「NotebookLMはアップロードした資料に基づいて回答するから嘘をつかない」そう聞いたことはありませんか?
GoogleのAIツール「NotebookLM」は仕事や学習の効率をUPさせる可能性を秘めています。指定したPDFやGoogleドキュメントの内容だけを読み込んで、的確な要約や回答を生成してくれるその賢さには、目を見張るものがあります。
その一方で「AIである以上、ハルシネーションは本当にゼロなの?」という疑問や不安を感じている方も多いのではないでしょうか。
結論から言うとNotebookLMはハルシネーションのリスクを大幅に低減させる画期的な技術を採用していますが、残念ながらそのリスクを完全にゼロにすることはできません。
でもハルシネーションが「なぜ」「どんな時に」起こるのか、その仕組みを正しく理解し、少しだけプロンプト(指示文)を工夫するだけで、そのリスクを極限まで抑え、NotebookLMの精度を最大限に引き出すことが可能です。
この記事では、大規模言語モデル(LLM)のハルシネーションに関する複数の学術論文を基に、以下の内容を誰にでも分かるように、そして具体的にお伝えします。
なぜNotebookLMでもハルシネーションは起こるのか?
NotebookLMがハルシネーションを起こしにくい最大の理由は、一般的なチャットAIのようにインターネット上の膨大な情報からではなく、アップロードした特定の資料(ソース)のみを根拠として回答を生成する仕組みです。
この技術はAI研究の分野では「RAG(Retrieval-Augmented Generation / 検索拡張生成)」と呼ばれ、AIの回答の信頼性を高めるための最も有力なアプローチの一つとして注目されています。
「ソースへの接地」技術の強みと限界
一般的なAIが記憶だけを頼りに回答するのに対し、簡易的なRAGの機能を搭載しているNotebookLMは、手元の資料を逐一確認しながら回答を作成します。これにより、資料に書かれていないことを勝手に創作してしまう、という典型的なハルシネーションを劇的に減らすことがでます。
ただこのRAGモデルにもまだ課題は残されています。2023年に発表されたある研究ではRAGモデルにおけるハルシネーションの原因を分析したところ、たとえソースがあっても、その解釈や統合の過程で誤りが生じる可能性があることを示しています。
つまりNotebookLMは手元の資料を「見る」ことはできますが、その内容を100%完璧に「理解」し、「矛盾なく」組み合わせて出力できるわではないのです。
これがNotebookLMでもハルシネーションが起こりうる理由です。
ハルシネーションの3つの発生源
具体的にどのようなプロセスでハルシネーションは生まれるのでしょうか。NotebookLMのようなRAGモデルにおけるハルシネーションは、主に以下の3つのパターンに分類できます。
情報の欠落・不正確な抽出(Extraction Errors)
ソースとなる資料に答えが明確に書かれているにもかかわらず、AIがその部分を見つけ出せなかったり、不正確に抜き出したりするケースです。
特に複雑な表や専門用語が多い文章で起こりやすいとされています。
解釈の誤り(Interpretation Errors)
資料の内容を文字通りには理解できても、その文脈やニュアンスを誤って解釈してしまうケースです。
例えば皮肉や比喩表現を文字通りに受け取ってしまったり、複数の文の論理的な関係を取り違えたりすることで、事実に反する回答が生成されます。
不適切な統合(Integration Errors)
複数の資料や、一つの資料内の異なる箇所から情報を組み合わせて回答を作成する際に、矛盾した情報を無理やりつなぎ合わせたり、本来は無関係な情報を関連付けてしまったりするケースです。これは複雑な質問をした際に特に起こりやすい現象です。
NotebookLMは非常に優秀ですが、このような「情報の抽出・解釈・統合」という人間にとっては比較的簡単なタスクで、まだ間違う可能性があるのです。
このAIの「癖」を理解しておくことが、ハルシネーションを防ぐ第一歩となります。
ハルシネーションを誘発してしまうプロンプトの特徴
NotebookLMのハルシネーションは、AI側の問題だけでなく、私たちユーザーの「質問の仕方(プロンプト)」によっても引き起こされることがあります。
ここではAIに解釈の隙を与え、結果としてハルシネーションを誘発しかねない「NGプロンプト」の典型的なパターンを4つご紹介します。
