記録業務に年間いくら払っていますか|介護事業所のAI活用を経営数字から考える

記録業務年間費用

具体的には以下の流れ手段

厚生労働省の「介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン」では、タブレット端末の活用や記録・報告方法の見直しにより、職員1人当たりの記録作業時間が月170.4分削減され、帳票も3種類削減された事例が紹介されています。

 

月およそ3時間弱。1人分だとピンときませんが、30人の事業所なら月85時間です。

 

現場では「記録が終わらない」という言葉で語られるこの問題は、経営の側から見ると残業代、つまり人件費として支払っているわけです。

 

この記事では、記録業務を時間ではなく金額で捉え直したうえで、生成AIと音声入力をどう組み込むかを、経営の判断材料としてお伝えていきます。

自社の「記録コスト」を算出する

自社コスト

記録コストを算出すると言われても、ピンとこないかもしれませんが、計算式は単純です。

 

計算式

1人1日の記録時間 × 職員数 × 稼働日数 × 時間あたり人件費

 

仮に、1人1日30分、職員30人、月22日、時間あたり人件費1,300円とすると、月におよそ42万9千円。年間では500万円を超えます。

 

このうち残業時間帯に発生している分は、割増賃金が乗ります。実際にはもう少し重い数字になっているはずです。

 

もちろん記録はケアの一部で、ゼロにはできません。

 

ただ、「転記」「清書」「文体を整える」といった工程は、価値を生んでいるとは言いにくいです。ここを削る余地がどれだけあるか、業務改善はこの判断から始まります。

 

正直に書くと、この計算をすると多くの管理者が驚きます。感覚では「まあ多少はかかっているな」程度だったものが、実際は採用1人分以上のお金がかかっていたことが、見えてくるからです。

 

記録が終わらない構造は3つ

PC操作「記録が大変」とひとくくりにするとどのような対策をしたらいいかがわかりません。まずはこの工程を分解して考えてみましょう。

①事実を思い出す工程

 介助が終わってから記録に向かうまで時間が空くと、記憶をたどる作業が発生します。ここが最も見えにくいロスです。

②文章に整える工程

 頭のなかにあることを、記録として通用する文体に変換する作業です。慣れた職員なら数分、慣れない職員なら十数分かかります。ここに個人差が集中します。

③転記の工程

 手書きのメモを介護ソフトに打ち直す、同じ内容を連絡帳と施設内記録の両方に書く。純粋な二重作業です。

 

生成AIと音声入力が効くのは、主に①と②です。③は介護ソフトとデータ連携の領域なので、AIだけでは解決しません。

 

AIは何でもできそうですが、現場の工程を全て簡略化できるというのは幻想です。ここを混同するとせっかく効率化のためにAIを導入したのに失敗してしまう可能性が高まります。

「その場で音声、あとでAIが整える」に組み替える

音声入力

では、①②に対してどのような手段をとれば効率化が図れるのでしょうか。具体的には以下の流れになります。

  1. 介助や訪問の直後、スマートフォンの音声入力に一言だけ吹き込む。
  2. 「10時、入浴介助、湯温確認、ふらつきなし、左膝の痛みの訴えあり」。
    この時点では文章になっていなくて構いません。
  3. 事務所に戻ってから、そのメモを生成AIに渡し、記録の文体に整えてもらう。
  4. 職員は、出てきた文章を読み、事実と違うところを直す。

指示文はこの形で足ります。

あなたは介護記録の作成を補助するアシスタントです。
以下のメモを、施設内の介護記録として使える文章に整えてください。

【条件】
- 敬語・客観的な記述にする
- 観察した事実と、職員の判断・所感を分けて書く
- 時系列がわかるようにする
- 推測が含まれる場合は(推測)と明記する
- 誇張や、メモにない内容の補完はしない
- 個人を特定できる情報は含めません

【メモ】
10時 入浴介助 湯温確認済み ふらつきなし
左膝の痛みの訴えあり 「昨日から少し」とのこと
浴室内で手すりを使用 見守りで対応

 

返ってくるのは、事実が時系列に並び、所感が分離された文章です。

 

作業時間で言えば、書き起こしと清書に10分かけていたものが、確認と修正の3分程度になります。

 

削っているのは「文章に整える工程」であって、観察や判断ではありません。ここは職員に説明するときのポイントになります。

 

なお、介護ソフトの中には音声入力対応のソフトなどもありますので、現在利用しているサービスの上乗せとして、契約して利用するのもよいでしょう。(例:ほのぼのVoiceなど)

ご家族向けと施設内で書き分ける

白と水色

施設内記録は、事実を短く正確に。ご家族向けの連絡帳は、状態を伝えつつ不安を煽らない配慮が要ります。

 

この書き分けは経験に依存していて、若手が苦手とする領域です。

 

AIには変換元と変換先を指定します。

以下の施設内記録を、ご家族向けの連絡帳の文章に書き直してください。

【条件】
- 事実は変えない
- 専門用語は日常の言葉に置き換える
- 過度に不安を与えない表現にするが、必要な情報は省略しない
- 施設として次に何をするかを一文で添える
- 200字程度
- 個人を特定できる情報は含めません

【施設内記録】
(ここに記録本文を貼り付け)

 

若手が書いた連絡帳を主任が直す、という運用をしている事業所も存在します。

 

この添削時間そのものが管理職の無駄な時間になっているので、AIに一次変換をさせることで、この確認の負荷を減らすことができます。

記録時間の削減は加算要件と関連

加算要件

介護報酬には生産性向上推進体制加算があり、テクノロジーの導入と、職員の負担軽減を検討する委員会の設置・定期開催が要件に含まれます。

 

