「賃上げ」と「福利厚生の充実」どっちがいいの?従業員と会社目線で考える

近年、日本企業における「賃上げ」が特に求められています。大企業の多くは賃上げを行っており、中小企業においてもその傾向が見られるようになっています。

 

一方で賃上げを行うと企業側の負担が増えるため、売上が減少している会社にとっては悩ましい問題といえます。

 

今回は賃上げを行う企業が従業員と会社の双方の視点から、これらの現状のメリットと対策を詳しく解説し、賃金引き上げが求められている背景や実際の影響、そして賃上げの代わりに福利厚生充実を図るメリットについて、具体的に見ていきましょう。

 

賃金引き上げが求められている理由

物価と賃金

厚生労働省によると令和6年の春季賃上げ集計は令和5年と比べ大きく上回ったことが明らかとなりました。

【令和6年】

賃上げ額:17,415 円、賃上げ率:5.33%

【令和5年】

賃上げ額:11,245 円、賃上げ率:3.60%

 

なぜこれほどまで賃上げが求められているのでしょうか。その理由には3つの背景があります。

物価上昇への対応

国内外での影響により、物価が上昇するインフレが起こり、生活費が増加していることがまず挙げられます。

 

実質的な購買力を維持するために賃金引き上げが必要となっているのです。

 

人材確保と確保

昨今、人材不足が特に深刻な社会課題となっています。優秀な人材を獲得・維持するためには、競争力のある給与水準が求められます。初任給の引き上げにも積極的なのはこれらの課題が背景にあるからです。

 

優秀な人材は賃金水準の高い外資系の企業に流れるやすく、また転職も以前よりは身近なものになったため、人材獲得競争に負けないためには賃上げは必要不可欠なのです。

 

労働生産性の向上

賃上げは従業員の短期的なモチベーションの向上につながるため、生産性の向上が期待されています。

 

賃上げすによるモチベーションは長期的には続かないため、賃上げによるモチベーションを維持しつつけるには持続的に行っていく必要があります。

 

従業員目線でのメリット・デメリット

従業員

従業員目線での賃上げのメリットとデメリットについて、詳しく解説します。

 

メリット

1. 実質的な収入増加

賃上げの最も直接的なメリットは、手取り額の増加です。これにより以下のような効果が期待できます。

  • 生活水準の向上
  • 貯蓄の増加
  • 投資機会の拡大

収入が上昇することにより、これまでの生活よりも、よい食事や住居、レジャーを楽しむことが可能となります。

 

また将来の不安に備えて、より多くの貯蓄も可能となり、自己啓発や資産形成のための投資に充てる資金が増えます。

 

将来の年金増加

賃金が上がることは、手取りの収入が増えるだけでなく、将来に受け取る年金額も増加します。

 

賃上げにより月々の厚生年金保険量の支払い額は増えますが、年金額が増えるため老後の不安がわずかですが解消されます。

 

ワークライフバランスの改善

賃上げは日頃の生活を効率化させるためのサービスの利用や、より良い通勤手段の選択が可能になります。

 

家事代行サービスの利用や時短家電の購入により、自宅で利用できる時間が増え、仕事と私生活のバランスを取りやすくなります。

 

デメリット

1. 税金や社会保険料の増加

収入が増えることはそれに合わせて、支払う税金(所得税・住民税)や社会保険料の増加につながります。

 

収入増加により所得税の課税額が上がり、手取り額の賃上げ前とほとんど変わらない可能性もあるのです。

 

2. 期待値の上昇

賃上げに伴い、会社からの期待も高まる可能性があります。

 

賃上げを行うために会社は売上・利益を増やす必要があるため、業務量や責任が増加し、プレッシャーやストレスが高まる可能性も考えられます。

 

3. 職場内の人間関係

職場内で一律に賃金が引き上げられる場合は問題ありませんが、そうでない賃上げの場合、同僚との給与格差が生じる可能性があります。

 

給与格差による不満や嫉妬が生まれ、チームワークに影響を与え協調性が損なわれる恐れがあることも理解しておく必要があるでしょう。

 

4. 転職のハードルが上がる

現在の給与が上がることはプラスのイメージがありますが、転職を考えた際に同等以上の条件での転職が難しくなる可能性もあります。

 

そうなるとキャリアの選択肢が限定されたり、現在の職場に留まらざるを得ない状況となり、自身の成長が滞ることも考えられるのです。

 

会社目線でのメリット・デメリット

経営者

賃上げを行うことで人経費がアップするため、会社にはデメリットに感じる部分もありますが会社側のメリットはなんでしょうか。

 

会社側の立場でもメリットとデメリットについて考えてみます。

 

メリット

人材の確保・定着

賃金の引き上げは、優秀な人材を確保する大きな武器となります。同じ仕事内容、勤務形態であれば、給与が人材獲得の1つの決め手となることは想像に容易です。

 

実際に転職する方の多くは「給与や低い」「昇給が見込めない」ことを理由に転職していることがdodaの調査で明らかになっています。

(参考)doda 転職理由ランキング【最新版】 みんなの本音を調査!

