花粉症は仕事のパフォーマンスに影響する？会社での対応策について解説

花粉症は日本において「国民病」とも呼ばれるほど多くの人に影響を与えています。特にスギ花粉症は日本特有の問題として深刻な社会的影響があります。生活の質（QOL）だけでなく、企業における労働生産性の低下や経済的損失にも直結しており、健康経営の観点からも重要な課題となっております。

今回は花粉症の特徴と対策について個人・会社の双方が取り組める対策について詳しく解説していきます。

花粉症の現状

スギ林の面積は全国の森林の18％、国土の12％を占めています。そのため花粉症を患う方の約70％はスギ花粉が原因です。

そんなスギ花粉の花粉症について、全国の耳鼻咽喉科医とその家族を対象とした鼻アレルギーの全国調査が約10年おきに３回実施されています。

その報告によると2019年の花粉症有病率は42.5％と2〜3人に1人とさ報告されています。特に10代〜50代で45％以上と高くなっている傾向にあります。

（画像元）環境省：花粉症環境保健マニュアル2022　

花粉症環境保健マニュアル2022のグラフを見ても、生活環境や気候変動の影響もあって昔よりも増加傾向にあります。

花粉症の症状は周囲の人は大変さを理解しづらいアレルギー疾患です。花粉のピーク時には業務に支障をきたすケースが散見されており、社会的に大きな損失になっています。

花粉症の症状

花粉症は鼻水やくしゃみなどの症状以外にも下記のような症状がみられます。

さまざまな不快症状が現れますが、これらを我慢して生活するため、日常生活全般に影響を与えています。

花粉症が仕事に与える影響

花粉症の症状により、従業員が体調不良によりパフォーマンスを発揮できないことは少なくありません。

生産性の低下

パナソニックが2020年に行った「花粉症による労働力低下の経済損失額2025」によると、その経済損失額は1日あたりで「約2,320億円」に該当することが報告されています。

その報告の中では、花粉症がコンディションに影響していると回答している人の割合は約8割とされています。また1日のうちに花粉症により仕事のパフォーマンスが低下していると感じる時間は平均で2.8時間もあるそうです。

（画像元）パナソニック株式会社 花粉症による労働力低下の経済損失額2025

ノバルティス ファーマ株式会社も花粉症が業務パフォーマンスに与える影響を調査しており、症状があるときの仕事の効率は6〜7割と回答する率が最も多く約4割に上っています。

（画像元）ノバルティス ファーマ株式会社 プレスリリース

ウェザーニュースによると日本アレルギー学会の顧問の試算では、欠勤や生産性の低下、1人あたり年間約19万円の経済的損失が発生しているとの報告もあり、全国規模で見ることで総額は数兆円に達するとも報告されています。

こうしたことから花粉症による体調不良（鼻づまり、くしゃみ、目のかゆみなど）によって、出社しても十分に業務に集中できず、仕事の効率が落ちる「プレゼンティズム」が発生している可能性があります。

特に症状が重い場合は集中力の低下や体力の低下につながり、十分なパフォーマンスを発揮できなくなる可能性があるため、企業全体の生産性が低くなってしまいます。

精神的ストレス

花粉症の慢性的な症状により、従業員が精神的なストレスや不安を感じるケースも増えています。

看護師を対象として行った研究では、花粉症の症状そのものが業務上の支障となるストレッサーであるとされています。

また参天製薬株式会社が行った調査では、花粉症ではメイクが崩れやすくなり、メイクする気力や外見への自身がなくなるといった精神的な面にも影響をもたらすと報告しています。

花粉症は「イライラ」「集中力の低下」「憂うつ感」といった精神的な症状が現れます。こうしたことが社内のコミュニケーションやチームワークにも影響を与え、職場全体の雰囲気や生産性に影響する可能性があるのです。

精神的ストレスはアレルギー疾患や喘息などにも影響することがわかっています。こうした症状が続くと悪循環になってしまうため、症状を悪化させないためにも精神的なケアも必要となります。

長時間労働

花粉症の症状は生産性を低下させるため、結果として残業が増え、帰宅時刻が遅くなるという結果もあります。500名へのアンケート調査で、帰宅時刻が遅くなったことがあると回答した割合は67％に及んでいました。