1. 曖昧すぎる・抽象的すぎる質問
AIは、具体的な指示がないと、何をすべきかを自分で「推測」しようとします。この推測がハルシネーションの温床になります。
- NGプロンプト例
この会議の議事録についてまとめて。
ココがダメ
- 改善プロンプト例
この会議議事録から、「Aプロジェクトに関する決定事項」と「その担当者」、「期限」を箇条書きで抽出してください。
2. 複数のソースをまたぐ複雑な推論を求める質問
AIは複数の情報を矛盾なく統合するのが苦手です。特に、異なる資料の情報を組み合わせて、新たな結論を導き出すような高度な推論は、ハルシネーションのリスクが高まります。
- NGプロンプト例
アップロードした市場調査レポートAと、競合分析レポートBを統合して、我々の新製品が取るべきマーケティング戦略を提案してください。
ココがダメ
- 改善プロンプト例
- まず、市場調査レポートAから、ターゲット顧客層のニーズを3つ挙げてください。
- 次に、競合分析レポートBから、競合製品の弱点を3つ挙げてください。
- 最後に、ステップ1のニーズとステップ2の弱点を踏まえて、新製品がアピールすべき独自の強みを考えてください。
このように複雑なタスクは分解し、一つずつ段階的に質問することが極めて有効です。
3. ソースに存在しない情報に関する質問
これは最も基本的な注意点ですが、意外とやってしまいがちです。NotebookLMは、あくまでアップロードした資料の中の情報しか持っていません。
- NGプロンプト例
(2023年の業界レポートをアップロードした状態で)このレポートを基に、2025年の市場動向を予測してください。
ココがダメ
- 改善プロンプト例
このレポートに記載されている過去5年間の市場成長率のデータを基に、同様の成長が続いた場合の2025年の市場規模を計算してください。ただし、これはあくまで単純計算であり、予測ではないことを明記してください。
4. 矛盾した情報を与える指示
プロンプトの中に矛盾した命令や制約を入れると、AIは混乱し、予期せぬ不正確な出力をする可能性があります。
- NGプロンプト例
この技術マニュアルの概要を、専門家向けに専門用語を多用しつつ、初心者でも分かるように非常に簡潔に説明してください。
ココがダメ
- 改善プロンプト例
この技術マニュアルの概要を、まず専門家向けに専門用語を使って500文字で説明してください。その後、同じ内容を専門用語を一切使わずに、中学生にも分かるように300文字で説明してください。
NotebookLMの精度を高める5つのプロンプト術
それではこれまでのハルシネーションのメカニズムとNGパターンを踏まえ、NotebookLMの精度を最大限に引き出すための、具体的なプロンプト術を5つご紹介します。
これらのテクニックはプロンプトエンジニアリングの分野でその有効性が研究されているものです。
① 「役割」と「前提条件」を明確に与える
AIに特定の専門家としての役割を与えることで、回答の視点や粒度が安定し、精度が向上することが知られています。
チェックリスト
- 結論:プロンプトの冒頭で「あなたは〇〇です」と役割を定義する。
- 具体例:あなたは優秀なデータアナリストです。添付した売上データの中から、第3四半期に売上が急増した要因として考えられる仮説を、データに基づいて3つ挙げてくださ
役割を定義することで、AIはどのような知識体系とスタイルで回答を生成すべきかを明確に認識できます。これにより、文脈から外れた回答や不要な推測を減らすことができます。
② 思考プロセスを書き出させる
複雑な問題に対して、いきなり答えを求めず、AIに「考え方のプロセス」を順を追って説明させる手法です。これにより論理的な誤りが減り、最終的な回答の質が向上することが多くの研究で示されています。
チェックリスト
- 結論: 「ステップ・バイ・ステップで考えて」「結論に至った理由を説明して」と付け加える。
- 具体例:添付した2つの論文の主張の相違点を比較してください。まず、それぞれの論文の主要な主張を要約し、次 に、両者の実験方法の違いを指摘し、最後に、それらの違いが結論の相違にどう影響したかを、ステップ・バイ・ステップで考察してください。
思考の過程を言語化させることで、AIは論理の飛躍や矛盾を自己修正しやすくなります。私たち人間も、途中の計算式を書くことで計算ミスが減るのと同じ原理です。
③ 質問をシンプルに分解する
これはNGプロンプトの項でも触れましたが、非常に重要なので改めて強調します。一つのプロンプトに一つの質問、これが鉄則です。
