定期健康診断を会社で実施するのは義務ですが、その結果を活用できていますか?健康診断は、従業員の健康維持・増進、生産性向上、そして企業価値向上に不可欠な投資であり、その結果を最大限に活用することが重要です。
今回は事業主の法的義務、健康診断の役割、結果の重要性、そして会社全体で結果を活かす具体的な方法について、健康経営推進における健康診断結果を会社全体で活かす具体的な方法について解説します。
「健康診断」受けて終わっていませんか?
毎年、会社で健康診断を受けている方は多いでしょう。しかしその結果を「異常なし」と確認して、そのままにしてしまっていませんか?
健康診断は、単に法律で定められた義務を果たすためだけのものではありません。従業員一人ひとりの健康を守り、ひいては会社全体の活力を高めるための重要な機会です。
「健康経営」という言葉を耳にされた方も多いのではないでしょうか?
これは従業員の健康管理を経営的な視点で捉え、戦略的に実践することで、生産性の向上や企業イメージの向上を目指す考え方です。この健康経営を推進する上で、健康診断の結果をいかに活用するかが鍵となります。
法律で定められた健康診断
まず、基本として押さえておくべきは、事業主(会社)には従業員に健康診断を受けさせる法的な義務があるということです。これは労働安全衛生法第66条で定められています。
健康診断の種類と対象者 企業が実施すべき健康診断は、大きく分けて「一般健康診断」と「特殊健康診断」の2種類があります。
【一般健康診断】
職種に関わらず、常時使用する労働者を対象に行われます。
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- 雇入れ時の健康診断
- 定期健康診断
- 特定業務従事者の健康診断
- 海外派遣労働者の健康診断
- 給食従業員の検便
【特殊健康診断】
有害な業務(例:有機溶剤、鉛、放射線業務など)に常時従事する労働者を対象に、原則として雇入れ時、配置替え時、および6ヶ月以内ごとに1回実施します。
これらの健康診断を実施しないと、50万円以下の罰金が科せられる可能性があります。しかし、法令遵守だけがその目的ではありません。健康診断は従業員の健康維持・増進と、企業の持続的な発展を支える重要な取り組みなのです。
企業のその他の義務
健康診断の実施に加え、企業には以下の義務もあり、健康診断の実施とそれに伴う対応は企業の重要な責任になります。
費用負担
法定の健康診断費用は、原則として全額企業が負担します。
結果の通知
健診結果は遅滞なく従業員本人に通知しなければなりません。
結果の記録・保管
健康診断個人票を作成し、原則として5年間保管する必要があります。
労働基準監督署への報告
常時50人以上の労働者を使用する事業場では、定期健康診断の結果を所轄の労働基準監督署長に報告する義務があります。
医師等からの意見聴取と事後措置
健康診断の結果、異常の所見があると診断された従業員については、医師や保健師の意見を聴き、必要に応じて就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮などの措置を講じなければなりません。
なぜ「受けるだけ」ではもったいないのか?
健康診断は法律上の義務を果たすだけではありません。その主な目的は「一次予防」と「二次予防」にあります。
一次予防
病気になることを未然に防ぐことです。健康診断の結果を通じて、自身の生活習慣(食生活、運動、喫煙、飲酒など)の問題点に気づき、改善に取り組むきっかけとすることができます。肥満やメタボリックシンドロームを早期に見つけ、生活習慣指導につなげることも一次予防に含まれます。
二次予防
病気を早期に発見し、早期治療につなげることです。生活習慣病(高血圧、糖尿病、脂質異常症など)をはじめ、がんなどの様々な病気は、初期段階では自覚症状がないことがほとんどです。
健康診断によってこれらの病気を早期に発見できれば、重症化する前に治療を開始でき、身体的・時間的・経済的な負担を軽減できます。健康診断は主にこの二次予防の役割を担っています。
健康診断の本当の役割
上記のように健康診断の役割は疾病の早期発見・早期治療です。しかしそれだけには止まりません。
- 疾病リスクの可視化
- 労働環境の評価
- 健康意識の向上
特定の健康問題が社内で多発している場合、それは労働環境に問題がある可能性が示唆されますし、。「去年より数値が悪化した」「基準値を超えてしまった」といった気づきが、従業員自身の健康に対する意識を高める機会にもなります。
結果を活かすことの重要性
健康診断を実施するだけでは十分ではありません。その結果を適切に活用してこそ、真の価値が生まれます。健康診断結果の活用が重要である理由は主に以下の3点です。
企業の持続的成長のため
従業員の健康問題は、直接的に企業の生産性や業績に影響します。経済産業省の調査によると、従業員の健康状態と企業の生産性には強い相関関係があります。
- 病気による欠勤(アブセンティーイズム)の減少
- 出勤はしているが健康上の問題で十分なパフォーマンスを発揮できない状態(プレゼンティーイズム)の改善
