保育士の先生方は子どもたちの成長と発達を支える重要な役割を担っていますが、その責任感と多忙な業務はストレスの原因となり、健康上のリスクを伴います。
今回は保育士が直面する主な健康問題とそれらに対する対策、さらに健康に関する福利厚生サービスについて解説します。
保育士が直面する健康問題と対策
腰痛
保育士の腰痛は仕事の特性上、よく起こる健康問題の1つです。理学療法士の視点から見ると、保育士の腰痛の主な原因は以下の3つが挙げられます。
- 子ども用の低い作業環境
- 頻繁な抱っこやおんぶ
- 筋力不足
子ども用の高さのトイレや水道はカラダをかがめる必要があり、筋力の比較的弱い女性の保育士は腰痛を患いやすくなります。また抱っこやおんぶは自身の体重以上の負荷がカラダにかかるため、腰への負担が大きくなります。
女性の立ち方で多いのが腰が反り、お腹をやや前に突きだした姿勢です。この姿勢は腹筋やお尻の筋肉が弱いと起こりやすくなり、腰への負担が大きいと言われています。この姿勢のまま子どもたちを抱えると腰に強いストレスが加わり、ぎっくり腰や椎間板ヘルニアなどの疾患を引き起こす可能性があります。
予防策
- 適切な姿勢を保つこと
- 定期的なストレッチや体操を行うこと
- 作業環境の改善
- 筋力トレーニング
- 持ち上げ技術の獲得 など
特にインナーマッスルの強化は、腰痛予防において重要です。コルセットのバンドを腰に巻いて仕事をしている方の場合は、自然のコルセットと言われるインナーマッスル(特に腹横筋)を鍛えると、腰にかかる負荷が減少することが報告されています。
また保育士の腰痛予防教室の取り組みなど、理学療法士等の専門家による現地の調査やヒアリングに基づく教育は、腰痛に対する意識の変化や不安感の軽減、運動習慣への意識付けを促進することが示されています。
精神的ストレス
保育士の仕事は子どもたちの成長を支える重要な役割を担っていますが、同時に多くのストレスを伴う職業でもあります。保育士が経験する精神的ストレスの原因は多岐にわたり、それに対する対策も様々です。
多忙なスケジュールと長時間労働
保育士は子どもたちの世話だけでなく、日誌の記入、保護者とのコミュニケーション、イベントの準備など、多岐にわたる業務をこなさなければなりません。
これらの業務はしばしば残業や持ち帰り仕事となり、ストレスの大きな要因となっています。子ども達1人1人の成長を支援していきたいと思っても、保護者のためのイベント準備に追われてしっかりアセスメントできないといった葛藤に苅られることもあります。
理不尽なクレーム
保護者にとって大切な子どもを預かっているため、ケガや骨折などに気を使う必要があり、万が一ケガをしたり、コブができたりするとクレームに繋がります。
また園や保育士に対する理不尽な要求やクレームも精神的なストレスの原因になっています。
給与や待遇面の不満
保育士の給与は他の職種に比べて低いと言われていますが、同年代と給与と比較すると平均値は実際はそこまで変わりません。しかし長時間労働が増えると、それに見合わない報酬はストレスとなり得ます。
処遇改善加算が制定されるも、その加算分が保育士の給与に全面的に反映されるかは定かではありません。保育士が賃金を上げるにはは園内での昇進や処遇改善加算Ⅱの研修を受ける、転職するなどの選択も必要になるでしょう。
人間関係の複雑さ
保育園は女性が多い職場であり、感情の起伏や派閥争い、パワハラやいじめなど、人間関係に起因するストレスが報告されています。
特に先輩保育士によるパワハラに近い実態はよく耳にします。保育士へのヒアリングでは支援がそこまで必要ない児童を先輩保育士が優先してみるため、他の手のかかる児童を後輩の保育士がみることになり、業務負荷が増え精神的なストレスが増すとの回答もありました。
予防策
- 定期的なメンタルヘルスのチェック
- カウンセリングサービス
- 趣味やリラクゼーションの時間を確保
- 管理監督者の労働時間の管理
- 十分な休息と睡眠
- 保護者教育 など
保育士のストレス対策は個人の努力だけでなく、職場環境や社会的支援が整っていることが重要です。保育士が健康で充実した職業生活を送るためには、これらの対策を積極的に取り入れ実践することが求められます。
保護者への適切な情報提供と教育を行い理不尽なクレームを未然に防ぐ努力も、保育士のストレスを軽減しより良い保育環境を実現するためには不可欠です。
感染症のリスク
