【健康経営×AI】が生み出す働き方革命-従業員の生産性向上と健康を両立するために

人手不足が深刻なビジネス環境において「健康経営」という概念は急速に注目を集めています。健康経営は「従業員の健康を企業の経営資源として捉え、戦略的に管理・改善」することで、企業の生産性向上や持続的成長を目指す取り組みです。

 

一方で、私たちの働き方や社会全体に革命的な変化をもたらしているのが「AI(人工知能)」です。一見すると、「健康経営」と「AI」は別々の領域に見えるかもしれませんが、この二つは驚くほど相性が良く、組み合わせることで、従業員のウェルビーイング(心身ともに良好で満たされた状態)向上と企業の生産性向上という、理想的な働き方を実現する大きな可能性を秘めています。

 

本記事ではなぜ健康経営にAIが有効なのか、AIがもたらす具体的なメリットについて分かりやすく解説していきます。

 

AIと仕事

健康経営の核心は「従業員への健康支援は投資である」という考え方にあります。従業員が心身ともに健康であれば、集中力や創造性が向上し、当然欠勤率も低下します。また出勤しているにも関わらず、パフォーマンスを発揮できない「プレゼンティーイズム」も抑制できます。

 

これは結果的に企業の生産性向上、イノベーション創出、そして企業価値全体の向上につながります。人的資本を含む非財務情報を投資家も重視するようになっていることから、従業員の健康は企業の競争力を左右する重要な要素と言えます。

 

しかし多くの企業では「何から始めれば良いかわからない」「施策の効果が見えにくい」「専門人材が不足している」「予算がないからできない」といった課題に直面して、実施できていない現状があります。

 

AIによる業務効率化

PCを打つ女性

ここで強力な推進力となるのがAIです。AIは健康経営が抱える課題を解決し、その効果を最大化する可能性を秘めています。

 

日本はいまだに長時間労働の課題を抱えています。厚生労働省の報告等によると、長時間労働は過労によるメンタルヘルス不調や、過労死などの深刻な問題につながることも少なくありません。AIはこの問題に対して、業務の自動化や効率化という形で解決策を提供してくれます。

 

AIができる業務効率化

  • 定型業務の自動化
  • データ分析の高速化
  • 意思決定支援

こうしたサポートをしてくれるAIによって、本来時間を割いて取り組むべき業務に、しっかりとフォーカスして従業員が働ける環境を作れることで、働きやすさにつながります。

 

業務自動化による時間創出

時間とスケジュール

AIは書類作成、データ入力、情報整理、スケジュール調整といった定型業務や反復作業を自動化・効率化します。さらにプレゼン資料作成、問い合わせ対応などの作業をAIが代行してくれます。

 

これにより従業員はこれまで多くの時間を費やしていた作業から解放され、時間的な余裕が生まれます。

 

たとえば恵寿総合病院とUbie株式会社の実証実験では、生成AIを活用して医師の退院時サマリー作成業務が最大で約15分から5分へと1/3に短縮され、年間で540時間もの削減が可能となっています。

 

また日亜化学工業ではRPAツール「BizRobo!」の内製開発により約400体のソフトウェアロボットを稼働させ、年間3万3,000時間相当の人的リソースを創出した事例や、富士通株式会社では、AIを活用した業務内容の見える化を行ったところ、コア業務に向き合う時間を16%向上させた事例も報告されています。

 

データ分析の高速化

データ分析

AIの進化により、データ分析のスピードと精度が飛躍的に向上しています。本来人間が膨大な時間をかけて行っていたデータ処理や分析は、AIを活用することで劇的に短縮することが可能となりました。

 

AIは数値データだけでなく、現在は文章・画像・音声といった多様なデータ形式にも対応可能となっており、アンケートの感情分析などの、これまで難しかった領域の分析も実現しています。

 

たとえばAIは膨大なデータからパターンやトレンドを瞬時に見つけ出し、需要予測やリスク分析を高精度で行うことが可能です。Feloという日本製AIでは「Felo Agent」という機能があり、競合分析や市場分析を自動で行ってくれる機能も実装されています。

 

データに基づく意思決定

うでを組む男性

AIによる業務効率化によって時間が創出されることで、戦略の立案やミーティング、顧客との関係構築といった「人間にしかできない仕事」に集中できるようになります。またAIとの「アイデアの壁打ち」を行えることで、従業員の創造的思考が刺激され、ミーティングでのイノベーションも生まれやすくなります。

 

こうしたアイデアの創出や意思決定は企業の将来性を左右する重要な事項です。「環境予測」「環境適応」が経営者にとって重要な仕事であることから、AIによる多くの市場の分析結果といった客観的なデータが集まれば、正しい意思決定の確率も高まります。

