ワークエンゲージメントは、企業の持続的成長と従業員のウェルビーイングを両立させる重要な概念として注目を集めています。
SDGsの目標3「すべての人に健康と福祉を」と目標8「働きがいも経済成長も」に沿って、多くの企業が従業員の満足度と生産性の向上を目指しています。
本記事では企業の持続可能な発展と従業員の幸福を実現するための鍵となる、ワークエンゲージメントの定義、重要性、そして効果的な向上策について詳しく解説します。
ワークエンゲージメントがなぜ注目されているのか?
ワークエンゲージメントが注目される理由は、企業にとって重要な効果が期待できるからです。その効果には以下のようなものが挙げられます。
生産性の向上
従業員の仕事への意欲が高まることで、業務効率が上がり、質の高い成果物が生み出されやすくなります。これは厚生労働省、令和元年版「労働経済の分析」でも報告されています。
具体的には、同じ時間でより多くの仕事をこなせたり、より創造的なアイデアが生まれやすくなったりします。
離職率の低下
仕事に対する満足度が高まることで、従業員の定着率が向上します。これにより、採用・教育コストの削減や、組織内の知識・スキルの蓄積が期待できます。
イノベーションの促進
モチベーションの高い従業員は、既存の枠にとらわれない新たなアイデアを生み出しやすくなります。
また失敗を恐れずに挑戦する姿勢が育まれ、組織全体のイノベーション力が向上します。
顧客満足度の向上
従業員の熱意が顧客サービスの質を高め、顧客満足度の向上につながります。
特に対人サービス業では、従業員のポジティブな態度が直接的に顧客体験の向上に結びつきます。
メンタルヘルスの改善
仕事への前向きな姿勢が従業員の心身の健康に良い影響を与えます。ストレスの軽減やバーンアウトの予防にもつながり、長期的な健康維持に寄与します。
これら5つの効果は企業の持続的な成長と競争力の強化に直結します。
そして現在の働き方改革が叫ばれているなかで、従業員の働きやすさを確保するという点からも注目を集めているのです。
ワークエンゲージメントとは?
そもそもワークエンゲージメントは、従業員の仕事に対する心理状態を示す概念のことです。従業員が仕事に対してポジティブで充実した心理状態で取り組むことを示しています。
ワークエンゲージメントは主に以下の3つの要素で構成されています。
- 熱意
- 没頭
- 活力
熱意
仕事に対する誇りややりがいを感じている状態で、自分の仕事に対して誇りを持ち、その仕事が重要だと感じていることを意味します。
(例)「自分の仕事は社会に貢献している」と感じている営業担当
「熱意」があると、新しい商品の開発やサービスの創出が可能となり、常に仕事に対する努力を継続することができます。また熱意を持つことで新たな知識をインプットし、自己成長を促進することができます。
熱意は職場でのイノベーションやチームの士気を高める要因となります。
没頭
仕事に集中し、時間を忘れるほど熱中している状態のことで、仕事に夢中になり、時間が経つのを忘れてしまうほど集中している状態を指します。
(例)新製品の開発に没頭するエンジニア
仕事の効率が向上し、業務の品質や速度が改善されるだけでなく、人為的なミスの削減にもつながります。没頭することで、仕事に対する集中力が高まり、成果を上げることが可能になります。
活力
仕事から活力を得ていきいきとしている状態で、困難な状況でも諦めずに粘り強く取り組む姿勢や、疲れを感じにくいことなどが挙げられます。
(例)困難な課題にも前向きに取り組む管理職
活力がある人は、仕事からエネルギーを得て生き生きとし、ストレスを感じることなく仕事を楽しむことができるため、職場でのパフォーマンスを向上させる重要な要素です。
これらの3要素が高い状態で持続的に維持されることが、高いワークエンゲージメントの特徴です。
ワークエンゲージメントとメンタルヘルス
ワークエンゲージメントに注目してメンタルヘルス対策を検討する実施する企業もありますが、この際に知っておくべき項目があります。
以下は従業員の仕事に対する感情や動機付けに影響を与える重要な要素であり、それぞれの特徴を理解することで、職場環境の改善や従業員の満足度向上に役立つことが期待されます。
ワーカホリズム(ワーカホリック)
ワーカホリズムとは仕事の活動水準が高い状態を維持しているものの、仕事に対して否定的な感情を抱いている状態を指します。
この状態にある人は、「仕事を失うことに対する不安を回避するために仕事をしなければならない」という心理に陥りがちです。