- 長期的な人材確保と定着率の向上
健康診断結果を活用した健康施策は、これらの課題解決に直結します。
医療費・健康保険料の適正化
従業員の健康状態が悪化すると、治療のための医療費が増加し、結果として健康保険料の上昇につながります。特に健康保険組合を持つ大企業では、従業員の健康維持は財政的にも重要な課題です。
健康診断結果に基づく早期介入により、重症化を防ぎ、高額な医療費の発生を抑制することができます。
従業員のエンゲージメント向上
企業が従業員の健康に真剣に取り組む姿勢は、従業員の会社に対する信頼感やロイヤルティを高めます。健康診断結果を活用した個別フォローや健康支援プログラムの提供は、「会社が自分の健康を気にかけてくれている」という実感につながります。
健康経営に取り組む企業は、従業員の離職率が一般的な企業よりも低いという結果も出ています。全国平均の離職率が11.1%であるのに対し、健康経営の表彰を受けようとする企業は
4.6%と半分以下となっています。
(出典)経済産業省 ヘルスケア産業課 健康経営の推進について 令和6年3月
採用コストの削減や組織知の維持という観点からも、健康診断結果の活用は重要な経営戦略と言えるでしょう。
従業員のエンゲージメント、特にワークエンゲージメントについてはこちらでも詳しく解説しています。
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健康診断結果の効果的な活用法
では、健康診断結果を具体的にどのように活用すれば良いのでしょうか。今回は組織の側面から考えてみましょう。
結果の収集と管理体制の整備
従業員の健康診断結果を企業が把握し、適切に管理する体制が必要です。結果は個人情報であるため、取り扱いには細心の注意を払い、厳重に管理する必要があります。
近年は紙の結果をデータ化し、クラウド型の健康管理システムなどで一元管理する企業が増えています。データ化により、管理業務の効率化、経年変化の把握、分析の容易化といったメリットがあります。
データの集計・分析と健康課題の把握
個人の結果だけでなく、部署別、年齢別、性別などで集計・分析し、組織全体の健康課題や傾向を「見える化」します。
例えば「特定の部署で高血圧の有所見率が高い」「若年層で肥満が増加している」といった課題を特定できます。健康管理システムには、こうした分析機能を持つものもあります。
課題に基づいた健康施策の企画・実施
分析によって明らかになった健康課題に基づき、具体的な健康増進策を計画し、実行します。
取り組み例
- 高血圧対策:減塩セミナーの開催、運動推奨プログラム
- 肥満対策:ヘルシーメニューの提供(社員食堂)、ウォーキングイベント
- メンタルヘルス対策:ストレスチェックの実施、相談窓口の設置、リラクゼーション研修
- 生活習慣改善:禁煙サポート、睡眠改善セミナー
有所見者へのフォローアップ体制
健康診断で異常所見があった従業員に対して、再検査や精密検査の受診勧奨、産業医や保健師による保健指導を実施する体制を整えます。二次健康診断等給付(労災保険)の活用も検討しましょう。
従業員50人未満の企業は産業保健総合支援センター(通称:さんぽセンター)を利用すると無料で対応してくださるので、ぜひ活用していただきたいです。
効果測定と改善 (PDCAサイクル)
実施した健康施策の効果を定期的に評価し、必要に応じて見直しを行います。健康診断の結果データを継続的に分析することで、施策の効果測定が可能になります。
健康意識を高める風土づくり
経営層が率先して健康経営の重要性を発信し、健康診断の受診しやすい環境(就業時間内受診の推奨、休暇取得の奨励など)を整備します。健康に関する情報を社内報やポータルサイトで共有したり、健康増進の取り組みを表彰したりすることも有効です。
重要なのは、健康診断を「やらされ感」のある義務的なものではなく、自身と組織の持続的な成長のための投資として従業員に認識してもらうことです。
まとめ
健康診断は実施して終わりではなく、その結果を適切に活用してこそ意味があります。組織の持続的な成長と従業員の幸福のために、健康診断結果を戦略的に活用した健康経営を推進しましょう。
重要なのは健康診断という「点」の取り組みを、日常的な健康増進活動という「線」につなげ、最終的には「健康を大切にする組織文化」という「面」に発展させていくことです。
健康経営は、従業員と企業がともに成長するための重要な経営戦略です。健康診断結果をデータとして活用し、科学的根拠に基づいた健康経営を実践することで、組織の持続的な発展を実現しましょう。
参考
- 経済産業省 ヘルスケア産業課 健康経営の推進について 令和6年3月
- 経済産業省 健康経営の効果② 健康経営と労働市場の関係性
- 経産業省 健康経営の推進について 令和6年4月経済産業省 商務・サービスグループ ヘルスケア産業課
- 働く世代の健康意識調査結果
- 令和2年 労働安全衛生調査(実態調査) 結果の概況
- 公益財団法人 東京都予防医学協会:定期健康診断・基本健康診査
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