約30%。これは企業におけるプレコンセプションケアに関する取り組み実施率です。国はこれを5年で80%まで引き上げる目標を掲げています。
そしてこの「約30%」という数字、どこから出てきたかというと、令和6年度の健康経営度調査に回答した大規模法人3,869社の集計です。つまり国は、この政策の進み具合を健康経営度調査で測っているということになります。
一方でプレコンセプションケアの若い世代における認知度は1割以下(約10%程度)にとどまっています。
さて、健康経営の担当者の方なら、調査票で「プレコンセプションケア」という言葉を目にしたことがあるかもしれません。
- 妊娠前のケア。それって女性社員の話では?
- うちの会社が口を出していい領域なんだろうか?
そう感じて手が止まったとしたら、その戸惑いはむしろ健全なものだと思います。
ただ、2026年7月21日に閣議決定された骨太の方針2026で、この取り組みは「工程表を作って実行する」段階に入りました。
この記事では、プレコンセプションケアとは何かを整理したうえで、国の方向性と、企業として何をどこまでやるべきかを解説します。
「プレコンセプションケア」とは何か?

こども家庭庁の定義は以下になります。
「性別を問わず、適切な時期に、性や健康に関する正しい知識を持ち、妊娠・出産を含めたライフデザイン(将来設計)や将来の健康を考えて健康管理を行う」概念。
言い換えると、将来の選択肢を、知らないうちに狭めないための知識と健康管理です。
そこで押さえておきたい点が3つあります。
①性別を問わない
女性だけの取り組みではありません。年齢と妊娠率の関係は、男女どちらにも関わるものとして資料で示されています。
②妊娠を望む人だけの話でもない
ライフデザインには「産まない」という選択も当然含まれます。目指しているのは、後悔することなく自らの希望する選択を実現できる社会とされています。
③治療ではなく「情報」のケア
医療行為を会社が担うわけではありません。中心にあるのは、正しい知識を届けることと、相談できる場所につなぐことです。
なぜ知識が課題になるのか。こども家庭庁が令和6年12月に都内の大学で行った調査(男女50名対象)では、30歳代後半までは不妊のリスクが上がらないと思っている大学生が66%でした。
標本が50名と小さい調査なので、数字そのものは幅を持って見る必要があります。それでも、十分な知識のないまま社会人になっている層が一定数いる、という傾向は読み取れます。
そして卒業後、その情報を届けられる場所は、現実的には職場しか残っていません。
なぜ「企業」の話になるのか

経済産業省の資料には、働く若手社員の声がそのまま載っています。
- 「将来的にこどもが欲しいと思うが、上司に伝えると重要な仕事を任せてもらえないのではないかと不安」
- 「不妊治療で月に5、6回の通院が必要。上司にも言いづらいし、同僚にも迷惑がかかると思うと悩む」
- 「生理痛が重くてつらい。休みたいが言い出せない」
これらは福利厚生が足りないという話に見えて、実際は離職とプレゼンティーズム(出社しているのに本来の力を発揮できていない状態)の予備軍です。
企業側のメリットとしても、離職防止、アブセンティーズム・プレゼンティーズムの改善、従業員エンゲージメントの向上、管理職と若手のコミュニケーション活性化が挙げられています。
「産む・産まない」を会社が扱う話ではなく、社員が自分の先行きを見通せないまま静かに辞めていく事態を防ぐ話。そう置き換えると、経営課題としての輪郭がはっきりするものと思います。
国の方向性は「5か年計画」から「工程表」へ

ここが今回いちばんお伝えしたい部分です。動きの速さは、時系列で見るとよくわかります。
骨太2024での号砲
経済財政運営と改革の基本方針2024に、相談支援等を受けられるケア体制の構築など、プレコンセプションケアについて5か年戦略を策定したうえで着実に推進する。という旨が盛り込まれました。
2025年5月、5か年計画が公表
こども家庭庁が「プレコンセプションケア推進5か年計画」を2025年5月22日に公表しました。5年後の目標が数字で示されています。
| 指標 | 現在 | 5年後の目標 |
|---|---|---|
| 若い世代の概念の認知度 | 1割以下 | 80% |
| プレコンサポーターの人数 | ー | 5万人以上 |
| 企業における取組の実施率 | 約30% | 80% |
| 若い世代の相談窓口の認知度 | ー | 100% |
| 専門相談ができる医療機関数 | 約60機関 | 200以上 |
冒頭で触れたとおり、この「企業における取組の実施率 約30%」の母数が健康経営度調査です。健康経営とプレコンセプションケアは、政策の設計図の上ですでにつながっています。
骨太2026で「実行」フェーズに
政府は2026年7月21日、経済財政運営と改革の基本方針2026を閣議決定しました。その「攻めの予防医療と疾病対策」の項目に、次の内容が明記されています。
更年期世代の女性への医療の推進や女性の健康総合センターの機能強化、「プレコンセプションケア推進5か年計画」の工程表の策定と実行、企業と保険者のコラボヘルス、睡眠対策を含む健康経営の推進等を図る。
ここから読み取るべきは2点です。
1つは計画から「工程表」へ進んだこと。誰が、いつまでに、何をやるかが切られる段階です。
もう1つは、プレコンセプションケアと健康経営が同じ一文の中に並んで書かれていること。別々の施策ではなく、一続きの予防医療政策として扱われています。
健康経営度調査では、すでに聞かれている