 

健康経営とAIの相性の良さ

パズル

従業員はAIの活用により、これまで多くの時間を費やしていた作業から解放され、時間的な余裕が生まれます。これにより従業員の働き方も大きく変化します。

 

  • 残業時間の削減
  • ワークライフバランスの実現
  • 柔軟な働き方の実現

 

残業時間が削減され、従業員のワークライフバランスの改善に貢献することが期待できます。余暇を自己啓発、休息、家族との時間、そして運動や睡眠といった健康維持の時間に充てることが可能になり、過重労働による心身の不調を未然に防ぐ土台ができるようになります。

 

またAIを利用した業務のサポートにより、テレワークやフレックスタイム制といった柔軟な働き方も可能です。遠隔地にいてもAIアシスタントが必要な情報を提供したり、タスク管理を支援したりすることで、オフィスにいなくても効率的に業務を進めることが可能となりました。

 

場所や時間にとらわれない働き方は、従業員のストレス軽減や自律的な働き方を促進し、近年課題となっているメンタルヘルスにもよい影響を与えます。

 

健康経営についてはこちらで詳しく解説しています。

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AI活用による健康経営の推進

聴診器とデータ

健康経営とAIの第一の相性の良さは、両者がともに「データ」を駆使したアプローチを重要としている点にあります。

 

ストレスチェック制度でもデータに基づいた回答が表示されるように、健康経営においては、従業員の健康状態や生活習慣、働き方などの様々なデータを収集・分析し、そこから得られた洞察に基づいて施策を展開していくことが効果的とされています。

 

こうした分析はAIが得意とするところであり、AIは健康経営を強力に支援してくれるツールであることは間違いありません。

 

たとえば以下のような支援が可能となります。

  • 勤怠データから過労やメンタルヘルス悪化のリスクを予測
  • 健康診断結果から、個々の従業員の最適な支援策の提案
  • 勤務パターンと健康状態の相関関係を分析し、最適な働き方を提案
  • 組織全体の健康傾向を可視化し、効果的な健康施策の立案を支援

 

AIの活用は組織全体に効果的な健康経営施策を立案することだけでなく、大量のデータを分析し、個々の従業員に最適な健康アドバイスや働き方の提案ができます。

  • 個人の生活習慣や健康状態に合わせた運動プログラムの提案
  • 勤務スタイルや業務内容に応じた休息のタイミングとリフレッシュ方法の提案

 

AIは従業員の同意が前提となりますが、日常的なPCのログ、コミュニケーションパターン(メールの頻度や文面、チャットでの反応速度等)、勤怠データなどの変化から、ストレスの高まりやメンタルヘルス不調の兆候を検知できる可能性があります。

 

テキスト分析を活用して、社内コミュニケーションの傾向や課題を把握することは、数値では見えないメンタル不調の早期発見につながり、早い段階での介入判断の材料として活用できます。

 

こうしたAIにしかできない分析を行うことで、組織全体のコミュニケーションの改善と心理的安全性の向上も期待されています。

 

おわりに

健康経営とAIの組み合わせは、企業の生産性向上と従業員の健康増進を同時に実現する強力なアプローチです。AIによる業務効率化は従業員の時間的・精神的余裕を生み出し、創造的な業務への集中やワークライフバランスの改善をもたらします。

 

さらにウェアラブルデバイス等とAIの組み合わせによる健康モニタリングや、AIを活用したメンタルヘルスケアというのも広まりつつあり、従業員の健康維持・増進に大きく貢献しています。

 

健康経営とAIの親和性は極めて高く、従来の働き方や健康管理の概念を根本から変革する可能性を秘めていますが、プライバシー保護や倫理的配慮が極めて重要な課題です。またAIのサポートがあっても最終的には人間同士の共感やコミュニケーションが不可欠です。

 

AIは健康経営を推進する上で欠かせないツールとなりますが、AIを人の置き換えではなく、能力の「拡張」ツールとして利用し、必要に応じてAIや健康に関する専門家との連携していくことが大切です。

 

 

参考

  • 経済産業省:AI導入ガイドブック
  • 恵寿総合病院とUbie、生成AIを活用した「医師の働き方改革」の実証実験を実施
  • 下川 詩乃ら: AIを用いた健康経営を促す施策の検討, 人工知能学会全国大会論文集, 2021
  • 「健康経営の進化」 2040 年の日本の未来に向けて
  • 健康経営の足跡と目指すべき姿.令和6年10月30日 経済産業省

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