 

近隣の他社よりも高い賃金を提示することで、人材獲得競争において優位に立つことができるしょう。

 

モチベーションの向上

賃上げによる外的なモチベーションの向上により、仕事への意欲が高まり、より積極的に業務に取り組めるようになります。

 

また自身の価値が会社に認められたという実感につながることで、会社に対する忠誠心も高まります。

 

企業イメージの向上

賃上げ実施することは、企業の社会的評価や信頼性が向上する可能性があることも忘れてはいけません。

 

利益の出ている会社でなければ賃上げを行うことは簡単ではありませんので、従業員を大切にする企業として社会的に認識されます。

 

これにより顧客や取引の先からの信頼を得られたり、新たなビジネスチャンスの拡大にもつながる可能性があります。

 

デメリット

人件費の増加と利益の圧迫

賃上げを実施すると、最も直接的な影響として人件費が上昇します。これにより会社負担の社会保険料の増加にも繋がるため、企業の利益が減少することになります。

 

特に基本給を増額する方法を選んだ場合、全社員に一律で適用されるため、人件費の増加幅が大きくなるため注意が必要です。

 

当然人件費が増えると企業の収益を圧迫することになります。収益が悪化すると以下のような悪影響が生じる可能性があります。

  • 設備投資の縮小
  • 業務規模の縮小
  • 最悪の場合、廃業や倒産のリスク

 

従業員間の不公平感

賃上げの方法によっては、従業員間に不公平感が生じる可能性があります。

 

例えば成果給を導入した場合、好業績の従業員のみが恩恵を受け、他の従業員に不満が生じる可能性があります。この結果、不公平感を覚えた従業員のモチベーション低下や離職率の上昇につながる恐れが考えられます。

 

賃上げと各種保険料の関係

給与明細

賃金引き上げを実施すると、健康保険料や厚生年金保険料といった従業員と会社双方の社会保険料負担が増加します。

 

また社会保険料ほどではありませんが、雇用保険料労災保険料の増加にも繋がります。

 

保険料は給与に応じて計算されるため、賃金引き上げに伴い増加します。会社にとっては直接的な人件費の増加に加えて、これらの社会保険料負担も考慮する必要があります。

 

福利厚生を充実させるメリット

福利厚生

賃金引き上げの代替策として、福利厚生の充実を図ることも有効です。なぜなら賃上げを行なっても、前述のような社会保険料増加や実質的な手取りの上昇は賃上げほどの効果ないからです。

 

一方で従業員が日常生活で利用するようなサービスを福利厚生として取り入れると、会社側は経費として、従業員はサービス費用を手取り額から減らすことなく利用でき、相互WIN-WINの関係になるからです。

 

健康維持と業務効率

健康関連の福利厚生(スポーツクラブ利用補助など)を提供することで、従業員の健康維持・増進につながります。健康な従業員は病欠が少なく、高い生産性を期待できるため現在では「健康経営」として取り組む企業が増えてきています。

 

健康経営についてはこちらの記事もご覧ください。

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固定費の抑制

賃上げは固定費の増加につながりますが、福利厚生は比較的柔軟に管理できます。経営状況に応じて内容を調整しやすいため、長期的な財務計画が立てやすくなります。

 

家族への還元

福利厚生の中には従業員の家族も利用可能なサービスもあります。

 

例えば映画鑑賞の料金割引など、従業員とその家族が利用できることで満足度向上につながります。結果として離職率の低下につながる効果もあります。

 

 

その他、福利厚生サービスを充実させているベネフィット・ワンのサービスも参考にみてみましょう。

 

ベネフィット・ワンでは福利厚生費としてNetflixプランというものがあります。これまで従業員が手取りからNetflixの料金を支払っていたのに対して、福利厚生としてサービスを利用すると無料で視聴することができ、その他のサービスも同時に利用できるといった従業員側のメリットがあります。

 

一方、会社側は福利厚生費として経費計上できるため、法人税の計算からは損金として除外することが出来ます。社会保険料の増加にも繋がらないため、税負担の軽減目的の利用としても可能となります。

 

このように福利厚生の充実は単なる従業員への還元以上の効果があり、会社の成長と発展に寄与する戦略的な投資となり得るため、賃上げだけでなく福利厚生の充実も検討する余地が十分あります。

 

まとめ

賃上げと福利厚生の充実は、どちらも従業員の満足度向上と企業の競争力強化に重要な要素です。

 

賃上げは一度上げると固定費としての負担が増え、外的モチベーション要因であることから短期的なプラスにしかならない可能性があります。

 

一方で福利厚生の充実は、多様なニーズに応えつつコスト効率を高められる可能性があります。企業は自社の状況や従業員のニーズを踏まえ、賃上げと福利厚生のバランスを取りながら、最適な人材戦略を構築することで会社の成長を加速させることが出来るでしょう。

 

 

 

 

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