制度の側でも、段階を踏んで圧が上がってきています。
令和6年度、プレコンセプションケアに関する項目が新設されました。実態把握のためのアンケートです。
令和7年度、意義の説明が追記され、具体的な取り組み内容を問う設問へ改訂されました。あわせて、中小規模法人向けにも認知度を問うアンケートが新設されています。
令和8年度(健康経営優良法人2027)は、2026年7月14日の第6回健康経営推進検討会で示された案によると、全体としては「回答負担の軽減」が基本方針です。そのうえで、経済産業省が推進する「ライフデザイン経営」の認知度と取組状況を把握するアンケートが新設されます。
ライフデザイン経営とは、社員がキャリアとライフを両立し、充実したライフデザインを実現できる環境を提供する経営のあり方、と説明されています。プレコンセプションケアは、この大きな枠の中に位置づけられつつあると見るのが自然です。
現時点で、プレコンセプションケアは配点のある評価項目ではありません。
ただ、検討会では令和8年度以降に評価項目として扱われる可能性が議論されており、健康経営の対象領域が「現在」だけでなく「将来」へ広がる動きだと整理されています。
配点なしのアンケート設問は、評価項目の前段階と考えておくべきです。睡眠もPHRも、同じ道をたどってきましたので、その点は知っておきましょう。
中小企業が今日から着手できる3つのこと

こども家庭庁が企業に求めているのは、大きく3つです。
求められるもの
-
必要とする社員への情報提供と研修
-
人事担当者や産業保健スタッフのプレコンサポーターとしての養成
-
専門職による個別相談や自治体サービスへのつなぎ
大企業向けに見えますが、中小零細企業でも、以下のように分解すれば動き出すことは可能です。
既存の健診・研修に「乗せる」
計画では、職域での健診の場等を活用した周知広報が企業の取組例として挙げられています。新しいイベントを立ち上げる必要はありません。
健診案内に情報を1枚同封する、それだけでも取り組みの実績になります。
管理職研修に差し込む
若手が言い出せない構造をつくっているのは、制度ではなく上司の反応です。
新人向けと管理職向けの研修は、計画の取組例にも明記されています。
eラーニングでサポーターを1人つくる
プレコンサポーター養成講座はeラーニング形式です。
基礎編は職種を問わず受講でき、確認テストの合格者には修了証が発行される予定とされています。まず担当者が受けてみる、が現実的な第一歩になるでしょう。
踏み込みすぎないための「3つの線引き」

メリットだけで終わらせたくない部分です。
この政策には批判的な見方もあります。5か年計画に「企業」という言葉が22回登場することを捉え、性と人権にかかわる極めてプライベートな領域に企業が関与することへの懸念が、報道でも表明されています。
この指摘は、実務者としては軽視すべきではないと考えています。設計を誤ると、善意の施策が一瞬でハラスメントに転ぶ領域だからです。線引きは3つです。
個人に問いかけず、環境に情報を置く
「結婚の予定は」「子どもは考えているか」を会社が聞いた時点で、目的が何であれアウトです。届けるのは情報であって、質問ではありません。
誰が受け取ったかを会社が把握しない
相談実績や受講者名簿を人事評価の文脈に近づけない。匿名で情報にアクセスできる状態を保つことが、利用のハードルを下げます。
少子化対策の文脈と切り離す
社内で説明するときの主語を「会社が出生率に貢献する」ではなく「社員の選択肢を守る」に置く。ここを間違えると、受け手には圧力としてしか届きません。
なお、健康に関する情報を扱う以上、社内資料での断定表現にも注意が必要です。効果には個人差があり、医学的な判断は医療機関に委ねる、という前提を崩さないようにしてください。
まとめ
- プレコンセプションケアは、性別を問わず、将来の選択肢を狭めないための知識と健康管理の考え方
- 企業にとっては「産む・産まない」の話ではなく、離職とプレゼンティーズムの予防の話
- 推進5か年計画は、企業の取組実施率を約30%から80%へ引き上げる目標を掲げ、その進捗を健康経営度調査で測っている
- 骨太2026で「工程表の策定と実行」が明記され、健康経営と同じ文脈に並んだ
- 調査票では配点なしのアンケート段階だが、睡眠やPHRと同じく評価項目化の議論が進んでいる
- 着手するなら、健診への同封、管理職研修への追加、担当者1名のサポーター養成の3つから
- 設計の要は「個人に聞かない・記録しない・少子化と結びつけない」
制度が動き出してから慌てて整えるのか、いまのうちに自社に合う形を試しておくのか。差がつくのは、その1年か2年の助走だけかもしれません。
まずは次回の健康診断の案内等に、情報を1枚同封するところから始めてみてください。
「制度に対応する」から、「社員が選べる会社にする」へ
健康経営は、認定を取るための作業になった瞬間に担当者はつまらなくなります。調査票の設問は、あくまで「自社に足りていない視点」を教えてくれるチェックリストです。
プレコンセプションケアはその典型で、これまで多くの会社が扱ってこなかった「社員の将来設計」という領域に、初めて光を当てるものだと言えます。
株式会社アスカゼでは、宮崎県内の事業所様を対象に、健康経営の実務支援とAI活用支援を行っています。
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そんな段階でも大丈夫です。まずはお気軽にお問い合わせください。
※ 本記事は2026年7月時点で公開されている情報をもとにまとめたものです。制度の内容や調査票の設問は更新される可能性があるため、最新情報はこども家庭庁および経済産業省の公式ソースをご確認ください。