【徹底解説】『ワークライフインテグレーション』とは?ワークライフバランスとの違いと健康経営との関係

働き方改革が広がり、企業は「働きやすさ」をどうつくるかを真剣に考えるようになりました。そこでよく聞かれる言葉が「ワークライフバランス(WLB)」です。

 

しかし近年では、同じ働き方のテーマでも少し考え方が異なる「ワークライフインテグレーション(WLI)」という概念が注目されています。

 

どちらも「仕事と生活を大切にする」という点は同じですが、「どのように両立するか」という考えが大きく違います。そして、この違いを理解することは、企業が健康経営を推進するときに大きなヒントになります。

 

この記事では、「ワークライフバランス」に代わる新しい概念として注目されている「ワークライフインテグレーション」について、ぞれぞれの違いとメリット、なぜ健康経営のためにこの考え方を取り入れると良いのかをわかりやすく解説していきます。

 

ワークライフバランスとワークライフインテグレーションの違い

ワークライフバランス

まずはワークライフバランスとワークライフインテグレーションの違いについて解説していきます。

ワークライフバランスとは

ワークライフバランスは、「仕事」と「生活」を天秤にかけてバランスを取る考え方です。

  • 仕事に時間とエネルギーを使いすぎない
  • 家庭や趣味、休息の時間も十分に確保する
  • 「仕事」と「私生活」を明確に分ける

たとえば、「定時で帰れる」「休日は仕事に追われない」「育児や介護をしながら働ける制度がある」といった状態を目指します。

 

この考え方は、長時間労働が当たり前だった時代の改善策として広がりました。

 

実際に、過労や慢性ストレスは心身の健康リスクを高めてしまうため(厚生労働省:令和5年度過労死等防止対策白書)、休息時間の確保は欠かせません。その意味で、ワークライフバランスは今でも重要な考え方です。

 

ワークライフインテグレーションとは

一方の ワークライフインテグレーションは、仕事と生活を「対立するもの」とせず、むしろ「つながりながら支え合うもの」と考える働き方です。

  • 仕事が充実すると、生活にも良い影響が出る
  • 私生活で得た経験や人間関係が、仕事にも役立つ
  • 「仕事」と「生活」を状況に応じて行き来しやすくする

 

仕事も私生活も、どちらも「人生」を構成する大切な要素であり、明確な境界線はないという考え方です。

 

両者は無理に分けるのではなく、お互いが良い影響を与え合うよう「統合(インテグレーション)」し、調和させることが大切だというものです。

 

例えば下記のような働き方が挙げられます。

  • 在宅勤務やサテライトオフィス
  • フレックス勤務
  • 子どもの行事に行ける柔軟な休暇制度
  • オンライン会議を活用した移動時間の削減

 

ポイントは、仕事と生活の境界を必要に応じて「柔軟対応できる」ことです。

 

海外の研究(Kossek, 2016)でも、「個人が自分に合った働き方を選べるほど、ストレスが減り、生産性が高まる」ということが示されています。

両者の違い

項目 ワークライフバランス(WLB) ワークライフインテグレーション(WLI)
考え方 仕事と生活は別のもの 仕事と生活は影響しあうもの
目標 どちらかに偏らない お互いが良い形でつながる
定時退社、休暇取得の推進 在宅勤務、柔軟な時間設計
キーワード 分ける・均等にする つなぐ・最適化する

 

まとめると、ワークライフバランスは「仕事と人生の間を明確に分けて、競争感覚を生む」のに対し、インテグレーションは「仕事、家庭、家族、地域社会、個人の幸福や健康など、人生を定義するすべての領域で、より多くの相乗効果を生み出す考え方」になります。

 

なぜ「ワークライフインテグレーション」が注目されるのか?

指差す女性

なぜ今、このワークライフインテグレーションという考え方が必要とされているのでしょうか。

 

その理由としては、テクノロジーの進化と働き方の多様化が進んだからです。

 

特にリモートワークやフレックスタイム制が普及したことで、仕事と私生活の物理的な境界線は劇的に曖昧になりました。

 

自宅のリビングで仕事をしながら、合間に洗濯物を回す。子供を迎えに行った後、カフェで残りのタスクを片付ける。こうした働き方をしている人にとって、「今から午後5時までは仕事モード。それ以降は一切仕事のことは考えません」と、きっちり分ける(バランスを取る)ことが、非現実的です。

 

むしろ、無理に分けようとすることがストレスを生み、「仕事中に家事をしてしまった…」「休みなのに仕事のメールを見てしまった…」と罪悪感を抱く原因にすらなり得ます。

 