（出典）参天製薬株式会社 ～花粉シーズンのストレスを大調査～

これは集中力の低下や簡単なミスをしてしまうことが原因と考えられ、働き方改革が進んでいる昨今、時代に逆行する形となっています。

企業が取り組むべき花粉症対策

上記のような影響を考慮すると、健康経営の観点から企業は花粉症対策に積極的に取り組むことで、従業員の健康維持と生産性向上を図ることができます。

オフィス環境の改善

空気清浄機等の設置

オフィス内が過ごしやすい空間であると生産性が向上することは「健康経営オフィスレポート」でも報告されています。

オフィス内に空気清浄機や加湿器を設置することで、オフィス内の花粉濃度を下げ、従業員が快適に働ける環境を作ることができます。

設置の場所のポイントとして、冬場は暖房を利用すると思いますが、その際空気清浄機はエアコンと対面に設置し、エアコンの風向きを下にすることで空気を綺麗に循環させることができます。逆に夏場はエアコンの真下に置き、エアコンの風向きを上にすることで空気が循環するようになります。

また空気清浄機や加湿器を設置する際は、空調フィルターの定期的な交換や給水タンクの手入れも忘れないようしましょう。

健康経営オフィスレポートについてこちらの記事でも詳しく解説しています。

室内清掃の徹底

オフィスの床を掃除する機会は少ないかもしれませんが、人が行き来することで床に溜まっていた花粉を舞い上げてしまうことがあります。

そのため就業後のオフィスに誰もいない時間にお掃除ロボットに掃除をしてもらったり、床が乾いているときに花粉が飛散してしまわないよう、床を水拭きにすることも一案です。

そのほか花粉が付着しやすいカーテンや、デスク周りの清掃を強化し、花粉の蓄積も防いぎましょう。

換気のタイミング

花粉症の時期は換気のタイミングにも注意する必要があります。花粉は一日のうち昼前後が１度目のピークとなり、夕方に再びピークがきます。そのためその時間を避けて換気をする必要があります。

また風が強く空気が乾燥している日、雨が降った翌日、気温が高くよく晴れた日なども花粉の飛散量が増えるので、換気の際には時間帯や気候に合わせて窓を細目に開けたり、レースのカーテンを通して空気を入れ替えるようにしましょう。

多様な働き方の導入

出社する際の通勤で花粉にされされて、症状に悩まされることを考えると働き方に考慮する必要もあります。

従業員の働き方がオフィス出社に限定されているときは、テレワークを推奨することもよいでしょう。株式会社spice lifeは「花粉のない沖縄で働きたい」との社員の声から、花粉症の社員を対象にリモートライフ制度を導入しています。

また健康経営経営度調査の報告では、花粉飛散期のテレワークなどを認めている企業は全体の２割程度あります。

花粉が多い時期に在宅勤務を促進し、従業員の負担を軽減することは多様な働き方に考慮しているとされ、就活生にも好印象を与えます。

花粉症対策の支援

花粉症による治療費や予防対策にかかる費用を補助する手当制度を導入している企業もあります。株式会社ラフールは社員の生産性低下を防ぐための福利厚生「花粉症手当」を導入しています。

この制度を導入することで、集中力アップにより残業時間10%削減でき、仕事にかける時間の短縮により営業受注数も1.3倍になったと報告されています。

花粉症対策の支援としては、顔にフィットするマスクやメガネを装着することで花粉の数を大幅に減少させることができるので、従業員の経済的負担を軽減するためにオフィスでサイズの違うマスクを購入したり、簡易のメガネを設置することも良いでしょう。

まとめ

花粉症は体調不良に留まらず、生産性の低下や経済的な損失をもたらす社会問題の1つです。 健康経営の一環として、オフィス環境の改善、柔軟な働き方の導入、定期的な情報提供を実施することは、従業員の健康維持と生産性向上を実現することができます。

企業が従業員の健康に配慮する姿勢は、求職者に選ばれる会社として、結果的に企業の競争力向上にもつながりるため、まずは費用のかからない対策からでもスタートしていきましょう。