計

ストレスチェックの個人結果を、部署や職種などの単位で集計します。この際、個人が特定されないよう、十分なプライバシー保護措置を講じる必要があります。

 

具体的には以下のような点に注意が必要です。

  • 集計単位の人数が10人未満の場合は、集団分析の対象としない
  • 個人の回答内容が特定されないよう、統計的な処理を行う
  • データの取り扱いは個人またが事業者が行う

 

10人未満で集団を行う際は、個人が特定される可能性がるため、結果を事業者に提示してはならないとされています。提示するには労働者全員の同意が必要となります。

 

また個人が特定できなうように10人未満で実施するにしても、実施方法についてあらかじめ衛星委員会等の調査審議が必要です。

 

結果の保管については、労働者が「結果を事業者に提供してもいい」と合意した場合は事業者が保管できます。しかし労働者合意が得られない場合は実施者が保管します。

 

2. 仕事のストレス判定図の作成

集団分析で集計されたデータを基に、次は「仕事のストレス判定図」を作成します。

 

集団分析ではストレスチェックの①〜③の調査項目のうち

①職場のストレス要因

③職場の支援

この2つに着目して、労働者の平均値を算出します。

 

仕事のストレス判定図からわかるストレス要因は以下の4つです。

  • 仕事の量的負担
  • 仕事のコントロール
  • 上司の支援
  • 同僚の支援

ストレスチェック記載例

(図)厚生労働省 職場結果「仕事のストレス判定図」について

量-コントロール判定図

①職場のストレス要因の(a)仕事の量的負荷、(b)仕事のコントロール(裁量権)についてそれぞれ平均値を算出し、図にプロットする

 

職場の支援判定図

③職場の支援要因については(c)上司の支援、(d)同僚の支援についてそれぞれ平均値を算出し、図にプロットする

 

仕事のストレス判定図

(図)厚生労働省 職場結果「仕事のストレス判定図」について

 

これらの判定図により、全国平均値と職場の平均値を比較することで、職場のストレス要因と支援体制を視覚的に把握することができます。

 

仕事のストレス判定図の見方

はてな

プロットしただけでは見方がよくわからないと思いますので、ここでは判定図の見方をご紹介します。

 

量-コントロール判定図の詳細

量-コントロール判定図は、横軸に仕事の量的負荷、縦軸に仕事のコントロールをとり、全国平均を基準とした4象限に分けられます。

  • 第1象限(右上):仕事の量が多いが、コントロールも高い
  • 第2象限(左上):仕事の量が少なく、コントロールが高い
  • 第3象限(左下):仕事の量が少なく、コントロールも低い
  • 第4象限(右下):仕事の量が多く、コントロールが低い

特に第4象限(右下)に位置する場合、ストレスのリスクが高いと判断されます。

 

職場の支援判定図の詳細

職場の支援判定図は、横軸に上司の支援、縦軸に同僚の支援をとり、全国平均を基準とした4象限に分けられます。

  • 第1象限(右上):上司と同僚の支援が共に高い
  • 第2象限(左上):上司の支援は低いが、同僚の支援は高い
  • 第3象限(左下):上司と同僚の支援が共に低い
  • 第4象限(右下):上司の支援は高いが、同僚の支援は低い

理想的には第1象限(右上)に位置することが望ましく、第3象限(左下)に位置する場合は職場の支援体制に課題があると考えられます。

 

3. 総合健康リスクの算出

グラフ

量-コントロール判定図の値と職場の支援判定図の値を掛け合わせ、100で割ることで総合健康リスクを算出します。この値が100を超えると、職場のストレスリスクが全国平均より高いことを示します。

 

総合健康リスク = (量-コントロール判定図の値) × (職場の支援判定図の値) / 100

 

例えば「量-コントロール判定図」の値が120、「職場の支援判定図」の値が110の場合、総合健康リスク = 120 × 110 / 100 = 132となります。

 

この場合総合健康リスクが132となり、全国平均(100)を上回っているため、職場のストレス状況に注意が必要であることがわかります。

 

4. 結果の分析と対策の立案

考える男性

総合健康リスクが120を超える場合、仕事のストレスによる心理的ストレス反応、疾病休業、受診率などのリスクが1.2倍になるとされています。

 

このような結果が得られた場合、以下のような対策を検討することが重要です。

  • 業務量の適正化
    過度な残業の削減、業務の再分配
  • 労働時間の管理
    効率的な時間管理手法の導入、柔軟な勤務形態の検討
  • 職場のコミュニケーション改善
    定期的なミーティングの実施、チームビルディング活動の導入
  • 管理職のマネジメント研修
    リーダーシップスキルの向上、部下とのコミュニケーション改善
  • 職場環境の改善
    休憩スペースの充実、オフィスレイアウトの最適化

 

これらの対策を実施する際は、従業員の意見も取り入れながら、職場の実情に合わせてカスタマイズすることが重要です。

 

集団分析の活用事例

製造業の男性

ある製造業の企業では集団分析の結果、特定の部署で仕事の量的負荷が高く、上司の支援が不足していることが判明しました。この結果を受けて、以下の対策を実施しています。

  • 業務プロセスの見直しによる効率化

無駄な作業の削減、自動化の導入

  • 管理職向けのコミュニケーション研修の実施

傾聴スキルの向上、フィードバック手法の習得

  • 定期的な1on1ミーティングの導入

部下との信頼関係構築、早期の問題発見と解決

 

これらの施策により、翌年の集団分析では当該部署のストレス状況が改善し、離職率の低下にもつながりました。

 

集団分析の課題と今後の展望

悩む女性

集団分析の実施率は50人以上の事業場では60%台ですが、50人未満の事業場では25%程度にとどまっています。

 

現在、国の検討会でストレスチェック制度の見直しが進められており、集団分析が努力義務から義務へ移行する可能性があります。2024年度中にその方向性がまとまる見込みです。

 

ストレスチェックの集団分析はストレス面からの職場環境の改善に繋げるために、年々重要性が高まっているため、今後努力義務から義務へ移行していく方向性になるでしょうから、動向を注視しつつ、自社のメンタルヘルス対策の充実を図る必要があります。

 

まとめ

ストレスチェックの集団分析は単なる法令遵守の手段ではなく、組織の健康と生産性を向上させる重要なツールです。経営者や人事担当者はこの分析結果を積極的に活用し、働きやすい職場環境の創出に努めることが求められています。

 

メンタルヘルス対策は個人の健康だけでなく、組織の持続的な成長にも直結する重要な経営課題です。集団分析を通じて職場の課題を可視化し、継続的な改善を図ることで、従業員の幸福度と企業の競争力を同時に高めることができるでしょう。

 

参考

RECOMMEND

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