また、特にミレニアル世代(1980年代〜1990年代半ば生まれ)は、従来のワークライフバランスよりも、柔軟で自律的なワークライフインテグレーションを重視する傾向があることも示されています。

 

仕事は単にお金を稼ぐ手段ではなく、自己実現や社会貢献の場でもある。だからこそ、私生活と切り離すのではなく、自分らしく統合させたい。そうした価値観の変化も、インテグレーションが注目される大きな理由なのです。

 

ワークライフインテグレーションがもたらすメリットと健康経営

ワークライフインテグレーションのメリット

ワークライフインテグレーションがもたらすメリットには大きく3つがあります。

 

メリット①ウェルビーイングの向上

家族

ワークライフインテグレーションは、ストレスや燃え尽き症候群を減らし、私たちの幸福度を高めます。

 

2024年に発表されたRiyantoらの研究によると、ワークライフインテグレーションをうまく実践できている人(例:仕事と私生活のタスクをうまくやりくりできる人)は、人生に対する満足度が高いことが分かりました。

 

これはなぜでしょうか?その理由としては「仕事か、家庭か」という葛藤が減るからです。

 

例えば、「子供が熱を出したから、会社を休まなければならず、職場に迷惑をかけてしまう」という状況は、従来のワークライフバランスのモデルでは大きなストレスとなります。

 

しかしワークライフインテグレーションでは、「午前中は家で子供を看病し、その間は緊急の連絡だけ対応する。子供が寝た午後に集中して作業し、足りない分は夜にカバーする」といった柔軟な対応が可能です。

 

このように、自分の裁量で仕事と私生活を柔軟に組み合わせられる仕事のコントロール感)、ストレスを大幅に軽減し、心理的な幸福感(ウェルビーイング)を高めてくれるのです。

 

逆に、バランスが取れていない、あるいは統合がうまくいかない状態は、燃え尽き症候群(バーンアウト)やうつ、不安といったメンタルヘルスの問題に直結することが、多くの研究で示されています

 

メリット②:「生産性」と「満足度」が上がる

上司と話す部下

ワークライフインテグレーションを実践する従業員は、仕事への満足度が高く、結果としてパフォーマンス(生産性)も向上します。

 

仕事と私生活が統合されると、仕事が中途半端になるどころか、むしろ生産性が上がるのです。

 

2025年に発表されたシステマティックレビュー(複数の質の高い研究を統合・分析したもの)では、ワークライフインテグレーションがもたらすポジティブな結果として、以下の項目が挙げられています。

 

  • 心理的ウェルビーイングの向上
  • 仕事満足度の向上
  • 仕事へのエンゲージメント(熱意)の向上
  • 生産性の向上
  • 組織への忠誠心(辞めにくくなる)

 

このように、柔軟な働き方によって心身ともに満たされた従業員は、仕事への意欲が高まり、結果としてより質の高いアウトプットを生み出せるようになるのです。

 

メリット③:「健康経営」の実現に直結する

腕を組む社員

ワークライフインテグレーションの推進は、従業員の健康維持と組織の持続的成長(=健康経営)の鍵となります。

 

ここまで見てきたように、ワークライフインテグレーションは「従業員の心の健康」と「組織の生産性向上」を両立させるアプローチです。

 

これこそが、経済産業省などが推進する「健康経営」の核心そのものです。

 

健康経営とは、「従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践すること」です。

 

単に「病人を減らす」という守りの視点だけでなく、「従業員が心身ともに健康でいきいきと働くことで、組織全体の活力が上がり、業績も向上する」という攻めの経営戦略です。

 

しかし、多くの企業が「健康経営」を掲げつつも、実態は「健康診断の受診率アップ」や「ストレスチェックの実施」といった表面的な取り組みに留まっているケースも少なくありません。

 

本当に従業員のウェルビーイングを高め、生産性を上げたいのであれば、働き方の「仕組み」そのものを見直す必要があります。

 

組織が従業員の柔軟な勤務スケジュール、リモートワークの許可、適切な休暇プログラムの提供のようなワークライフインテグレーションを支援することが、「持続可能な労働力(Sustainable Workforce)」を構築する上で不可欠だとAbbadaらは結論づけています。

 

つまり、従業員が「この会社なら、自分の人生を大切にしながら働ける」と感じられる環境を作ることこそが、優秀な人材を惹きつけ、定着させ、企業が長期的に成長し続けるための最も確かな「健康経営」投資なのです。

 

健康経営については詳しくは、こちらの記事をご覧ください。

参考【これだけでOK】健康経営とは一体何なのか?会社が取り組むべき理由と内容について解説

「健康」とは個人が管理するものと認識されている方が大半かと思いますが、近年人手不足の影響もあり、会社も従業員の健康を支援する流れが来ています。   国も推進している「健康経営」の取り組みが徐 ...

