「またいい先生が辞めてしまう…」 「現場の疲弊感が、園全体の雰囲気を重くしている…」幼稚園や保育園の経営者、園長先生、こんな悩みありませんか?
高い専門性と愛情を持って子どもたちと向き合うべき保育士が、次々と現場を去っていく。この深刻な事態は、もはや個人の努力や根性論で解決できる問題ではありません。
その根源にあるのは、保育士一人ひとりの心身を蝕む「過酷な労働環境」です。そして、この根深い課題を解決し、子どもたち、保育士、そして園の経営、そのすべてにとって明るい未来を切り拓く鍵こそ、AI活用にあります。
「AIなんて、うちのようなアナログな現場には関係ない」と思われるかもしれません。しかし、本記事を読み終える頃には、その考えは大きく変わるはずです。
この記事では、なぜ今、保育業界にこそAIが必要なのか、そしてAIがどのようにして保育士のウェルビーイング(心身の健康と幸福)を実現し、園の持続的な成長を支えるのかを経営者の視点から分かりやすく解説します。未来への投資として、ぜひ最後までお付き合いください。
経営に与える深刻なインパクト
有効求人倍率3.78倍。これは、保育士採用市場の厳しい現実を示す数字です。全職種平均の約2.8倍にも達するこの数値は、もはや精神論や個別施策では太刀打ちできない構造的な人材不足を示唆しています。
採用・育成に多大なコストを投じても、定着に繋がりにくい。この現実に、多くの経営者が頭を悩ませているのではないでしょうか。
しかし、問題は「採用難」という“量”の側面だけではありません。本当に目を向けるべきは、現場で働く職員の“質”、すなわち生産性の低下という経営リスクです。
保育士の心身の疲労
まず、目を向けなければならないのは、保育士が置かれている厳しい現実です。彼ら・彼女らの心身の健康問題は、単なる個人の問題ではなく、園の経営基盤そのものを揺るがしかねない重大なリスクです。
燃え尽き症候群(バーンアウト)という静かな危機
対人援助職である保育士は、「バーンアウト(燃え尽き症候群)」のリスクが極めて高い職種の一つです。
磯野らの調査によると、保育士のストレス要因としては「職場の人間関係」「仕事量の多さ」が突出しており、これらが情緒的な消耗感や達成感の低下に直結することが示されています。
「書類仕事が終わらない」「休憩がまともに取れない」。こうした声は、単なる愚痴ではありません。保育士の職場のストレスを研究したものでは、持ち帰りの仕事や休憩が取れない状況が、保育士のストレスやバーンアウトと関連することが示されています。
バーンアウトに陥った保育士は、子どもに対して心を込めて関わることが難しくなり、保育の質は必然的に低下します。これは、子どもたちの健やかな発達を阻害するだけでなく、重大な事故のリスクを高めることにも繋がりかねません。
保育士の先生方の健康課題についてはこちらで詳しく解説しています。
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参考【質の高い保育のために】保育士の健康問題と対策・福利厚生について考える
保育士の先生方は子どもたちの成長と発達を支える重要な役割を担っていますが、その責任感と多忙な業務はストレスの原因となり、健康上のリスクを伴います。 今回は保育士が直面する主な健康問題とそ ...
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出勤しているのに成果が落ちる
経営者が注視すべき1つに、出勤はしているものの、心身の不調によって本来のパフォーマンスが発揮できずに生産性が下がってしまい、労働コストが増えてしまっている点があります。
海外の研究では、健康リスクの高い従業員は、低い従業員に比べて約3倍の労働生産性の損失が発生すると試算されています。
これは欠勤とは異なり、疲労やストレスを抱えたまま業務を行う保育士は、創造的な保育活動を展開できず、子どもや保護者への対応も丁寧な対応を欠きがちです。
仮に月給25万円の保育士のパフォーマンスがストレスにより20%低下しているとすれば、年間60万円(25万円×12ヶ月×20%)もの人件費が「見えないコスト」として失われている計算になります。
これらのことから、保育現場の経営課題は、「採用難(量の問題)」と「生産性ロス(質の問題)」の2つに集約されます。
この両者を同時に改善するには、業務の土台そのものを変革する必要があります。AIはそのための最も合理的な打ち手だと言えます。
なぜAI活用が重要なのか?