区分は(Ⅰ)が月100単位、(Ⅱ)が月10単位です。

加算Ⅰ・Ⅱの比較

  生産性向上推進体制加算Ⅰ 生産性向上推進体制加算Ⅱ
単位数 100単位/月 10単位/月
位置づけ 上位区分 基本・導入区分
委員会の設置・開催 必要(3月に1回以上) 必要(3月に1回以上)
生産性向上ガイドラインに基づく業務改善 継続的に実施 継続的に実施
テクノロジーの導入 原則として指定された3種類すべて 指定された種類のうち1種類以上
職員間の適切な役割分担 必要 要件なし
業務改善の成果 算定開始前に成果確認が必要 算定開始時点では成果要件なし
厚労省への実績報告 年1回 年1回
報告項目 原則5項目 原則3項目
主な狙い テクノロジーを複数活用し、成果まで出している事業所を評価 テクノロジー活用と改善活動を開始・継続している事業所を評価

 

また、処遇改善加算の職場環境等要件にも「生産性向上」の区分があり、ICT機器の導入や業務手順書の整備がそのまま該当します。

 

つまり、記録時間を減らす取り組みは、業務が軽くなるだけでなく、要件を満たす根拠資料にもなるということです。

 

委員会の議事録に「音声入力と生成AIの試行、記録時間の変化」を残しておけば、二度手間になりません。

 

国の方向性も同じで、厚生労働省の「2040年に向けたサービス提供体制等のあり方に関する中間とりまとめ」(2025年4月)には、以下のような内容が示されています。

 

計画書やサービス担当者会議等の議事録の原案作成に生成AIを活用することは、業務効率化に資するとされ、ケアプランについてもAIによる作成支援を介護現場にどう組み込むか検討が必要とあります。

うまくいかない事業所に共通すること

カードを持つ女性

AI導入がとまるパターンはある程度決まっています。

全部を一度に変えようとする

 記録、連絡帳、報告書、会議録。まとめて変えると、現場が覚えることが増えすぎて元に戻ります。最初は1つの書類だけにしてください。

現場に丸投げする

 「AIを使っていいよ」だけでは、使う人と使わない人に分かれ、記録の質にばらつきが出ます。管理者が指示文の型を用意し、全員が同じものを使う状態にするのが先です。

効果を測らない

 導入前の記録時間を測っていないと、変わったかどうかが誰にもわかりません。2週間でいいので、導入前に実測しておいてください。

 

全体に浸透させるのには時間がかかりますので、まずは管理職自身が自分の書類でひと月使ってみることから始めてください。

 

事業所として決めておく「3つの線引き」

NEWルール

ここは管理者が決めるべきことです。職員任せにしないでください。

利用者を特定できる情報は入力しない

 氏名、住所、事業所名は入れません。「80代・女性・要介護2」で、AIは十分に働きます。

 

あわせて、入力内容が学習に使われない設定のサービスを選び、その設定を誰が確認したかを記録しておきます。

出てきた文章は必ず職員が確認して直す

 AIは、もっともらしく見えて事実と違う文章を作ることがあります(ハルシネーション)。

 

AIの出力をそのまま保存する運用は認めない、と明文化してください。

判断と評価はAIに任せない

状態の評価、リスクの見立て、次の対応の決定は職員が行います。

 

AIが担うのは、記録の下書きまでです。

 

この3つのルールを1枚の紙にして掲示するところから始めると、事業所として方針が示され、比較的安全にスタートすることができます。

AI活用が向かない場面もある

注意事項

音声入力は、周囲がうるさい環境や、方言・専門用語の多い発話では精度が落ちます。

 

フロアの真ん中で使うより、静かな場所で数十秒吹き込むほうが確実です。

 

また利用者の前で音声入力するのに抵抗がある方も少なくありません。特に年配のスタッフになるとその傾向が顕著です。

 

また、記録が「短くきれいになりすぎる」現象も起こります。

 

AIが整えた文章は読みやすい反面、職員が感じた違和感のような、言語化しにくい情報として省かれることがあります。

 

気づきの部分は職員が自分の言葉で足す、という運用を最初に決めておく必要もあるでしょう。

 

コストの面でも、生成AIの有料プランは1人月額数千円が目安です。

 

初めから全職員に配ると相応の額になるため、まずは記録に時間がかかっている数名や管理者から始めるほうが、費用対効果を確認しやすいはずです。

 

AIを使うから「仕事が回る仕組み」へ

運用

記録、連絡帳、報告書、会議の議事録。ひとつひとつは短くても、事業所全体では相当な人件費になっています。

 

ツールを入れることが目的になると続きません。どの工程を誰が担い、どこをAIに任せるのか。その設計まで含めて考えると、定着の仕方が変わります。

 

株式会社アスカゼでは、宮崎県内の事業所様を対象に、AIの研修と活用支援を行っています。

  • 「何から始めればよいか分からない」
  • 「情報漏えいやルール面が心配」
  • 「職員ごとに使い方の差がある」
  • 「AIを入れたものの、業務改善につながっていない」


そんな段階でも大丈夫です。どこまでをAIに任せ、どこからを人が担うのか。その線引きから一緒に整理します。まずはお気軽にお問い合わせください。

 

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    ※ 本記事は2026年8月時点で公開されている情報をもとにまとめたものです。加算の要件や各サービスの仕様は更新される可能性があるため、最新情報は厚生労働省および所轄の自治体、各サービスの公式情報をご確認ください。

     

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