生理痛は多くの女性が抱える健康課題です。その影響は個人の生活にとどまらず、企業の生産性にも大きな影響を与えています。
年間約4,911億円もの労働損失をもたらす生理痛。今回はその原因や症状、そして食事療法による軽減方法について詳しく解説し、女性従業員の健康管理の重要性と具体的な支援策のヒントをお伝えします。
生理痛による労働損失の実態
生理痛は多くの女性が経験する健康課題であり、その影響は個人の生活だけでなく、企業の生産性にも大きな影響を与えています。
田中らの調査によると、月経随伴症状による1年間の社会的負担は年間約6,828億円にも上り、そのうち労働損失は4,911億円に達することが明らかになっています。これは全体の約72%にも及ぼます。
さらに月経(生理)の3~10日前に現れる月経前症候群「PMS」による不快症状や心身の不調によって生まれる経済損失は、年間1兆円程度の損失になると試算されています。
仕事への支障
月経によって仕事や生活に悪影響を受ける女性は少なくなく、生理痛やPMSの症状により仕事に支障をきたした経験のある女性は全体の約70%に上ります。
日経BP総合研究所が実施した「働く女性1956人の生理の悩みと仕事と生活」調査(2021年)では、毎月仕事への支障が平均4.85日も出ており、生産性も63.5%に下がることが報告されています。
約5日間の支障が出ている期間は、以下のような影響が出ていることも明らかになっています。
- 効率の低下
- ミスが増える
- 欠勤
- 遅刻・早退
これらの結果は、会社の生産性に大きな影響を与える数字であり、女性の健康管理が企業の重要な課題であることを示しています。
生理痛の原因と症状
生理痛の主な原因
生理痛の主な原因は、プロスタグランジンという物質の過剰分泌です。
生理前後は女性ホルモンであるエストロゲンやプロゲステロンが低下する一方、プロスタグランジンというホルモンが分泌されます。
プロスタグランジンは子宮を収縮させる働きを持つホルモンで、経血を排出するために必要不可欠ですが、過剰に分泌されると強い痛みを引き起こします。
主な症状
生理痛の症状は個人差がありますが、一般的には以下の様な症状が現れます。
生理痛による症状
- 下腹部痛
プロスタグランジンの作用により、子宮やその周囲の血管が収縮することで起こります。
- 腰痛
子宮や子宮周囲の血流が悪くなることで、骨盤周りにだるさや痛みが生じます。
- 頭痛やめまい
ホルモンバランスの変化や貧血が原因で起こることがあります。
- 吐き気や嘔吐
強い痛みやホルモンの変化によって引き起こされることがあります。
- 疲労感や倦怠感
痛みやホルモンの変化によるストレスが原因で生じます。
そのほかにも、イライラ感や集中力の低下、下痢・便秘といった症状を呈することもあります。
症状は個人差が大きく、軽度から重度まで様々です。重度の症状は日常生活や仕事に大きな支障をきたす可能性があります。
日常生活に支障をきたすほどの生理痛は「月経困難症」と言いわれており、大きく2つのタイプがあることも知っておきましょう。
機能性月経困難症
身体に明確な原因疾患がなく、強い子宮の収縮が原因で起こります。思春期の女性に多く見られます。
器質性月経困難症
子宮内膜症や子宮筋腫などの疾患が原因で起こります。
生理痛を軽減する食事療法
食事は生理痛の症状を軽減させる可能性があります。複数の研究によれば、特定の栄養素が生理痛の症状を軽減する効果を期待されています。
以下に症状を和らげるのに役立つ食品や栄養素を紹介します。
オメガ3脂肪酸
オメガ3脂肪酸は抗炎症作用があり、生理痛の軽減に効果があることが報告されています。アメリカの研究では、オメガ3脂肪酸の摂取量が多い人ほど頭痛の頻度が少ないことが示されました。
多く含む食品
- 青魚(サバ、イワシ、サーモンなど)
- 亜麻仁油
- クルミ
マグネシウム
マグネシウムは筋肉の緊張を和らげる効果があり、子宮の過度な収縮を抑制することで生理痛を軽減する可能性があります。
多く含む食品
- ナッツ類(アーモンド、カシューナッツなど)
- 緑黄色野菜(ほうれん草、小松菜など)
- 全粒穀物
ビタミンB群
ビタミンB群、特にビタミンB6はホルモンバランスの調整や神経伝達物質の生成に関与し、PMSの症状改善に効果があるとされています。またナイアシン(ビタミンB3)の摂取量が多い人ほど片頭痛の頻度が低いという研究結果もあります。
多く含む食品
- レバー
- 魚類(マグロ、サバなど)
- 卵
- 乳製品
- 豆類
- バナナ
- 鶏肉
食物繊維
食物繊維は腸内環境を整え、エストロゲンの代謝を促進することで、ホルモンバランスの改善に寄与します。
多く含む食品
- 野菜類
- 果物
- 全粒穀物
- 豆類
ビタミンD
カルシウムの吸収を促進し、骨の健康だけでなく、PMSの症状改善にも効果が期待できます。日光浴を行いながら、体内のビタミンDレベルを維持することも重要です。
多く含む食品
- サケ、マグロ、サバ
- きくらげ、マイタケ
- 卵黄
水分
適切な水分摂取は体内の毒素排出を促進し、むくみを軽減する効果があります。特に冬場は飲水量が減るため、温かいハーブティなどでも良いので、水分を摂取を心がけましょう。
生理痛を軽減するためのポイント
生理痛を軽減させる食べ物を摂取するだけではなく、やはり日常生活の過ごし方によっても症状を軽減させることは可能です。以下のような点に注意しながら、日頃の生活を見直してみましょう。
- バランスの良い食事を心がける
炭水化物、タンパク質、脂質をバランスよく摂取することで、ホルモンバランスの安定に寄与します。
- 規則正しい食事
1日3食、規則正しく食事をとることで、体内リズムを整えます。
- 加工食品や糖分の過剰摂取を避ける
これらの食品は炎症を促進し、症状を悪化させる可能性があります。
- カフェインの摂取を控える
カフェインは利尿作用があり、むくみを悪化させる可能性があります。
- アルコールを控える
アルコールは体内の水分バランスを崩し、症状を悪化させる可能性があります。
まとめ
生理痛は多くの女性が経験する健康課題であり、その影響は個人の生活だけでなく、企業の労働生産性にも影響を与える社会的な課題です。
生理痛の原因は様々ですが、食事療法は、症状を軽減するための有効な手段の一つです。マグネシウム、ビタミンB6、カルシウム、オメガ3脂肪酸、ビタミンDなどの栄養素をバランスよく摂取することで、生理痛の症状を緩和し、より快適な日々を送ることができます。
企業としては、女性の生理痛に対する理解を深め、従業員へのサポート体制を強化することで、労働環境の改善につながります。例えば生理休暇制度の導入、生理痛に関する情報の提供、健康診断における女性特有の健康問題への配慮などが考えられます。
女性従業員の健康管理にフォーカスを当て、働きやすい環境づくりに取り組むようにして、社会的に選ばれる会社を目指しましょう。
弊社では女性従業員に対するヘルスケアセミナーも開催しています。担当の女性講師が、貴社の男性職員の理解が深まるような内容をお伝えいたします。
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参考文献
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