具体的にAIはどのように現場を変えるのか。「時間」「安全」「専門性」の3つの視点から、客観的なデータと共に解説します。
業務の効率化
保育士は、子どもと向き合う時間以外に、膨大な量の事務作業に追われています。
指導案、保育日誌、各種記録簿、保護者への連絡帳、行政への提出書類…。これらがサービス残業や持ち帰りの仕事の温床となっていることは、多くの調査で指摘されています。
AIはこの非生産的な時間を削減するのに、とても有効です。
指導案・日誌のアシスト
保育士はAIによって作成された文章を叩き台にして、より個別最適な内容に編集するだけで済むようになります。
保護者連絡の自動化・個別最適化ト
AIが過去のデータから最適なひな型を生成し、人はそれを基に仕上げるというワークフローを構築することで、「考える時間」と「書く時間」を分離し、生産性を最大化してくれます。
こうしたICT(情報や知識を共有し、コミュニケーションを行う技術)の導入を進めている園は、三菱UFJの調査によると84.4%にも上ると言われています。
まだ導入を躊躇っている園は積極的に導入を検討しなければ、人手不足の中で、他の園よりも働き方の点において遅れをとることになります。
安全性の確保
子どもの命を預かるというプレッシャーは、保育士にとって最も大きなストレスの一つです。特に、乳幼児突然死症候群(SIDS)のリスクが伴う午睡(お昼寝)の時間帯は、片時も目が離せない緊張の時間です。
AIは人の目と組み合わせることで、安全性のレベルを飛躍的に向上させます。
午睡チェックAIセンサー
天井に設置したカメラや、衣服・寝具に装着した小型センサーが、子どもの呼吸や体の動き、うつ伏せ寝などを常時モニタリング。異常を検知した際には、即座に保育士の持つ端末にアラートを通知します。
このシステムにより、SIDSのリスクを低減すると同時に、保育士の精神的負担が大幅に軽減します。
厚生労働省の報告でも、センサーと人の目を併用することで「午睡チェック従事時間の削減」と「職員の心理的負担の軽減」の両面で明確な効果が確認されています。
ヒヤリハット事例のAI分析
園内で発生したヒヤリハットの記録をAIが分析。特定の場所や時間帯、活動内容における危険の傾向を可視化し、具体的な再発防止策を提案します。
園内での事故は昨今テレビなどでも報道され、社会的な信頼失墜につながるため、ヒヤリハット事例の分析は予防策として非常に有効です。
こうした取り組みは、安全性の向上と職員の心身を良い状態に保つことに直結するのです。
保育の質を高める
ベテラン保育士の「勘」や「経験」は非常に貴重ですが、属人化しやすく、若手への継承が難しいという課題がありました。AIはその知見を客観的なデータで裏付け、組織全体の専門性を高める手助けをします。
またAIを活用した匿名のストレスチェックツールなどを導入することで、保育士自身が自分の心の状態を客観的に把握できます。必要に応じてカウンセリングなどのサポートに繋げることで、バーンアウトを未然に防ぎ、保育の質を高めることも可能となります。
メンタルヘルスは特に対人サービス業においては特に重要とされているため、日頃の連絡帳のコメントなどから不調を推測することも有用かもしれません。
AI導入で未来はこう変わる
現在ICT導入をしている園は増えていますが、それでも業務の負担は変わらず増えています。
導入前の課題
- 保育士の残業時間が月平均20時間を超え、離職率は全国平均を上回る12%に達していた。
- 事務作業に追われ、保育士が子どもとじっくり向き合う時間が不足。保育のマンネリ化が課題に。
- 午睡チェック時の精神的プレッシャーから、体調を崩す職員もいた。
こういった課題に日々さらされている保育士にかかる心身の負担を、AIを活用した取り組みによって、以下のような改善が見込めます。
AI導入後の変化
- 事務作業時間が毎日1時間短縮
- 離職率の低下
- 保育の質が向上
- 安全への保護者からの信頼UP
AIを今後導入することはどの産業も自然な流れとなります。AI活用を嫌うスタッフもいるかもしれませんが、それはPCを使わずに仕事をしていくようなものです。
おわりに
保育士の過酷な労働環境という経営課題に対し、AI活用がいかに有効なソリューションとなり得るかを、具体的な根拠と共に説明してきました。
優秀な保育士の離職に肩を落とし、現場の疲弊感に解決策を見出せずにいる経営者や園長先生が、これまでのやり方の延長線上に、明るい未来を描くことは難しいかもしれません。
「まずは、私たちの園の課題がどこにあるのかを客観的に把握することから始めたい」
そう感じになられたなら、ぜひ一度、私たちにご相談ください。貴園の状況を丁寧にヒアリングし、最適な課題解決の道筋をご提案するだけでなく、全体職員向けのAIをどのように導入したらいいかのワークショップも開催いたします。
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参考文献
- 磯野富美子, 鈴木みゆき, 山崎喜比古. (2008). 保育所で働く保育士のワークモチベーションおよびメンタルヘルスとそれらの関連要因. 小児保健研究, 67(2), 367-374.
- 「Healthy Workforce 2010 and Beyond,2009」Partnership for Prevention and U.S. Chamber of Commerce
- データヘルス・健康経営を推進するためのコラボヘルスガイドライン(厚生労働省保健局)
- 赤川陽子, 木村直子. (2019). 保育士の職場ストレスに関する研究―休憩時間・持ち帰り仕事からの検討―. 保育学研究, 57(1), 56-66.
- 厚生労働省. (2021). ロボット・AI・ICT 等を活用した保育士の業務負担軽減・業務の再構築に関する調査研究報告書.
- こども家庭庁/三菱UFJリサーチ&コンサルティング「保育施設等におけるICT導入状況等に関する調査研究事業 報告書(2025)」
- 厚生労働省「ロボット・AI・ICT等を活用した保育士の業務負担軽減…(モデル実証報告)」
- 厚生労働省「コラボヘルス・ガイドライン」
- こども家庭庁「保育士の有効求人倍率の推移(2025/1)」