昨今ビジネス界で注目を集めている「パーパス経営」。この新しい経営アプローチは企業の存在意義や社会的価値を重視し、単なる利益追求を超えた経営戦略として注目を集めています。
この記事ではパーパス経営の概要、その重要性、実践例を詳しく解説し、ビジネスパーソンが知っておきたい本質とその可能性について解説していきます。
パーパス経営とは
パーパス経営とは、企業の存在意義(パーパス)を明確にし、それを経営の中心に据える経営手法です1。
「パーパス(purpose)」とは目的や意図を意味し、企業におけるパーパスは、その会社が社会に対して果たす役割や提供する価値を表します。従来の企業経営が主に利益追求を重視していたのに対し、パーパス経営では社会貢献や持続可能性といった要素を重視します。
つまり「なぜこの会社は存在するのか」「社会にどのような価値を提供できるのか」という問いに明確に答えることが求められるのです。
なぜパーパス経営が注目されているのか
前述のように、パーパス経営が近年注目を集めている背景には、社会や経済環境の大きな変化があります。パーパス経営が注目を集める背景には、以下のような複数の要因があります。
- 社会的要請の変化
- DX推進の影響
- 消費者・投資家の変化
- 従業員の意識変化
社会的要請の変化
2015年の国連サミットで採択されたSDGs(持続可能な開発目標)の影響がその一因です。
SDGsには17の目標があり、環境問題や人権、経済、テクノロジーなど幅広いテーマを包含しています。企業にも気候変動や人権問題など、社会課題が山積する中、企業の社会的責任がより強く求められるようになり、積極的な関与が期待されるようになりました。
特に若い世代のSDGsへの関心が高いことから、パーパス経営を通じてSDGsに取り組む企業は、若年層からの支持獲得や採用力強化にもつながると考えられています。
DX推進の影響
デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進も、パーパス経営への注目を高める要因となっています。
DXによってビジネスモデルを変革するためには、企業が社会や顧客から何を求められているかを根本から見直す必要があります。この過程で自社の存在意義を再認識することが重要となり、パーパス経営への関心が高まっているのです。
消費者・投資家の変化
環境や人権に配慮した製品やサービスを選好する「エシカル消費」の広がりも関係があります。
エシカル消費
地域の活性化や雇用などを含む、人・社会・地域・環境に配慮した消費行動のこと
リサイクルや環境にやさしい商品を選ぶなど、より良い社会に向けて消費者一人ひとりが考えて、社会的課題の解決に取り組む企業を応援する流れがパーパス経営に影響を与えています。
またESG投資(環境 Environment、社会 Social、ガバナンス Governanceを考慮した投資)の拡大により、企業の社会的責任や持続可能性がこれまで以上に重視されるようになりました。
財務省も企業が社会的課題に取り組まないことは、企業⾃⾝及び投資家にとってのリスクとなっていると報告しています。
従業員の意識変化
若い世代を中心に自分の仕事に意義を見出したいという欲求は高まっています。
パーパス経営によって企業の社会的役割が明確になることで、従業員は自分の仕事の意義をより深く理解できるようになります。日々の業務が単なる作業ではなく、社会に貢献する重要な役割を果たしているという認識が生まれ、仕事に対する従業員のモチベーション向上にもつながります。
パーパス経営は、こうした社会からの要請に応える経営手法として注目を集めています。
パーパス経営の経営効果
企業経営に与えるプラスの効果も検証されています。パーパス経営による経営が企業の競争力強化や売上向上につながることは、近年の実証研究や企業事例から明らかになっています。
企業の成長率
デロイトの10年間にわたる50社の追跡調査によると、パーパス経営を実践する企業は市場シェア獲得率が高く、競合他社に比べ平均3倍の成長速度を記録しています。
また株式会社オリゾの調査によると、3期連続で増収している企業の約8割がパーパスを意識していることが明らかになっています。それだけではなく、パーパスを策定するによって、7割以上が従業員のモチベーションやエンゲージメントの向上を実感していることが報告されています。
この調査結果からは、パーパス経営が与える従業員への影響が、企業の持続的な成長との間に関係があることを示唆しています。
実践女子大学の倉持氏の調査では、パーパス経営企業の経済的パフォーマンスについても報告されています。ROE(自己資本利益率)を分析したところ、平均値は8.2%であったと述べられており、このパフォーマンスは平均的かやや良好だと論じています。
パーパス経営の実践:3つの事例
それでは実際にパーパス経営を実践している企業の事例を見てみましょう。
①ソニーグループ株式会社
ソニーグループは、「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」というパーパスを掲げ、そこで日々仕事を行う上で大切にすべきバリューを「夢と好奇心」「多様性」「高潔さと誠実さ」「持続可能性」と定めています。
ソニーはこのパーパスを通じて、単なる製品製造企業を超えた、創造性と技術の融合による社会貢献を目指しています。例えば環境に配慮した製品設計や、アーティストの表現活動を支援するプラットフォームの提供など、多岐にわたる取り組みを展開しています。
ソニーグループの事例では、パーパス経営導入後の2022年3月期の連結決算では、売上高が前期比10.3%増の9兆9215億円、営業利益は25.9%増の1兆2023億円と大幅な増収増益を達成しました。営業利益率も1.5ポイント上昇して12.1%となり、初めて営業利益が1兆円を突破しています。
②パタゴニア・インターナショナル・インク
アウトドア用品メーカーのパタゴニアは「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む」という理念を2019年にを掲げています。