続きを見る

 

ワークライフインテグレーションの注意点

しかし一方で、適切な管理やサポートがないままワークライフインテグレーションが進むと、以下のような問題が起こり得ます。

WLIの課題

  • テクノストレッス: デジタル技術に常時接続することで生じるストレス 。
  • 役割葛藤: 仕事の役割と私生活の役割(親、配偶者など)が対立し、混乱する 。
  • 社会的孤立: 職場の人との交流が減り、孤立感を感じる 。
  • 情緒的消耗: 「常に対応しなければならない」というプレッシャーによる燃え尽き 。

 

成功の鍵は「個人の境界管理」と「組織の文化」

上記の課題を解決するのに、科学的に重要だとされているのが「バウンダリー・マネジメント(境界管理)」という考え方です。

 

個人ができること

インテグレーションとは「境界をゼロにする」ことではありません。「境界線を、他人に決められるのではなく、自分で主体的に引き直す」ことです。

デジタル・デトックスのルール化

「夜9時以降はPCを開かない」「チャット通知はオフにする」など、自分なりの「つながらない時間」を明確に決める。

空間的な境界づくり

リモートワークでも、「この机に座っている間だけ仕事モード」など、物理的な境界を作る。

カレンダーの共有

「この時間は子供の送り迎え」「この時間は集中タイム」など、自分の予定を可視化し、周囲の理解を得る。

 

組織がすべきこと

制度を作るだけでは成立しません。「使いやすい文化」をつくることが大切です。組織として支援する例を下記にご紹介します。

取り組み例

  • フレックスタイム制度の適用範囲を拡大する
  • 在宅勤務・ハイブリッド勤務を「例外」ではなく「選択肢」にする
  • 会議は短く、資料はシンプルにする(業務設計の改善)
  • 昼休みや休憩時間をしっかり確保する文化をつくる
  • 上司が「使っていいよ」と言葉にする(これが最重要)

 

おわりに

今回は、「ワークライフインテグレーション」という新しい働き方の概念について、科学的根拠を基に解説しました。

 

仕事と私生活の理想的な「統合」の仕方は、人によって異なります。「子供との時間を最優先に、仕事は効率的に」という考えもあれば、「今はキャリアに集中し、仕事と学びを融合させる」という考えもあるでしょう。

 

大切なのは、誰かの決めた「バランス」に自分を合わせるのではなく、社員が最も幸せで、最も力を発揮できる「統合」の形を、見つけてもらうことです。

 

参考文献

  • Jihan Abbada,et al:Building a Sustainable Workforce through Work-Life Integration: Antecedents, Consequences, and Implications.Journal of Business Management and Accounting Vol. 9, No. 1 (2025), pp. 55-70
  • Nur Izzaty Shahirah Nor Sham,et al.Work-Life Balance and Work-Life Integration: A Comparative Analysis through Conceptual Distinction.Business Management and Strategy, Macrothink Institute, vol. 16(1), pages 39-45, June.
  • Mohammad Mizenur Rahaman,etal.The link between mindfulness and workplace outcomes: does work–life balance matter?International Journal of Organizational Analysis (2025)
  • Fery Riyanto,et al.Work-life integration promoting happiness at work: Moderation of work stress.April 2025SA Journal of Industrial Psychology 51
  • Supriya Mahesh Jagdale,et al.WORK LIFE INTEGRATION AND MENTAL HEALTH: QUANTITATIVE STUDY OF EMPLOYEE WELL BEING. Journal of Visual and Performing Arts.June 2024 5(6), 1988–1995
  • Jyoti Gaur,et al.Relationship Between Work life Balance with Job Satisfaction in Organization: A Systematic Review of the Empirical Research.Management 2025;(1):826-855
  • Badri, S. K. Z., Yung, C. T. M., Wan Mohd Yunus, W. M. A., & Seman, N. A. A. (2023). The perceived effects of spirituality, work-life integration and mediating role of work passion to millennial or gen Y employees’ mental health. Management Research Review, 46(9), 1278–1295.
  • Bulut, S., Rostami, M., Bulut, S., Bukhori, B., Seyed Alitabar, S. H., Tariq, Z., & Zadhasn, Z. (2024). Work-Life Integration in Women’s Lives: A Qualitative Study. The Psychology of Woman Journal, 5(1), 36–42.
  • Tiwari, M., Mathur, G., & Narula, S. (2024). Ramification of work and life integration on exhaustion and work–life balance due to Covid-19 in IT and academic institutions. Information Discovery and Delivery, 6(2), 77–86.

 

 

 

RECOMMEND

-健康経営, 記事・コラム
-, ,