【初心者必見!】森岡毅に学ぶ、商品・サービスを「売れる」に変える実践マーケティング完全ガイド

「良い製品を作れば売れる」──この考えは、もはや現代のビジネスにおいては通用しないかもしれません。

 

私たちを取り巻く市場は成熟し、少子高齢化によって縮小が見込まれる中で、企業が生き残り、成長していくためには、「売れたものが良いもの」という現実を受け入れ、「売れる」ための仕組みを作る、すなわちマーケティングが不可欠です。

 

本記事ではUSJをV字回復に導いた日本屈指のマーケター、森岡毅氏の思想と実践に基づき、初心者でもすぐに実践できるマーケティングの始め方から、売上を上げるための具体的な戦略・戦術、そしてフレームワークまでを総合的に解説します。

 

1. なぜ今マーケティングが必要なのか?

資料

かつて日本は、規制による競争阻害、終身雇用や年功序列といった人事制度、そして「良い製品を作れば売れる」という技術志向が根強く、マーケティングの発達が遅れたと言われています。しかし、現代では技術力だけでは競争優位を保つのが難しい時代です。

 

森岡氏は優れた技術力があっても、マーケティング力がなければ、その技術力をどの方向に発揮すれば良いかを定めるのが難しいと指摘しています。逆に「売る種」となる技術力が全くないのに、売り方のアイデアや工夫だけでは、ビジネスを継続することも困難です。

 

つまり、技術力とマーケティング力は車の両輪であり、特に「売れる」ための方向性を示すマーケティングが、これからの時代を生き抜く企業にとって必須となるのです。

 

2. マーケティングで最も重要な徹底的な「消費者視点」

買い物する女性

マーケティングの成功の根幹にあるのは「徹底した消費者視点」です。森岡氏は「マーケターは『消費者の最大の代弁者』でなければならない」と強調しています。

 

作り手である企業やコンテンツ提供者は、自分たちが「良い!絶対売れる!」と考えても、消費者の気持ちとの間にズレが生じやすいものです。プロの作り手は、経験を積むほどに玄人になり、素人である消費者とは真逆の感覚に進んでしまう運命にあるからです。

 

USJの成功事例がこれを物語っています。

「ユニバーサル・ワンダーランド」の開設

USJは元々映画好きを対象としていましたが、森岡氏が自ら子どもを連れて訪れた際、親子で楽しめる場所が少ないという問題点に気づきました。母親と子どもが一緒に楽しめるエリアを作ることで、これまで逃していた家族層の機会損失を補うことに成功しました。

 

「ハロウィン・ホラー・ナイト」の成功

夜にゾンビがパーク内を徘徊するこの試みは、「日頃ストレスが溜まりやすい日本社会」という環境下で潜在的に人々が求めているであろう「自然に、思いっきり叫んでストレスを発散したい!」というインサイト(無意識的な行動を支配する本能的要求に基づく心理)を発見し、導入されました。

 

これらの事例からわかるように、マーケターは「消費者が何を求めているかを、自分もファン目線になって形作っていくこと」が重要**です。自社の商品やサービスのファンとなり、隅々まで体験することで、来場者の満足度を上げるためのヒントを見つけ出すことができます。

 

3. 売上を伸ばす「戦略的思考」の基礎

マーケティングは単なる戦術の実行ではなく、戦略的な思考が不可欠です。

 

戦略とは目的を達成するためのシナリオであり、「やるべきこと」と「やらないこと」を決めることです。森岡氏によれば、戦略づくりは「つくる」というよりむしろ「さがす」という感覚だと言います。戦略は必ずそこに存在するものだからです。

 

マーケティングの共通言語「WHO・WHAT・HOW」

積み木を積み上げる

マーケティング戦略を考える上で、森岡氏は「WHO(誰に)」「WHAT(何を)」「HOW(どのように)」という3つの共通言語を理解し、明確に設定することを基本としています。

 

WHO(ターゲット)

「誰に売るのか」を明確にすることが最も重要です。香水でも「男性向けか?女性向けか?」、さらに掘り下げて「20代か?40代か?」といったように、売り込む相手を明確化することが重要となります。

 

ターゲット設定は、「選択と集中」を可能にするものです。限られた経営資源をすべての相手に分散させるのではなく、対象となる顧客を絞り込み、そこに集中することで、無駄な取りこぼしや機会損失を減らすことができます。

 

重要なのは「消費者を区切ってターゲティングすることは、最終的には自社ブランドの市場全体におけるプレファレンス(好み・好意度)を拡大するのが目的であって、決してM(一人あたりの投票数)を狭めるためではない」ということです。

 

WHAT(提供する価値)

「何を売るのか」「どのような価値を提供するのか」を考えることです。顧客はドリルが欲しいのではなく、穴を開けたいだけという格言のように、商品・サービスそのものではなく、お客様が得る「嬉しさ」や「便益」を考えることが重要です。

 

消費者はどれだけ理屈を並べても、本質的には「情緒的に」意思決定しているため、WHATは目に見えないことが多いです。

 