具体的な取り組み
- 環境保護活動への利益の寄付
- リサイクル素材を使用した製品開発
- 修理サービスの提供による製品寿命の延長
パタゴニアは40年以上前から環境問題へのコミットをパーパスとして掲げていて、サスティナブルな素材を用いたプロダクトを生産するのみではなく、製品の設計から販売、アフターサービスに至るまで、一貫して環境への配慮を徹底しています。
例えば、使用済みの衣類を回収してリサイクルして、一つの商品を長く使う「ウォーンウェア」プログラムや、製品の修理サービスを積極的に提供することで、資源の無駄遣いを減らす取り組みを行っています。
③ネスレ日本株式会社
ネスレ日本は「食の持つ力で、現在そしてこれからの世代のすべて の人々の生活の質を高めていきます」というパーパスのもと、様々な取り組みを行っています。
具体的な取り組み
- 食品ロス削減
- 持続可能な農業支援
- 環境負荷低減への取り組み
例えばサステナビリティ(持続可能性)の取り組みは多岐にわたり、温室効果ガス排出量実質ゼロ、製品パッケージの改善、森林破壊ゼロのサプライチェーン、再生農業の大規模な推進などが挙げれます。
トラック輸送から鉄道輸送へ切り替えることで、年間約900トンの二酸化炭素排出量削減を実現したり、2025年までにプラスチックパッケージの95%以上をリサイクル可 能に設計するなど、多角的なアプローチで社会課題の解決に取り組んでいます。
パーパス経営の実践ポイント
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1現状分析と調査
まず、自社の強みと弱み、競合他社との関係性、従業員のモチベーションを客観的に分析します4。また、ステークホルダーの期待や社会課題を調査し、自社のビジネスとの関連性を検討します。
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2パーパスの策定と明文化
社会への貢献、自社の事業との関連性、従業員の共感、実現可能性を考慮しながら、わかりやすい言葉でパーパスを策定します。
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3社内での浸透
従業員教育の実施、社内コミュニティの活性化、経営戦略への落とし込みなどを通じて、パーパスを経営陣から現場の従業員まで、組織全体に浸透させていきます。
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4戦略への統合
自社の経営戦略を踏まえて、製品開発、マーケティング、人事など、あらゆる企業活動をパーパスに沿って展開します。パーパスに基づいた目標設定やKPIの策定も行い、事業活動全体でパーパスを体現します。
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5ステークホルダーとの対話
パーパスに則った経営実践とその内容を積極的に発信し、顧客、投資家など、多様なステークホルダーとパーパスを共有し、対話を重ねる。
こうしたことを繰り返しながら定期的に成果を測定し、必要に応じて戦略を見直すことで、パーパス経営を継続的に推進していくことがポイントになります。短期的な利益にとらわれず、長期的な価値創造を目指すよう、ポイントを意識しながら段階的に実践し、持続可能な企業成長につなげていきましょう。
パーパス経営と人的資本への投資
パーパス経営を成功させる上で、人的資本への投資は非常に重要な要素です。パーパスを実現するのは人であり、人材の育成なくしてパーパス経営の成功はありえません。
従業員一人ひとりがパーパスを理解し、自らの仕事の意義を見出せるような環境づくりが、この新しい経営アプローチを通じて、持続可能な成長と社会貢献を両立することができるでしょう。
パーパス経営において人的資本への投資が重要である理由
パーパスの実現には人材が鍵
企業のパーパスを実現するのは、最終的には人材です。従業員一人ひとりがパーパスを理解し、それに基づいて行動することで、初めてパーパス経営が機能します。
従業員のエンゲージメント向上
明確なパーパスと、それに基づく人材育成は、従業員の仕事への意欲や帰属意識を高めます。これは生産性の向上や優秀な人材の定着にもつながります。
イノベーションの源泉
パーパスに基づいた人材育成は、従業員の創造性を刺激し、新たな価値創造やイノベーションを促進します。
企業文化の形成
人的資本への投資は、パーパスを中心とした強い企業文化の形成につながります。これは長期的な競争力の源泉となります。
社会的評価の向上
人材育成に積極的な企業は、社会からの評価も高まります。これは優秀な人材の獲得にもつながり、好循環を生み出します。
人的資本への投資例
- パーパスに基づいた教育研修プログラムの実施
- 従業員の自己啓発支援
- ダイバーシティ&インクルージョンの推進
- 健康経営の実践
- 柔軟な働き方の導入
- キャリア開発支援
これらの取り組みを通じて、従業員一人ひとりがパーパスを体現し、自己実現と企業の成長を同時に達成できる環境を整えることが重要です。
健康経営の実践も人的資本への投資では重要になるため、こちらの記事を参考に健康経営を進めてみるのも良いでしょう。
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おわりに
パーパス経営は単なる一時的なトレンドではなく、これからの企業経営の本質的な方向性を示すものだと言えます。社会課題が複雑化し、ステークホルダーの期待が多様化する中で、企業の存在意義を明確にし、それに基づいた一貫性のある行動を取ることは、持続可能な成長のために不可欠です。
しかし形だけのパーパスを掲げても、真の価値創造にはつながりません。全社一丸となってパーパスを追求し、それを日々の業務に落とし込んでいく努力が必要です。そのためには社会の変化とともに進化させていく必要があります。定期的に自社のパーパスを見直し、必要に応じて再定義することも重要です。
そして