チェックリスト
- 結論: 複雑なタスクは、複数の簡単な質問に分解して、一つずつ対話形式で進める。
- 具体例: 上記の「2つのレポートを統合して戦略を立てる」タスクを、一つずつの質問に分解するアプローチです。
AIが一度に処理できる情報の量には限界があります。タスクを単純化することで、AIは各ステップに集中でき、「情報の抽出・解釈・統合」の各段階でのエラーを最小限に抑えることができます。
④ 回答の形式と情報源の引用を具体的に指示する
回答のフォーマットを具体的に指定することで、AIの出力をコントロールしやすくなります。またNotebookLMの強みである「引用機能」を最大限に活用する指示も有効です。
チェックリスト
- 結論: 「表形式で」「箇条書きで」「〜という見出しで」のように出力形式を指定し、「必ず根拠となるソースの箇所を引用してください」と付け加える。
- 具体例: 添付資料から、製品A, B, Cの価格、発売日、主要な機能を抜き出し、以下の表形式でまとめてください。また、各情報の根拠となった箇所を必ず引用してください。
- (例)| 製品名 | 価格 | 発売日 | 主要な機能 | |---|---|---|---| | 製品A | | | |
フォーマットを指定することで、AIが情報を構造化して整理する助けとなり、出力の網羅性や一貫性が向上します。引用を義務付けることで、AIがソースに基づかない情報を生成することを強く抑制できます。
⑤ 「もし情報がなければ…」と代替案を指示しておく
ソースに情報が存在しない場合にAIがどう振る舞うべきかを、あらかじめ指示しておくことで、知らないことを知ったかのように話すハルシネーションを防ぎます。
チェックリスト
- 結論:プロンプトの最後に「もしソース内に該当する情報が見つからない場合は、その旨を正直に伝えてください」という一文を加える。
- 具体例:このインタビュー記録から、インタビュイーが「リーダーシップ」について言及している箇所を全て抜き出してください。もし「リーダーシップ」という単語や関連する言及が一切見つからない場合は、「資料内に該当する記述はありませんでした」と回答してください。
この指示はAIに対して「知らないことを創作する」という選択肢を奪い、「知らないと報告する」という正しい行動を促します。これにより、存在しない情報をでっち上げるリスクを効果的に回避できます。
おわりに
今回はNotebookLMでハルシネーションが起こる仕組みと、そのリスクを最小限に抑えるための具体的なプロンプト術を解説しました。
NotebookLMに限らず、どんなに優れた道具もその特性を理解し、正しい使い方をしなければ真価を発揮できません。
ハルシネーションはAIがまだ発展途上であることの証です。その性質を理解し、賢く付き合っていくためには、この記事でご紹介したプロンプト術をぜひ活用してください。
参考文献
- Gao, Y., Yun, H., Zhang, Y., et al. (2023). Retrieval-Augmented Generation for Large Language Models: A Survey.
- Ji, Z., Lee, N., Frieske, R., et al. (2023). Survey of Hallucination in Natural Language Generation. ACM Computing Surveys, 55(12), 1-38.
- Wei, J., Wang, X., Schuurmans, D., et al. (2022). Chain-of-Thought Prompting Elicits Reasoning in Large Language Models. Advances in Neural Information Processing Systems, 35, 615-629.
- Shuster, K., Poff, S., Chen, M., Kiela, D., & Weston, J. (2021). Retrieval Augmentation Reduces Hallucination in Conversation.
NotebookLMについてはこちらの記事で詳しく解説しています。
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