森岡氏の著書では「バーガーが食べたい人、牛丼を食べたい人を両方取るために『バーガー牛丼』を無理やり作るなどもっての他」と例えられています。誰に何を売るか、その価値を明確にしないと、誰にも響かない中途半端な商品になってしまう可能性があります。

 

HOW(売り方・戦術)

「どのように売るのか」を検討します。これは、WHATで定義した価値をWHOで定めたターゲットに届けるための具体的な仕組みやプランであり、伝統的な4P分析(Product, Price, Place, Promotion)などのフレームワークを活用します。

 

製品と決断しやすさで選ぶ売り方もマーケティングで特に重要です。例えばコカコーラはスーパーやコンビニで手軽に買えますが、洗濯機は家電量販店で店員の説明を聞きながら選ぶように、製品の性質と購買行動に合わせた売り方を選ぶ必要があります。

 

「確率思考」とデータに基づいたアプローチ

複数のアイデア

森岡氏のマーケティングは感覚や勘ではなく「データに基づいた確率思考」が根底にあります。成功確率を高めるために必要な視点と方法が「確率思考の戦略論」で具体的に解説されています。

 

ビジネスにおいて、コントロールできる領域とできない領域を見分け、経営資源をコントロールできる領域へと集中させることで、成功確率を劇的に高めることができます。

 

森岡氏が経営する株式会社刀は高精度の需要予測を実現し、効率的なマーケティング資源の配分や需要に合わせた製品提供を可能にしています。これは単なる感覚ではなく、数学的な分析に基づいていることを示しています。

 

市場構造の本質は「消費者のプレファレンス(好み・好意度)」であり、これを拡大することがシェアの拡大に繋がり、ひいては売上向上と会社全体のパフォーマンス向上に繋がります。

 

プレファレンスは「ブランド・エクイティー(目に見えない価値)」「価格」「製品パフォーマンス」の3要素で決定され、中でもブランド・エクイティーが最重要とされます。

 

なお、売上を伸ばすためには、「プレファレンス(好意度)」「認知(Awareness)」「配荷(Distribution)」の3つを高めることが重要だと森岡氏は述べています。

 

4. 初心者でも実践できる!戦略立案の5ステップ

ミーティングする女性

森岡氏がマーケティング戦略を考える上で使っているフレームワークは、以下のシンプルな5つのステップに集約されます。

step
1
戦況分析

まず「どういう戦場か」を把握し、「勝てる場所で戦う」ことが重要です。

 

利用できる資源から効率的に利益を生み出すためには、自社にとって有利なポジションはどこなのか、競合の状況なども含めて複数の観点から模索します。戦場選びを誤れば、その時点で負けはほぼ確定してしまう可能性もあります。

 

step
2
目的設定

戦況分析が終わったら、「何を達成したいのか」という目的(ゴール)を設定します。この目的は、低すぎず高すぎないギリギリ達成できる魅力的なもの」であり、かつ「誰もが共有可能なシンプルで分かりやすい内容」であることが大切です。

 

USJの場合、「オープン初年度の来場者数1100万人を超えること」が目的として設定されていました。これは、まさにシンプルで全員が意識しやすいゴール設定の好例です。

 

step
3
ターゲット設定(WHO)

次に「どの顧客に資源を投下するか」というターゲットを設定します。無限に存在するユーザーの中から対象を絞り込むことで、無駄な取りこぼしや機会損失を減らすことができます。

 

自社サービスの対象となる人物像(年齢、性別、趣味嗜好など)を具体的に導き出すことが重要です。ターゲット設定が誤れば、その後の施策は全て失敗に終わる可能性もあります。

 

step
4
価値提供(WHAT)

ターゲットが明確になったら「どんな価値を提供するのか」を考えます。前述の通り、商品やサービスそのものを売るのではなく、顧客がそれを使うことで得られる「便益」(例:ドリルではなく穴を開ける喜び)を明確に定義することがマーケティングの常識です。

 

step
5
戦術設定(HOW)

最後に「設定したターゲットに、提供する価値をどうやって届けるか」という「売り方」を検討します。ここでは伝統的な4P分析(マーケティングミックス)が役立ちます。

 

Product(製品)

顧客に「繰り返し買ってもらう」という考え方が重要です。リピーターを獲得するためには、「少しの変化を繰り返す」ことが効果的です。例えばコカコーラの飲料水「いろはす」は、桃味や期間限定バージョンを出すことで、消費者に選ばれ続けています。

 

USJの「ハリウッド・ドリーム・ザ・ライド~バックドロップ~」は、ジェットコースターを後ろ向きに走らせるという小さな差別化で大きな話題を呼び、長時間の待ち時間が発生するほどの人気アトラクションになりました。

 

Price(価格)

森岡氏は「日本のテーマパーク料金は安すぎる」と指摘し、USJが値上げを実施したことで、他のテーマパークも追随できた経緯があります。

 

価格を上げることで、増えた費用を新たなコラボやアトラクションの実現に投資することが可能となり、消費者の幸福度を上げ続けるコンテンツへの投資と捉えれば、値上げは必ずしも悪いことではありません。

 

Place(流通・売り場)