保育施設は乳幼児が集まる場所であり、子ども達の免疫システムが未熟であるため、感染症が広がりやすい環境であることが感染症のリスクの原因となっています。
1.密接な接触
保育の性質上、子どもたちとの身体的距離を取ることは困難であり、抱っこや手をつなぐなどの接触が避けられません。
また子どもたちとは保育園内で長時間を共に過ごし、食事や遊び、午睡などの活動を共有します。幼い子どもたちは、適切な手洗いや咳エチケットを自ら徹底することが難しく、飛沫感染や接触感染のリスクが高まります。
2.衛生習慣の指導
乳幼児は適切な手洗いや咳エチケットを自ら実践することが難しく、保育士がこれらの衛生習慣を指導し、実践する必要があります。
またおむつ交換など排泄物に触れることもあるため、保育士自身の正しい手洗い方法の習得も不可欠です。
3. 環境の衛生管理
おもちゃや遊具など、共有される物品の衛生管理が不十分だと感染症が広がる原因となります。
保育施設内のおもちゃは数が多く、すべての物品の衛生管理を行うことが大変な点もリスク要因の1つと言えます。
予防策
- 手洗いや消毒の徹底
- 予防接種の促進
- 子どもへの健康教育の実施
- 感染症の早期発見・早期対応
保育士は風邪やインフルエンザなどの感染症にさらされやすい職業です。感染症から身を守るためには、子ども達や保育士自身がしっかりと予防することが大切です。
保育士に適した健康に関する福利厚生
保育士の健康支援は個人の健康意識の向上だけでなく、事業所全体で取り組むべき課題です。
産業医や保健師など他職種との連携も重要であり、多職種協働による継続的なサポートも円と保育の質を高め、園のイメージアップに繋がります。
保育士に適した福利厚生としては、以下のようなサービスが考えられます。
メンタルヘルスサポート
ストレスが多い職場環境にある保育士の精神的なストレスは、保育士の職業病とも言える問題です。そのためメンタルヘルスのサポートが不可欠です。
ストレスチェックは労働安全衛生法により従業員数が50人未満の場合には実施する義務はないとされていますが、1on1のカウンセリングサービスやストレスマネジメントの研修を開催することが精神的ストレスへ対応力を高めます。
アメリカではストレス軽減のために、「メンタルヘルス休暇」を取得できる制度を設けるケースが増えていることもウォールストリートジャーナルで紹介されています。
運動プログラムの提供
腰痛予防のための運動プログラムや、職場内でのストレッチタイムの設定など、体を動かす機会を提供することで、身体的な健康を促進します。
フィットネスクラブの会員費用補助など健康促進のための施策の導入も1つですが、女性の多い職業のためフィットネスクラブに通う時間もないスタッフも少なくありません。
ただでさえ時間に追われる園での時間を有効に使うには、休憩中を利用した出張整体・リラクゼーションサービスを利用したり、外部講師を招いての子ども達と一緒にヨガ・ストレッチを実践するなどの取り組みも良いでしょう。
健康教育
園自体の取り組みも必要ですが、保育士自身に考え方をあたらめてもらう必要もあります。そうした場合には健康に関する教育を受けることで意識を変えていくことも必要となるでしょう。
保育士のための健康教育には、以下のような取り組みが考えられます。
基本的な生活習慣の指導と実践
- 健康な生活リズムの確立
- 適切な栄養摂取とバランスの良い食事
- 定期的な運動習慣の促進
メンタルヘルスの管理
- ストレスマネジメントの方法
- コミュニケーションスキルの向上
- ワークライフバランスの重要性
病気予防と衛生管理
- 手洗いやうがいなどの基本的な衛生習慣
- 感染症対策としての予防接種の推奨
- 園内の清潔環境の維持と管理
このほか子どもの健康管理と教育について小児保健の専門家から学ぶこともよいでしょう。これらの取り組みを通じて保育士のみなさんの健康を守りながら、子どもたちの成長を支えることができる環境を整えることができます。
おわりに
保育士の健康問題は、子どもたちの成長と発達を支える質の高い保育を提供するためにも重要な課題です。また園のイメージアップにも繋がります。
関係者全員が協力して、保育士が健康で充実した職業生活を送れる環境づくりに取り組んでいけるように取り組んでみましょう。
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