業務改善助成金は、中小企業が生産性向上のための設備投資を行い、従業員の賃金を上げることで国から最大600万円の助成が受けられる制度です。
例えばロボットを導入することで作業時間の短縮や必要人員の削減を行ったケースが挙げられます。
助成金を受けるには一定の要件を満たす必要があり、申請手続きも必要となります。本記事では業務改善助成金の概要、活用事例、申請方法などを詳しく解説します。
業務改善助成金の概要
業務改善助成金は中小企業・小規模事業者が生産性向上のための設備投資等を行い、事業場内最低賃金を一定額以上引き上げた場合にその設備投資等にかかった費用の一部を助成する制度です。
この制度は中小企業の競争力強化と従業員の待遇改善を同時に実現することを目的としており、支給額は最大600万円となっています。
なお後ほど詳細を記載しますが、事業場内で最も低い賃金(事業場内最低賃金)を30円以上引き上げを行った場合が対象となります。
対象となる設備投資等
助成対象事業場における、生産性向上に資する設備投資等が助成の対象となります。
例えば以下のようなものが挙げられます。
- POSレジシステム導入による在庫管理の短縮
- リフト付き特殊車両の導入による送迎時間の短縮
- 省力化機器の購入
- 従業員の教育訓練
- 国家資格者によるコンサルティング
業務改善助成金の活用事例
より具体的な業務改善助成金の活用事例についてもご紹介します。
飲食店
電話注文への対応を省力化できる仕組みの導入と店内の配膳業務の効率化のために、テイクアウト注文のための予約サイトの解説、店内のカウンターの改装による作業の効率化を実施。
電話注文では1件当たり5 ~ 15 分の時間を要していたが、注文が自動化されたことで対応する時間を削減でき、売上が35%UP。店内改装は平日昼の来店数が1日10人以上増加。
美容室
洗髪施術をスタイリストが全て手作業で行っていたものを、アシスタントでも施術可能なシャンプー機器を導入し、業務効率化と業務負担を分散。
これによりヘッドスパ等の付加価値となるメニューをお客様に提案できるようになった。
(参考)厚生労働省 生産性向上のヒント集 労働時間削減や賃金引上げにつながる事
その他
- 飲食店での配膳ロボット導入
繁忙期のスタッフの負担軽減のため、配膳ロボットを導入。 - 自動車整備会社での最新溶接機導入
最新の溶接機を導入し、作業効率が35%向上。品質も安定化し、従業員の賃金引き上げ繋がる。 - ITソフト導入による業務効率化
在庫管理、顧客管理、請求書発行などを一元管理するITソフトを導入。作業時間短縮とミス減少を実現。 - 従業員向け研修プログラムの実施
新しい製造技術や効率的な作業手順の研修を実施することで、スキル向上と生産性向上を達成。 - 業務管理ソフトウェアの導入
顧客管理、予約管理、在庫管理を一元化するソフトウェアを導入。業務時間短縮と戦略的業務への集中を実現。 - 製造業での自動化機器導入
手作業工程を自動化し、作業時間短縮と品質向上を実現。生産性向上とコスト削減。 - 宿泊業での食材スライサー導入
調理時間短縮と製造量増加を実現。 - 飲食店での自動券売機導入
精算業務の時間短縮に成功。
具体的な生産性向上のための取り組み事例が、厚生労働省のウェブサイトや「生産性向上のヒント集」に記載されていますので、そちらも参考にされてみてください。
助成金の対象となる事業者
助成金の対象となるには以下の3つを満たす必要がります。
- 中小企業・小規模事業者であること
- 事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額が50円以内であること
- 解雇、賃金引き下げなどの不交付事由がないこと
上記要件を満たしている事業者が、最低賃金の引き上げ計画と設備投資等の計画を立てて「事業場ごと」に申請を行う必要があります。
助成上限額と助成率
助成上限額
事業場内最低賃金の引上げ幅に応じて、以下のように上限額と助成率が決まります。
引上げ額 | 助成上限額(30人以上) | 助成上限額(30人未満) |
---|---|---|
30円以上 | 30万円〜120万円 | 60万円~130万円 |
45円以上 | 45万円〜180万円 | 80万円~180万円 |
60円以上 | 60万円〜300万円 | 110万円~300万円 |
90円以上 | 90万円〜600万円 | 170万円~600万円 |
※ 助成上限額は、賃金引上げ労働者数と事業場規模によって変動します。
具体的な上限額は厚生労働省の令和6年度業務改善助成金のご案内に記載があります。
(図)厚生労働省の令和6年度業務改善助成金のご案内
助成率
引き上げ前の事業場内最低賃金 | 助成率 |
---|---|
900円未満 | 9/10 |
900~950円未満 | 4/5(9/10) |
950円以上 | 3/4(4/5) |
()内は生産性要件を満たした事業場の場合
生産性要件
生産性を向上させた事業者が業務改善助成金を利用する場合、助成率がアップします。
要件
助成金の申請時の直近の会計年度における「生産性」が、その3年度前に比べて6%以上伸びていること、またはその3年度前に比べて1%以上(6%未満)伸びていること
生産性要件が廃止される労働関係助成金もありますが、業務改善助成金は引き続き生産性要件が設けられています。
生産性要件を満たすとして申請をする場合は、生産性要件算定シートの提出などが必要となるので、厚生労働省のこちらのサイトから確認をしましょう。