商品やサービスをどこで、どのように提供するかが重要です。顧客が商品を購入する際に、いかに手に取りやすく、決断しやすい場所に置かれているかが問われます。

 

店頭での配荷率(どれだけの店舗で扱っているか)や山積(目立つディスプレイ)、価格(狙った販売価格で売られているか)も重要です。

 

Promotion(販促・情報発信)

広告、特にテレビCMの唯一無二の目的は「その企業のブランド価値を向上させて売上を伸ばすこと」です。

 

USJのCMは、例えば「あなたのまだあどけなくてかわいい娘はすぐに大きくなって、クリスマスなんてあなたと一緒に過ごしたがらなくなります。すぐにクリスマスイブは帰って来なくなって、ホテルで彼氏と過ごすようになりますよ。だってお母さん、あなたも身に覚えがあるでしょう?」というように、両親の体験しているであろう想定を我が子に照らし合わせる形で訴えかけるメッセージを考えています。

 

日曜の朝に親子でテレビを眺めているタイミングを狙ってCMを流すなど、一般家庭の生活ルーティンを想定した放送タイミングも、顧客の行動を促す上で非常に効果的です。

 

実践のヒント:限られた資源を集中させる

何事においても、限られたエネルギーを注ぐ分野を選び、そこに全力投球することが重要です。例えば、コカコーラが主力製品である「いろはす」の宣伝に力を注ぎ、そこまで主力ではない「リアルゴールド」にはCMを作らない、といったイメージです。

 

有名なフレームワークについてはこちらの記事で簡単にご紹介しています。

参考【仕組み】初心者でもわかる!事業改善に役立つマーケティングフレームワーク「7選」

マーケティングはどんなことをするのか、起業前や起業仕立ての頃は理解に苦しむと思います。またマーケティングの必要性が仕事で出てきたときに、言葉だけは聞いたことがあっても具体的な取り組み方がわからなければ ...

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5. マーケティングは「組織革命」であり「自分」を磨くこと

指をさす女性

マーケティングは単に特定の部署の仕事ではなく、「組織革命」であると森岡氏は述べています。

 

マーケティングを機能させるためには、ファイナンス、生産マネジメント、組織マネジメントなど、様々な専門領域のチームと連携し、組織全体として消費者の方を向いて仕事をする必要があります。

 

自分自身を「My Brand」としてマーケティングする

森岡氏は、ビジネスパーソンが自分自身のキャリア戦略の最重要な指針として「My Brand」を設計することを勧めています。これは、自分自身の強みを明確にし、それをターゲットに届けるための具体的な仕組みを表現することです。

 

特に重要なのは「会社はあなたの強みに対して給料を払っている」という森岡氏の言葉です。

 

日本人の多くは弱点克服に比重を置きすぎる「ドM気質」だと指摘されていますが、「ナスビはどうやってもキュウリにはならない」という言葉のように、自分の短所を治す「無駄な努力」を放置し、自分の強みを活かせることに力を一点集中することが重要です。

 

不安との向き合い方

新しい挑戦には不安がつきものです。しかし、森岡氏は「不安なのは君が挑戦している証拠だ」と語っています。「挑戦しないから失敗もしない自分」よりも、「挑戦するから失敗してしまう自分」の方が圧倒的に強くなれるのです。

 

自分が不安を感じない気持ちの良い環境に居続けると成長は止まります。どちらの道にも不安があるなら、挑戦する「不安」を選択すべきだとしています。

 

マーケティングは他分野でも必要不可欠

たとえ「マーケター」を目指さないとしても、マーケティングの戦略はブロガー、ライター、YouTuberなど、「モノを売らない職業」でも応用可能です。

 

商品を売るための「仕組み作り」というマーケティングの基本ルールは、あらゆる分野で役立ちます。

 

まとめ

森岡毅氏のマーケティング哲学は、徹底した消費者視点に立ち、戦略的思考を駆使し、データに基づいた確率思考でビジネスを成功に導くものです。これから自社の商品・サービスのマーケティングを実践するにあたり、まずは以下の点を意識して取り組んでみてください。

  1. 徹底的な消費者視点:常に顧客の代弁者となり、彼らのインサイトを深く理解する。
  2. 戦略的思考の確立
    • WHO(誰に):ターゲットを明確にする。
    • WHAT(何を):提供する「価値」(便益)を定義する。
    • HOW(どのように):価値を届ける具体的な戦術(4P)を練る。
  3. 確率思考とデータ活用:勘に頼らず、データに基づき成功確率を高めるアプローチを取る。
  4. 森岡流5ステップの実践:戦況分析から戦術設定まで、体系的に戦略を構築する。
  5. 自己成長と組織連携:自分自身の強みを活かし、組織全体でマーケティングに取り組む。

 

マーケティングの世界は常に進化していますが、森岡氏の「確率思考」という基本的な考え方は、時代が変わっても価値を失わない「不老不死のコンテンツ」です。

 

これらの学びをぜひ実践に移し、あなたのビジネスや商品・サービスを「売れる」に変えて、売上向上を実現してください。

 

 

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