「転倒災害」防止が健康経営の鍵となる理由 ~高齢化する職場の戦略的アプローチ~

企業の経営者・役職者の皆様、「労働災害」と聞いて、どのような事故をイメージされるでしょうか?  

 

重機による事故や高所からの墜落などを想像されるかもしれませんが、実は今、日本の職場で最も多く発生している労働災害は「転倒」です。

 

令和6年の労働災害発生状況において、転倒災害は前年比増の36,378件となり、事故の型別で最も多い件数となっています。

 

 かつては個人の不注意として片付けられがちだった「転び」ですが、従業員の高齢化が進む現代において、これは看過できない「経営リスク」であり、同時に「健康経営」の重要課題でもあります。

 

この記事では、なぜ今、企業が本腰を入れて転倒防止に取り組むべきなのか、その背景と具体的な対策について詳しく解説していきます。  

 

なぜ「転倒」が経営課題なのか?

転倒

まずはなぜ労働災害のうち「転倒」が経営課題になるのかを紐解いていきます。  

 

労働災害の「ワースト1」は転倒

労働災害の発生件数において、転倒は長年トップを独走しており、その数は増加傾向にあります。

 

さらに、休業4日以上の死傷災害のうち、60歳以上の高年齢労働者が占める割合は約3割に達しており、年齢が上がるほど休業期間も長期化する傾向があります。

 

転倒災害の背景には、労働力の高齢化が深く関わっています。

 

転倒の発生率(度数率)を年齢別に見ると、男女ともに中高年齢層で高くなりますが、特に女性の場合、60歳以上では20代と比較して約15倍〜19倍も高くなることが報告されています。

 

これは単なる「うっかり」ではなく、加齢に伴う身体機能の低下が労働環境のリスクと噛み合った結果、発生している構造的な問題です。 

 

定年延長や再雇用が進み、70歳までの就業確保が努力義務化される中(2025年4月施行)、高年齢労働者が安全に働ける環境整備は、企業の安全配慮義務の観点からも待ったなしの課題と言えます。  

 

第14次労働災害防止計画での重点化

国もこの事態を重く見ています。  

 

2023年度から始まった「第14次労働災害防止計画」では、転倒災害を「対策を講ずべきリスク」と明記し、ハード・ソフト両面からの対策に取り組む事業場の割合を増やすことを目標(アウトプット指標)として掲げています。

 

転倒防止は、もはや「個人の心がけ」レベルではなく、国を挙げて取り組むべき「組織の課題」なのです。    

 

転倒はなぜ起こるのか? 3つの要因を知る

なぜ?

転倒災害を防ぐには、そのメカニズムを理解する必要があります。転倒は、「内的要因」「外的要因」「行動要因」の3つが複合して発生します。  

 

① 内的要因(ヒトの状態)

加齢による身体機能の低下が最大のリスクです。

  • 筋力・バランス能力の低下:踏ん張れない
  • 視力の低下: 段差や濡れが見えにくい
  • 認知機能(注意機能)の低下: 「考え事をしながら歩く」状況下で、転倒しやすくなる

 

② 外的要因(モノ・環境の状態)

職場の環境そのものがリスクとなるケースです。

  • 床の水濡れ、油汚れ、粉塵。
  • 通路に置かれた荷物、配線コード、段差。
  • 照度不足(暗い場所)。
  • 脱げやすい履物(サンダル等)の使用。

実際に転倒災害の原因分析では、「滑り」が約40%と最も多く、次いで「つまずき」「踏み外し」となっています。  

 

③ 行動要因(作業のやり方)

不安全な行動も転倒の引き金になります。

  • 急いでいる、焦っている。
  • 両手がふさがった状態での運搬。
  • ポケットに手を入れて歩く(受け身が取れない)。
  • 「スマホを見ながら」などの「ながら歩き」。

 