活動水準は高いものの、内発的な動機付けが不足しているため、ワークエンゲージメントとは異なる特徴を持っています。
職務満足感(リラックス)
職務満足感とは仕事に対してポジティブな感覚が生まれている状態を指します。
自分の行った仕事の評価結果から生じるポジティブな心理状態であり、内発的な感情が高い状態です。しかし、ワークエンゲージメントが仕事に取り組んでいる時の感情や認知を示すのに対し、リラックスは仕事そのものに対する感情や認知を示す点が異なります。
そのためリラックス状態では仕事の満足感が高いものの、活動水準が低い場合も含まれるため、ワークエンゲージメントとは異なる概念です。
バーンアウト
バーンアウト(燃え尽き症候群)は、ワークエンゲージメントとは対極に位置する概念です。
仕事や会社に対する不満や疲労感から、ネガティブな感情に陥り、社会的活動を停止し、意欲を喪失してしまう状態を指します。
バーンアウトに陥る要因としては、仕事に献身的に没頭したにもかかわらず、期待した結果が得られなかった場合などが挙げられます。
以上とワークエンゲージメントを含めた4つの概念は、従業員の働き方に密接に関わっており、それぞれの理解が職場環境の改善や従業員のメンタルヘルス向上に寄与することが期待されます。
ワークエンゲージメントを高めるために大切な3つのこと
企業成長に大切なワークエンゲージメントですが、どのように高めたらいいのか、どんな対策が効果的なのかを把握しておくことは、自社で取り組むにあたって必要不可欠な知識です。
ワークエンゲージメントが低い企業では、以下の3つの要素に注力することが改善のポイントになります。
1. 意味のある仕事の提供
従業員が自分の仕事に意義を見出せるような体制をつくっているでしょうか?従業員自身が仕事に対して価値を見出せれば、モチベーションはアップし、離職率の低下や生産性向上にも繋がります。
そのためには以下のような取り組みが効果的です。
- 会社のビジョンや目標の明確化
経営層が定期的に全社ミーティングを開催し、会社の方向性や目標を共有します。また、各部門や個人の目標がどのように全体の目標に貢献するかを明確にします。
- 個人の強みや興味を活かせる業務アサインメント
定期的な面談を通じて従業員の強みや興味を把握し、それらを活かせるプロジェクトや業務に配置します。例えば、データ分析が得意な従業員には、マーケティング戦略の案に関わってもらうなどの工夫をします。
- 定期的なフィードバックを通じた成果や貢献の可視化
週次や月次のレビューミーティングを設け、個人やチームの成果を共有します。また、その成果が会社全体にどのような影響を与えたかを具体的に伝えます。
2. 自律性の確保
従業員が自身の仕事をコントロールできる感覚を持つことが、モチベーションの維持に重要となります。
仕事の満足度の向上にも繋がり、ストレス耐性も高まることが知られているので、個人の成長と組織の効率的な運営には大切な部分です。
- フレックスタイム制度や在宅勤務の導入
コアタイムを設定しつつ、始業・終業時間を従業員が選択できるようにします。また、週に1-2日の在宅勤務を可能にするなど、働く場所の選択肢を増やします。
- 業務の進め方や時間管理に関する裁量権の付与
目標達成のための方法や手順を従業員自身が決定できるようにします。例えば、プロジェクトの進め方や使用するツールの選択を任せるなどの工夫をします。
- 目標設定への従業員の参加
年度や四半期ごとの目標設定時に、従業員自身が目標案を提案する機会を設けます。上司との対話を通じて、挑戦的かつ達成可能な目標を共同で設定します。
3. 成長機会の提供
継続的な学習と成長の機会を提供することで、従業員の意欲を高めることができます。
転職が増えつつある社会の中で、特に若い人材が従業員が成長できる環境を整えることは離職率低下の予防にも効果的です。
- 社内外の研修プログラムの充実
技術スキルやソフトスキルを向上させるための研修を定期的に開催します。外部のセミナーや講座への参加費用を会社が負担する制度も設けます。
- メンタリング制度の導入
経験豊富な社員と若手社員をペアリングし、定期的な面談の機会を設けます。キャリア相談や業務上の悩みを相談できる関係性を構築します。
- キャリアパスの明確化と支援
各職種や役職に求められるスキルや経験を明確にし、キャリアマップを作成します。また、キャリアコンサルタントとの面談機会を設け、個々人のキャリア計画策定を支援します。
ワークエンゲージメントの取り組み事例
実際にワークエンゲージメント向上のために取り組まれている具体例を見ていきましょう。他社が行なっている取り組み事例を知り、その工夫が理解できれば自社での導入や応用も可能となります。
