睡眠時間と業績は関係する!?健康経営の視点から見る生産性向上の方法

近年SDGs や ESG 投資 への世界的な関心の高まりや、経済産業省等が 2015 年から始めた「健康経営」の取り組みへの関心が高まっています。その中でも従業員の睡眠時間と企業業績の関係性が注目を集めています。

 

本記事では睡眠の重要性、生産性との関係、そして企業業績への影響について、健康経営の観点から詳しく解説します。

 睡眠と生産性の関係

WORK

睡眠不足になると頭が働きづらいことは想像に容易かと思います。この状態は個人の生産性に大きな影響を与えます。

 

例えば睡眠不足の状態では、仕事中にミスが増えたり、新しいアイデアが浮かびにくくなったりといったことが起こりえます。

 

Marco Hafnerらの研究によると、日本の睡眠不足による経済的損失は年間約88億ドルから約138億ドルにのぼり、ドイツ、イギリス、アメリカ、カナダを超える規模であることが報告されています。

 

そのため生産性を高めるために必要な睡眠時間についても検討されています。

 

すでに睡眠時間と賃金には関係があることを示されており、高井らは「睡眠の経済分析」において、労働生産性を最大にする睡眠時間は 7 時間 14 分でであると報告しています。

 

睡眠の重要性

片腕を挙げる女性

睡眠は私たちが日常生活を送る上で、なくてはならないものです。質の高い睡眠をとることは、単に休息を得るだけでなく、心身のリフレッシュに繋がり、私たちの生活の質を大きく左右します。

 

特に現代社会においては、仕事や勉強、プライベートなど、様々なストレスを抱えながら生活している人が多く、睡眠不足に悩んでいる人も少なくありません。

 

適切な睡眠は以下のような効果をもたらすと言われています。

  • 疲労回復
  • 記憶力や集中力の向上
  • ストレス緩和
  • 生活習慣病の予防
  • 免疫力の維持

 

スリープヘルス

ベッドで寝る女性

良質な睡眠を確保し、心身の健康や生活の質を向上させることを目的とした概念として「スリープヘルス」があります。

 

これはウェルネス(よりよく生きようとする生活態度)やパフォーマンスの向上を含む広範な健康の一部として捉えられています。

 

心身の病気やパフォーマンスに影響を与えうる睡眠の重要項目としては以下の尺度が挙げられており、これを満たす睡眠が望ましいとされます。

  • 睡眠の長さ(duration)
  • 睡眠の満足度や質(satisfaction/quality)
  • 日中の覚 醒(alertness/sleepiness)
  • 睡眠の効率性(efficiency),
  • 睡眠のタイミング(timing)
  • 規則性(regularity)

日頃から上記のことを意識して睡眠をとるようにしてみましょう。

 

睡眠不足によって起こること

あたまを抱える女性

睡眠は重要と言われながらも、日本人の睡眠時間は先進国の中で最も短いことがわかっています。

 

睡眠が阻害されると生活習慣病やうつ病などの原因となります。

 

さらに情動(一時的な恐怖・驚き・怒り・悲しみ・喜びなどの感情)の処理やストレス反応に重要な役割を果たしている「扁桃体」と呼ばれる脳の部位が過剰に反応して、「怒りっぽい」「他人の悪いところが目につく」「ミスが多くなる」といいたことがわかっています。

 

医学・産業保健分野の研究によると、17時間連続して睡眠を取らずに作業を続けると、酒気帯び運転に相当する状態と同じくらい作業効率が低下するという実験結果も報告されています。

 

業績と睡眠の関係

右肩上がり

睡眠の重要性をご理解いただいた上で、では睡眠時間によってどの業績が変化するのかを見ていきます。

 

日経スマートワーク経営研究会が実施した調査によると、従業員の平均睡眠時間が長い企業ほど、利益率が高くなる傾向が明らかになりました。コロナ前の2017年から2019年の利益率の推移を見ても、睡眠時間が長い企業ほど利益率が高い状況が続いていると報告されています。

 

逆に従業員の睡眠状態(睡眠時間や睡眠の質)が平均的に悪い企業は、利益率が低い傾向にあることもわかっています。

 

そのため睡眠にフォーカスして健康経営の支援を進めていくことは、メンタルヘルス指標を改善させるのと同じくらい業績向上のためには必要なのです。

 

睡眠改善の取り組み

考える女性

企業が従業員の睡眠改善のために取り組める施策には以下のようなものがあります。

  1. 残業時間の削減
  2. フレックスタイム制度の導入
  3. 睡眠に関する教育・啓発活動
  4. 睡眠環境の改善(仮眠室の設置など)

例えばフレックスタイム制度は、コアタイムを設定し、それ以外の時間帯は従業員が自由に勤務時間を調整できる制度で、残業で遅くなった翌日は出社時間を遅らせることで睡眠時間を確保するなどの使い方も可能となります。

 

また仮眠室を設置したり、夕方以降は明るさを抑えるなどの環境設定も有効です。

 

他にも従業員の睡眠に対するリテラシーを高めるため、睡眠に関するセミナーや啓発用のポスターの掲示、イントラネットでの情報提供を行っている企業もあります。

 

複数の施策を組み合わせて実施することで、企業は従業員の睡眠の質を向上させ、生産性の向上と健康増進を同時に達成することができます。睡眠改善は個人の努力だけでなく、企業全体で取り組むべき重要な健康経営の課題であり、長期的な企業の成長と従業員の幸福につながる投資と言えます。

 

なお具体的な取り組み方法についてはこちらの記事でも解説しています。

参考【健康経営】働く人必見!生産性向上のための睡眠不足への取り組み

現代社会では仕事や人間関係、情報過多など様々なストレスに晒されています。そんな中睡眠は心身のリフレッシュに欠かせないものですが、十分な睡眠時間を確保できている人は少ないのではないでしょうか。 &nbs ...

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まとめ

睡眠は個人の健康だけでなく、企業の生産性や業績、さらには国の経済にまで影響を与える重要な要素です。健康経営の観点から従業員の睡眠の質と量を改善することは、企業の持続的な成長と発展につながる重要な鍵となります。

 

企業は従業員の睡眠改善を重要な経営課題として捉えると同時に、従業員一人ひとりも自身の睡眠の質を向上させるための努力が必要です。双方にとってよい取り組みを模索しながら、仕事のパフォーマンスを挙げていきましょう。

 

参考文献

  • 川太 悠史ら:健康経営と生産性.日本労働研究雑誌,No. 762/January 2024
  • Barnes, Christopher M., Brian C. Gunia and David T. Wagner (2015)“Sleep and Moral Awareness,” Journal of Sleep Research, Vol. 24, No. 2, pp. 181-188.
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  • 高井佑旗ら:睡眠の経済分析1 ~労働生産性の向上を目指して~WEST 論文研究発表会 2020 
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  • Gibson, Matthew and Jeffrey Shrader(2018)“Time Use and Labor Productivity: The Returns to Sleep,” Review of Economics and Statistics, Vol. 100, No. 5, pp. 783-798.

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