3. 健康経営視点での転倒防止対策 ~具体的なアクションプラン~

転倒防止は、「ハード(設備)」と「ソフト(人・教育)」の両輪で進める必要があります。ここでは、先進的な企業の事例や専門家の知見を交えて、効果的な対策をご紹介します。  

 

【ステップ1】 職場環境の「見える化」と「4S」の徹底(ハード対策)

工場

まずは物理的な危険を取り除くことが基本です。  

4Sの徹底

整理・整頓・清掃・清潔は転倒防止の基本です。   「ぬ・か・づけ(濡れている・階段/段差・片付いていない)」を標語に、危険箇所をなくしましょう。

危険の可視化

段差や滑りやすい場所にステッカーを貼る、照明を明るくするなどの対策が有効です。

滑りにくい靴の導入

耐滑性のある靴(F表示のある安全靴など)の着用を推奨します。  

 

【ステップ2】 身体機能の維持・向上(ソフト対策:体力づくり)

ジムでの筋トレ

従業員、特に高年齢労働者の身体機能を維持することは、転倒防止だけでなく、長く元気に働いてもらうための「人的資本投資」になります。  

 

転倒リスクのチェック

過去1年間の転倒歴の有無や、簡単な体力測定(片足立ちなど)を行い、従業員自身に自分の身体機能の現状を気づかせることが重要です,。

職場での運動習慣

始業時などに転倒予防に効果的な体操を取り入れましょう。  

 

事例(株式会社ベルク)

専門家監修のもとオリジナルの「腰痛予防ストレッチ」を開発し、全従業員で実施。労働災害の低減と従業員の意識改革に成功しています。

 

事例(住友電工デバイス・イノベーション株式会社)

体力チェックでリスクが高い層を抽出し、運動教室への参加や自宅筋トレを促す仕組みを構築しています。

 

 

【ステップ3】 行動変容を促す安全文化(ソフト対策:意識改革)

行動変容

ルールを決めるだけでなく、それを守る文化を作ることが重要です。  

 

「ながら動作」の禁止

歩行中は歩行に集中させる。「考え事をしながら」「スマホを見ながら」の歩行は、注意力が散漫になり転倒リスクを激増させます。

具体的な行動指針の策定:

住友電工グループでは 「ポ・ケ・テ・ナ・シ運動」を展開しています。

 

「ポケットに手を入れない」「ケータイを使用しながら歩かない」「手すりを持つ」「斜め横断しない」「指差呼称の徹底」という具体的な行動ルールを定着させ、遵守率を劇的に向上させました。  

 

おわりに

転倒災害は、「運が悪かった」で済まされる問題ではありません。

 

 1件の転倒骨折が発生すれば、ベテラン社員が数ヶ月不在となり、業務の遅延、代替要員の確保、労災対応など、経営資源に多大な損失を与えます。逆に言えば、転倒防止に取り組むことは、生産性の維持・向上に直結します。

 

さらに、転倒防止対策は、従業員の健康状態(ロコモティブシンドロームやフレイルなど)に目を向けるきっかけとなり、「健康経営」の入り口としても最適です。

 

体力測定や運動機会の提供は、従業員の健康意識を高め、生活習慣病予防など波及的な効果も期待できます。 

 

「エイジフレンドリーガイドライン(高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン)」に基づき、高齢者が働きやすい職場を作ることは、若手や女性を含めた「誰にとっても働きやすい職場」を作ることと同義です。

 

ぜひ「転倒災害ゼロ」を宣言し、職場環境の点検と、従業員の体力・意識向上に向けた施策をスタートさせてください。それが、企業の持続的な成長を支える土台となります。    

 


 

 

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    <strong>参考資料</strong>

    • 『産業保健21』 第111号~第123号より
    • 厚生労働省:令和6年 労働災害発生状況について
    • 経済産業省 ヘルスケア産業課 健康経営の推進について 令和6年3月
    • 経済産業省 健康経営の効果② 健康経営と労働市場の関係性

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