1. 定期的な1on1ミーティング
上司と部下が定期的に1対1で対話する機会を設けることで、個々の課題や目標、キャリアプランについて深く話し合うことができます。
実施方法
- 半年に1回以上、30分〜1時間程度の時間を確保する。
- 社内のリラックスできる場所やオフィスとは違う場所(カフェなど)で実施し、リラックスした雰囲気を作る。
- 上司は「聴く」ことに重点を置き、部下の話を遮らないよう心がける。
効果的な質問例
- 「最近、仕事で最も充実感を感じた瞬間は?」
- 「現在の業務で困っていることや改善したいことは?」
- 「長期的なキャリアビジョンについて教えてください」
スタートする際は、唐突にヒアリングするのではなく、従業員個人の生活にもフォーカスを当てながら、徐々に深掘りしていくのが良いでしょう。ただし一定の距離感をもっておくことを忘れないようにしましょう。
フォローアップ
- 話し合った内容や決定事項を簡潔にまとめ、共有する。
- 次回のミーティングで、前回の内容の進捗を確認する
2. 社内表彰制度の導入
優れた成果や行動を表彰することで、従業員のモチベーション向上と好事例の共有を図っている企業もあります。
表彰カテゴリー例
- イノベーション賞:新しいアイデアや改善提案を実現した個人やチーム
- 顧客満足度向上賞:顧客からの高い評価を得た個人やチーム
- チームワーク賞:部門を超えた協力で成果を上げたプロジェクト
表彰の方法
- 半年、または1年ごとに表彰式を開催し、全社員の前で表彰する。
- 表彰状と共に、特別な体験(研修参加権や海外視察など)を副賞として贈呈する。
- 社内報やイントラネットで受賞者の取り組みを紹介する。
従業員同士での評価制度の導入
- 従業員同士が互いを評価し、推薦できる仕組みを作ります。
- オンラインツールを活用し、日常的に「いいね」や感謝のメッセージを送り合える環境を整備します。
3. ヘルスケアプログラムの実施
従業員の心身の健康をサポートするプログラムを導入することで、ワークライフバランスの向上とストレス軽減を図ります。
近年特にIT系の企業ではこうした福利厚生に力を入れているケースが増えており、従業員の満足度も高いことがわかっています。
マインドフルネス研修
世界的大手企業も導入しているマインドフルネス。セミナーを通してマインドフルネス・瞑想について理解を深め、専門のインストラクターからストレス軽減技法を学びます。
ボディメンテナンス
オフィスで終業時間内にカラダのメンテナンスとしてリラクゼーションやマッサージ、整体を受けます。
肩こりや腰痛で悩んでいる日本人は多く、こうした不調により生産性が落ちているところに直接介入するので、満足度がとても高く人気なサービスです。
ジムとの契約
近隣のジムと法人契約を結び、従業員が割引料金で利用できるようにします。
ジム利用は大変人気ですが、忙しい子育て世代は利用が難しかったり、帰宅方向が逆になると利用する機会が減少することもあるので、定期的に利用状況を把握することが必要です。
栄養サポート
栄養士による健康的な食事に関するセミナーを開催することも1つです。また月1回従業員に栄養バランスを考慮したお弁当を提供し、食生活に対する意識を向上している企業もあります。
メンタルヘルスケア
外部のカウンセラーによる相談サービスを提供します。急に従業員が出社しなくなったり、メンタル不調で休職せざるを得ない状況になる前に、個人のメンタル状況を把握する上でも、カウンセリングは有効です。
また従業員50人未満の企業でもストレスチェックを定期的に実施し、結果に基づいた個別フォローを行うケースも少なくありません。
ヘルスケアプログラムは従業員と直接関わるため、従業員満足度は高くなりますが、実際に効果があったのかを効果測定することを忘れていけません。
やりっぱなしにせず、実施した効果が出ているのかを把握するためにも、効果測定は必ず行いましょう。
効果測定
おわりに
これらの取り組みを通じて従業員のワークエンゲージメントを高め、組織全体の活性化と生産性の向上を図ることができます。
重要なのはこれらの施策を一時的なものではなく、継続的に実施し、常に従業員のフィードバックを基に改善を重ねていくことです。経営層自らが率先して参加し、その重要性を示すこともプログラムの成功には不可欠ですので、まずは取り組みやすいものから初めて見ると良いでしょう。
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