助成金の支給額
助成金の支給額は、設備投資等にかかった費用に助成率を乗じた金額と、助成上限額のいずれか低い方となります。
助成金額の算出方法
(例:事業場内の従業員が8名の場合)
事業場内最低賃金:980円
→980円が最低賃金の場合は助成率は3/4
5人の従業員の最低賃金を60円アップさせる(60円コース)
→助成上限額:190万円(事業場規模30人未満)
設備投資にかかった費用:200万円
特定事業者の対象
なお以下の要件に該当する事業者は「特例事業者」となり、物価高騰要件に該当する場合は助成対象経費の拡充も受けられます。
特定事業者の要件
①賃金要件
事業場内最低賃金が950円未満の事業場に係る申請を行う事業者
(例)事業場内の最低賃金が945円
賃金要件の場合、助成上限額の拡大が受けられ、労働者数の「10人以上」の区分を選択できるようになります。(10人以上の労働者の賃金を引き上げる場合)
②物価高騰等要件
物価高騰等要件は原材料費の高騰などの外的要因により、申請前3か月間のうち任意の1月の利益率(売上高総利益率または売上高営業利益率)が、前年同期に比べ3%ポイント以上低下している事業者が対象となります。
%ポイントという単位が出てきますが、こちらは比較する月の%の差を表す単位のことです。
具体的には売上総利益が20%あった事業者が16%に減少した場合は、4%ポイントの低下となります。
対象経費の拡充
通常、助成対象となる生産性向上に資する設備投資等として認められていないものも対象となります。
- パソコン,スマートフォン,タブレット等の端末と周辺機器の新規導入
- 定員7人以上または車両本体価格200万以下の乗用自動車や貨物自動車
なお2つの要件ともに申請する際に「事業活動の状況に関する申出書」が必要となります。
書類自体は記載する事項は少ないのですが、申請後、労働局の立ち入り検査に協力する要件が記載されています。
(図)厚生労働省 業務改善助成金 交付要綱・各種様式より
申請から入金までの流れ
助成金支給は事業場所在地を管轄する都道府県労働局に対し、所定の様式で交付申請を行う必要があります。
step
1交付申請
交付申請を行った後に、内容が適切であれば助成金交付決定通知が届きます。
通常1カ月程度審査に時間を要します。
step
2事業の実施
交付決定通知が届いてから、生産性向上のための設備投資や教育等を実施します。
step
3最低賃金の引き上げ
事業実施と合わせて事業場内の最低賃金も一定額以上に引き上げます。
step
4事業実績の報告
労働局へ事業実施の報告書等と助成金支給の申請書を提出します。
step
5助成金の支払い
事業実績報告書等が適正と認められれば交付額が決定し、助成金が支払われます。
申請の期限と注意点
申請期限
業務改善助成金の申請は「令和6年12月27日」までとなっています。申請期限までが残り短いため、申請される事業者さまは早急に準備するようにしましょう。
なお事業完了期限は「令和7年1月31日」となっています。
※やむを得ない事由がある場合は、理由書の提出により2025(令和7)年3月31日とできる場合もあり
なお事業完了期限とはのいずれか遅い日となります。
- 導入機器等の納品日
- 導入機器等の支払完了日(銀行振込の振込日。クレジットカード等の場合は口座の引き落とし日)
- 賃金引上げ日(就業規則等の改正日)
申請時の注意点
業務改善助成金の申請には、以下の点に注意が必要です:
①交付決定前の設備投資は対象外
交付決定の通知を受ける前に実施した設備投資や経費は、助成の対象外となります。
必ず交付決定後に事業を開始する必要があります。計画段階から申請、決定までの時間を考慮に入れて準備を進めることが重要です。
②賃金引上げの実施
助成金の支給には、事業場内最低賃金の引上げが条件となりますが、注意事項がいくつかあります。
- 地域別最低賃金の発効に対応して事業場内最低賃金を引き上げる場合、発効日の前日までに引き上げる必要がある
- 引き上げ後の事業場内最低賃金額と同額を就業規則等に定める
- 令和6年度より複数回に分けての事業場内最低賃金の引上げは認められない
事業場内最低賃金を引き上げる際、10月1日新しい地域別最低賃金が950円→1,000円が発効される場合は9月30日までに事業場内の最低賃金を引き上げる必要があります。1日でも遅れると対象外となるため注意しましょう。
③申請書類の準備
申請書類の不備は審査の遅延や申請却下の原因となります。
申請期限まで残り期間が少ないため、特に事業計画書や賃金引上げ計画書は詳細かつ具体的に記載する必要があります。
④事業完了報告
設備投資等の完了後、速やかに事業完了報告を行う必要があります。
報告の遅延は助成金支給の遅れにつながる可能性があるため、事業完了後はできるだけ早く完了報告を行いましょう。
まとめ
業務改善助成金は、中小企業が生産性向上と従業員の待遇改善を同時に実現するための有用な制度です。
設備投資や従業員教育などに活用することで企業の競争力強化につながるため、この助成金を戦略的に活用し生産性の高い職場づくりを進めていくとよいでしょう。
ただし申請手続きや要件の確認には漏れがないように注意を払い、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをオススメします。
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